2011 Fiscal Year Research-status Report
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23530726
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
片桐 資津子 鹿児島大学, 法文学部, 准教授 (20325757)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 社会福祉関係 / 社会学 / 高齢者介護施設 / 介護職の専門性 / チーム介護 / 個別ケア / ユニットケア |
Research Abstract |
初年度は「介護職の専門性とチーム介護のあり方」を探究する基礎固めとして、第1に、ケアの専門性に焦点を当てて、ケアワークに関する先行研究(労働社会学、介護福祉学、老年社会学、ソーシャルワーク研究)の理論的検討をおこなった。 高齢者介護施設で目指されるのは個別ケアである。これは利用者のライフスタイルや生活歴といった個別性を尊重するケアを意味している。しかし現実的には多くのケア職員は、個別ケアを「ケア規範」として理想化するあまり、ケアサービスが際限なくエスカレートしていくケア労働の現実に燃え尽き、絶望して離職してしまう。先行研究を幅広く検討した結果、「こういう個別ケアを提供すべきである」といったケア規範をケア職員に強いるのではなく、ケアする側とされる側の相互行為のなかで、両者の満足が最大になるような理論的枠組みが妥当であるという知見が得られた。 第2に、施設利用の要介護高齢女性の生活支援において重要とされる衣食住のうちの「衣」に着目して、ケアの専門性を描出する実証研究を展開した。ケア労働には、身体的ケアと呼ばれる食事・入浴・排泄の介助のほかに、衣食住といったライフスタイルや人生を共感的に受容する生活支援がある。ケアの専門性の内実を明らかにすることを研究目的として、特養利用者の「衣」の部分、すなわち装いを通じたケアの実態について探究した。 検討の結果、(1)目の前の利用者に対して画一的な装いを推奨して生活の質を高めようとするのはあまり有効ではないこと、(2)目の前の現在の装いだけでなく、過去の装いをも引き出すため、生活歴を把握することが望ましいこと、(3)過去の装いを単に聞き出すだけでなく、利用者自身が肯定的なものとして認識しているような装いを、利用者と一緒に見つけ出す相互行為が要請されることがデータ分析から示された。この研究業績は学術雑誌『ソシオロゴス』に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
介護保険制度の理念が社会一般に浸透し、ケアサービスを受ける側の権利意識が高まっているなかで、「介護職の専門性」に関する包括的な議論が要請されている。高齢者介護施設におけるケア労働が、一般的な労働と異なる点は、その際限なさにある。個別ケアを完璧におこなおうとするとケア職員は燃え尽きてしまう。その結果、離職率が高まり、ケア現場の人手不足が慢性化し、安定的な個別ケアの提供が難しい状況になっている。 こういったケア現場に山積する問題群を受けて、本研究課題では、どうすれば持続可能な個別ケアを授受できる仕組みが作れるのかという研究テーマに取り組んでいる。その分析枠組みとして「こういうケアを提供すべきだ」といったケア規範をいったん脇に置き、ケアする側とされる側の相互行為としてケアを把握し、そのうえで、介護職の専門性のあり方を考究するのが妥当であるという立場を採用するに至った。 本研究計画では、初年度は「介護職の専門性」と「チーム介護」に関する理論的枠組みを提出することを予定していたが、前者に焦点を当てたため、後者については学問的検討が十分に進んでいるとはいえない。しかし、前者のケアの専門性については、上述したような理論的枠組みを打ち立てたうえで、実証研究にも着手できた。この点は当初の計画以上に進展しているといえる。ゆえに「おおむね順調」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目となる平成24年度以降は、ケア労働を「ケアする側とされる側の相互行為である」という前提で、ケアの専門性に関する理論的枠組みを構築していく予定である。その構築過程において、チーム介護の概念は、この理論的枠組みのなかに位置づけられることになる。チーム介護の内実は、ケアする者同士の相互行為であると説明できるからである。さらにいえば、逆に、ケアされる者同士の相互行為に着眼する観点も検討する必要があるだろう。 ケアされる者同士の相互行為に着眼して個別ケアを考究する発想は、これまであまり注目されてこなかった。本研究課題では、これを「グループのもつ力」として重視し、グループのもつ力を個別ケアに直結させていく条件も浮き彫りにする予定である。 要するに、ケアの専門性を個別ケアの実現と定義して、これを理論的かつ包括的に説明する場合、(1)ケアする側とされる側の相互行為、(2)ケアする者同士の相互行為(=チーム介護)、(3)ケアされる者同士の相互行為(=グループのもつ力)、以上の3つの前提が存在することを認識し、本研究課題を推進していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、(1)暫定的な研究成果の学会報告、(2)フィールドとして関わっている特養ホームへの継続調査、(3)研究成果の中間報告としての出版の3つを予定している。 学会報告については、福祉社会学会第10回大会(2012年6月初旬、於:東北大学)で「従来型特養の個別ケアに関する理論研究――地域特性と経営特性への着目」のテーマで自由報告をおこなう。また日本社会福祉学会第60回大会(2012年10月中旬、於:関西学院大学)での自由報告も予定している。さらには、学会参加に限定せず、自主的に企画される小規模の研究会にも必要に応じて参加し、最新の研究成果から刺激を受ける機会を作る。特養の継続調査については、初年度と同じように地道に繰り返し実行する。ケア職員へのインタビュー調査と利用者の観察を深化させることを予定している。よって、研究費は、交通費、謝金、物品費、その他として使用されることになる。
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Research Products
(2 results)