2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530726
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
片桐 資津子 鹿児島大学, 法文学部, 准教授 (20325757)
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Keywords | 社会福祉関係 / 社会学 / 特養経営 / 管理職 / 介護職の専門性 / チーム介護 / 個別ケア |
Research Abstract |
2年目は、新たな対象としてよいケアの提供に向けて先進的な取り組みをしている特養の理事長、施設長、生活相談員といった管理職へのヒアリング調査を遂行した。対象を管理職に限定した理由は、特養経営の視点が必要不可欠だという考察に至ったからである。 前年度までの分析からみえてきたのは、特養において、こういうケアを提供するべきであるといったようなケア規範が支配的になると、利用者のケアニーズが置き去りにされ、パターナリズムに陥る危険性があること、さらには、バーンアウトが多発してケア職員の離職率が高まることであった。そこで、ケア関係に着目し、ケア職員と利用者の相互行為を探るための理論的枠組みを検討した。 その結果、ケア職員と利用者の関係に加えて、利用者同士の関係にも着眼する視点が示された。研究成果の一部は「従来型特養と新型特養の比較研究――グループのもつ力に着目して」と題して、学術雑誌『社会学評論』に掲載された。 しかし同時に課題も残された。ケア関係に力点を置き過ぎると、ケアの質の確保が危ぶまれるのではないか。関係性のなかで遠慮や甘えは生じないか。これらの点を克服するには、ケア規範とケア関係のかじ取り――特養経営――が焦点となる。こうして24年度は、対象を特養の管理職へと拡げることとなった。 現在までのところ、介護職の専門性とは、下部構造と上部構造からなり、ケア規範は前者、ケア関係は後者と関連していることが示された。前者は利用者の生理現象への個別対応と利用者の意思の代弁である。後者にはケア職員と利用者の信頼関係、あるいは利用者同士の「グループのもつ力」の活用が位置づけられた。つまり、ケア規範とは生理学に基づく身体介護に限定されるのが妥当であり、ケア関係とは区別して認識することが、介護職内のチーム介護であれ、異職種間のチーム・アプローチであれ、望ましいという知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2025年以降、団塊の世代は全員が後期高齢者という社会的カテゴリーに位置づけられる。権利意識が高いこの世代から、納得したケアが受けられるEnd-of-Lifeの場として選ばれるには、特養は、よいケアの安定提供が可能なケア専門組織へと生まれ変わる必要がある。ケア現場からのこういった認識を受けて、本研究計画では「介護職の専門性」の内実と「チーム介護」のあり方を探究している。 そのなかで明確になってきたのは、特養の究極的な組織目標が「看取りケア」であるという点である。すなわち、家族を含む利用者にとっての「よい看取られ方」、ケア職員にとっての「よい看取り方」、利用者同士にとっての「よい看取り合い方」を達成するために、特養の管理職は、利用者のよい暮らし、ケア職員のよいケアを土台にして、よい看取り、よい死の実現に力を入れることが欠かせない。特養経営とは、この組織目標を達成するために、ソフト・ハード両面における環境整備をしていくことである。これは澤井敦が『死と死別の社会学』のなかで指摘する「死の共同性」を成し遂げられる場として、特養の存在意義を主張することにつながる。 だが、制度が特養における「死の共同性」の実現の障壁となっている現実もある。厚生労働省は、看取り介護加算について、利用者を個室に移すことを暗に示唆しているからだ。このことは、利用者が特養で看取られるとき、忌避すべき死を多床室から個室に隠すべきだという認識が見え隠れする。これまで一緒に暮らしてきた他の利用者や、毎日ケアしてくれた介護職の人たちに囲まれた状態でこそ、「死の共同性」は可能となり、これこそが特養でのよい看取りにつながるにもかかわらず。 以上のように、介護職の専門性とチーム介護の先にあるものとして特養におけるよい看取りには何が必要かという新たな研究課題もみえてきた。ゆえに当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、看取りの観点も含めて、特養におけるよいケアを考究していく予定である。「終の棲家」といわれる特養において、よいケアとは何であろうか。それは利用者がよい最期を迎えるための人生の集大成を支援することである。この支援はひとり介護職だけで成し遂げられるものではない。チーム・アプローチの視点が要請される。 だが、介護職に限定して、チーム介護の観点から看取りケアを明らかにするばあい、介護職として専門的に支援するとは、何を意味するのか。この点を深く探究するため、研究方法として、尊厳死法、安楽死法が認められている海外の事例に着目し、国際比較の手法で、この研究計画を推進していくのが妥当であると判断した。 4年間でなされる本研究計画は、25年度から折り返し地点を迎える。本研究課題は、当初の研究計画から深化して、特養におけるよいケアとは、よい看取りの実現であること、そして介護職としてEnd-of-Life におけるよい看取りへの貢献とは何かという課題に精緻化された。 特養においてよい看取りを実現するには、介護職は、利用者の身体的・精神的・社会関係的・個人史的・郷土史的といった多角的な側面から、利用者の人生の集大成を実現するためにサポートしていくことが求められる。今年度は、国際比較の手法を用いて、こういったことに関する理論的枠組みを提出することを予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度は、(1)新たなフィールドとして米オレゴン州ポートランド市の医療・介護施設へのヒアリング調査、(2)暫定的な研究成果の学会報告、(3)よいケアを提供する特養についての研究成果の出版の3つを予定している。 まず、新たなフィールドの選定は、住民投票により1997年に可決された尊厳死法が法的効力をもつ終末期ケア現場において、看取りケアの内実がどうなっているのかという問題関心から、質的データとして多様な事例の収集に着手する。ここでは尊厳死法への賛否や倫理的・規範的問題は脇に置き、社会学の観点から、社会的事実を捕捉することにエネルギーを注ぐことになる。 つぎに、学会報告については、西日本社会学会第71回大会(2013年5月11日、於:琉球大学)で「尊厳死法による終末期ケア現場への影響に関する社会学的考察――米オレゴン州ポートランド市の事例より」のテーマで自由報告をおこなう。さらにEASN(East Asian Sociologists Network)カンファランス(2013年11月中旬、於:韓国)での自由報告も予定している。また、学会参加に限定せず、小規模で自主的に企画される研究会にも必要に応じて参加し、最新の研究成果から刺激を受ける機会、あるいは本研究課題の成果を発信する機会を作る。 さいごに出版についてだが、これは現在執筆中である。タイトル(仮)は、『高齢者ケア施設の社会学――特別養護老人ホームの生活・労働・経営』である。 以上から、次年度の研究費の使用計画については、交通費、物品費、その他として使用されることになる。
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Research Products
(3 results)