2013 Fiscal Year Research-status Report
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23530726
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
片桐 資津子 鹿児島大学, 法文学部, 教授 (20325757)
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Keywords | 社会福祉関係 / 社会学 / 特養経営 / 管理職 / 介護職の専門性 / チーム介護 / 自律 |
Research Abstract |
3年目を迎えた本研究では、新たに、特養経営の観点を導入した。ケアの専門性とチーム介護のあり方を探究するなかで、ケア職におけるパターナリズムと労働強化の回避に向けて、管理職がどのような特養経営をしているのかという研究課題がみえてきたからだ。 よいケアの安定的な提供とケア職の労働強化の回避は二律背反であり、この点が特養の経営者に様々なコンフリクトをもたらしている。特養の管理職はいかにしてこれを克服しようとしているのか。この問いを解明するため、国内の模範的な特養を調査対象に加え、管理職へのインタビュー調査を遂行した。 分析の結果、特養内では、第1に「チーム介護」が機能すれば労働強化が防止できること、第2にチーム介護を機能させるのは介護主任や生活相談員によるミドルマネジメントであること、第3にこれは理事長によるトップマネジメントとの連動により持続的に成立すること等が示された。詳しくは「特養経営モデル再考」と題して、学術雑誌『ソシオロゴス』(2014年11月発行・掲載決定)にまとめた。 さらに「ケアの専門性」についての考察を深めるため、日本よりも専門性が徹底している米国との国際比較を試みた。オレゴン州では尊厳死が合法化されており、自らの意思で尊厳死を遂げる高齢者がいる。この点に着目し、米オレゴン州ポートランド市の医療・介護施設を新たな調査対象として加え、日米比較を念頭において入居型のホスピスとナーシングホームで働く管理職とケア専門職へのインタビューを実施した。分析の結果、ケア施設の高額な入居料金と低質なケアを背景に、自律と自己決定という価値観や行動規範を尊重する米国人の姿が確認された。軽視されるケアの専門性と、複数の専門性のあいだに生じる盲点も重大な問題点として確認された。詳しくは「米オレゴン州の尊厳死」と題して、学術雑誌『現代社会学研究』(2014年6月発行・掲載決定)にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
4年間で遂行される本研究計画では、公的ケアサービスの提供において、看護職等のケア専門職との異職種連携とは別に、介護職に限定する立場から、介護職の専門性とチーム介護を実証的に探究してきた。そして、この研究が深まるにつれ、特養経営の重要性がより本質的な問題として明確化されるに至った。 その背景として、第1に公的介護保険制度施行の前後で、特養の置かれた外部環境が激変したことがある。第2に団塊世代高齢者の存在感の大きさが挙げられる。この世代は、権利意識と自己決定を尊重するシニア層であり、自律と自己決定という価値観や行動規範を有し、アメリカ化した新たな高齢者である。第3に特養はこれまでのような閉鎖的な施設ではなく、地域のケア拠点としての働きが求められるようになってきた。認知症ケアや看取りケアに関して地域住民が困っているときの相談、助言、さらには納得的解決への支援である。特に看取りケアへの支援は、今後も増えていくと思われる。人口層の厚みがある団塊世代高齢者は、病院死よりも、むしろ暮らしの延長線上にある施設死を含めた在宅死を選び取ると予測されるからだ。 こういった新しいニーズに対応するために必要とされるのが特養経営なのである。新しいニーズとは「よい看取り」を含めた「よいケア」の提供を意味し、これは、介護職の専門性とチーム介護により達成される。「よいケア」の持続的提供のためには、裁量権をもつ理事長によるトップマネジメントと、ケア現場を任された生活相談員や介護主任によるミドルマネジメントの機動的な連携が要請されることが、先進的な特養の事例分析から明らかにされた。 以上のように、特養におけるよい看取りには何が必要かという新たな研究課題もみえてきた。ゆえに「当初の計画以上に進展している」とも言えるのだが、昨年度見直された計画に照らし合わせ、「おおむね順調」であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、看取りケアの観点も含めて、特養におけるよいケアとは何かを考究していく。この点については、「高齢者ケア施設における看取りケアの理論的研究」と題して、第62回北海道社会学会にて自由報告を予定している。「終の棲家」といわれる特養におけるよいケアとは何であろうか。 介護職に限定して、チーム介護の観点から看取りケアを明らかにする場合、介護職による専門的支援とは、何を意味するのか。この点を探究するため、研究方法として、専門性が徹底化している米国との比較が妥当であるとの認識から、尊厳死法が認められている米オレゴン州の事例に着目し、国際比較の手法で、この研究計画を推進していく必要があると判断した。 4年間でなされる本研究計画は、今年度で集約される。しかし研究を重ねるほど新たな課題がみえてきたのも事実である。 本研究課題は、当初の研究計画から深化して、特養におけるよいケアとは、よい看取りの実現であること、そしてEnd-of-life――急性疾患の場合は「終末期」、慢性疾患の場合は「老衰期」――におけるよいケア=よい看取りを実現するための特養経営とはいかなるものかという課題に精錬された。 特養においてよい看取りを実現するには、介護職には「ケアの専門性」のみならず「ケアの職人性」も必要であるとの声が模範的なケア現場から聞かれた。本研究課題ではケアの専門性について探究してきたが、現実的には職人性なるものも求められている。よいケアに必要とされる「専門性と職人性の融合」とは何を意味するのか。この問いへの回答は、現在の知見では、利用者の身体的・精神的・社会関係的・個人史的・郷土史的といった多角的かつ包括的な側面から、利用者の生活と人生の集大成を実現するためにサポートしていくこととまとめておきたい。今年度は、国際比較の手法を用いて、こういったことに関する理論的枠組みを提出することを予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
使用金額に誤差が出たため。 最終年度となる26年度は、(1)米オレゴン州ポートランド市の医療・介護施設の管理職と専門職へのヒアリング調査の継続、(2)暫定的な研究成果の学会報告、そして(3)よいケアを提供する特養についての本研究テーマにかかわる研究成果の出版準備の3つを予定している。 以上から、次年度の研究費の使用計画については、交通費、物品費、その他として使用されることになる。
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Research Products
(6 results)