2012 Fiscal Year Research-status Report
知的障害者のダイレクト・ペイメントに関する国際比較研究
Project/Area Number |
23530745
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Research Institution | Mimasaka University |
Principal Investigator |
渡辺 勧持 美作大学, 付置研究所, 研究員 (00090423)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
薬師寺 明子 美作大学, 生活科学部, 准教授 (10412230)
島田 博祐 明星大学, 教育学部, 教授 (40280812)
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Keywords | ダイレクト・ペイメント / 知的障害者 / 地域生活支援システム / QOL / 本人主体 / 英国 / カナダ / スウェーデン |
Research Abstract |
研究目的は、1.知的障害者のダイレクト・ペイメントを可能にする支援システム 2.利用する知的障害者の生活の変化 3.福祉制度・政策に及ぼす影響について、スウェーデン、英国、カナダとの比較研究を行い、日本の知的障害福祉への新たな政策を提言することである。 24年度は、研究分担者島田がカナダで実地調査を行った。スウェーデン、英国の実地調査は大学業務、調査者との連携および調査内容の運用を重視した計画変更のため25年度に行うこととした。島田は、2013年3月13日~3月18日にかけてバンクーバーでCommunity Living British Columbia(CLBC)のセンター、ビクトリアで同CenterのVictoria支所を訪れ、Quality service InitiativeのマネージャーAndrea Baker氏等にあらかじめ送付した質問書の8領域の項目についてヒアリング調査を実施した。また、日本において、重度訪問介護制度、他人介護料等の制度を用いてダイレクト・ペイメント制度に近似した本人主体理念による地域社会参加を行っている重度の知的障害者の事例を分析した。 CLBCのダイレクト・ペイメントの支援は、Person-Centeredによる研修を受けたCLBC所属のファシリテーターによって行われる。ファシリテーターが実施の際に、クライアント(利用者)との信頼関係をどのように築くか、ということがニーズを過度な要求、使途変更などの多様な不正防止とつながる、等の議論が行われた。Community Livingは、1960年代に知的障害者の脱施設化をカナダ全土で興し、世界的にも注目された親の活動団体である。ダイレクト・ペイメントの実施主体を政府、利用者団体、サービス提供団体、いずれにするかでその後の活動が影響されることを改めて認識した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.知的障害者のダイレクト・ペイメントについて、23年度、トロント自立生活センター所長、社会変革センターPLANでの理事(重度知的障害者の親)、オンタリオ州個別支給(individualized funding)連合会の理事、24年度、Community Living British Columbia(親の立場で現在ダイレクト・ペイメントを進めている)の調査により、カナダでの現状や今後の方向性などが明らかになった。 2.知的障害者のダイレクト・ペイメントが利用されない理由の背景について、24年度は、日本に焦点をあてて検討した。身体障害者を中心に進められている重度訪問介護制度、他人介護料等の制度は、ダイレクト・ペイメントによる福祉サービスに最も近い。この制度によって社会参加を行っている重度の知的障害者の事例とその活動の分析を行った。 これらの事例は、極めて例外的なものであるが、その活動内容には、将来ダイレクト・ペイメントの制度を重度の知的障害者に適用しようとする場合の諸問題が含まれている。 例えば、支援者と本人が自治体に申請する最初の段階で、いずれの自治体からも、言葉を理解しない知的障害者が「地域で生活したい」と望んでいることがどうしてわかるのか、入所施設で生活した方がいいのではないか、と言われている。このようなダイレクト・ペイメントを主張する人々と現実との大きな落差に対して、支援者は、重度の知的障害者が自分の希望、要望を伝えるためのコミュニケーションの方法、その学習経過、あるいは社会参加している本人の変化などを具体的な行動の内容や回数を記録し、自治体を説得することから活動をはじめてきた。 支援者が行っている本人の要望の具体的な行動による聞き方、地域社会での支援のあり方、地域社会の人々との接触方法などは、ダイレクト・ペイメントの制度の導入にとって極めて重要な知見を与えている。
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Strategy for Future Research Activity |
23,24年度の研究では、知的障害者のダイレクト・ペイメントの欧米の現状を明らかにする一方で、知的障害者のダイレクト・ペイメント制度を論議することが、制度の具体的問題をこえて、「知的障害」をどう考えるか、というより根底にある視点を再検討する必要性が明らかになった。 再構築すべき第一の視点は、意志決定の論理を、言語による思考レベルのものとは別に、行動とその行動を制御する環境を操作することによっても明らかにできるとの発想である。「本人の意向をどう聞き取るか」という本人主体の発想の中心となる命題に対して「言語を有しない知的障害者には、自からの意志、将来の構想を言語で語れないために、ダイレクト・ペイメントは無理である」という従来の見方から、知的障害者の行動を把握できる状況(環境)を設定し、そこで生じる行動を体系的に観察することによって、その人の意向を聞き取り、その願望に沿って生活状況を改善し、本人の満足度等による効果判定を行うことは可能であるとの方向への転換が必要とされている。 第二の新たな視点は、行動による重度知的障害者とのコミュニケーションの具体的な方法を明らかにすることによって、これまでの人類の歴史で、ともすれば疎外され、人権を無視された知的障害者の存在のあり方を、聾者が手話によって、コミュニケーションを獲得し、社会の中での文化を獲得したように、新しい文化を人類の中に産み出すことができるというものである。 25年度は、英国、スウェーデンで実地調査を行い、日本での本人主体の理念を深めて地域社会参加を行っている活動の事例調査によって、ダイレクト・ペイメントの現状と可能性を検討しながら、知的障害者とその人々の支援にあたっている人の活動からダイレクト・ペイメントの制度化に伴って生じている知的障害者への新たな見方に注目してまとめていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度の直接経費は1,048,711円である。 研究代表者 渡辺勧持が1,048,711円を使用する。 内訳:英国への海外実地調査費として83万円を計上する。英国での調査は、カナダと同じように、ダイレクト・ペイメントの制度・現状、現在のダイレクト・ペイメントの制度への問題点、既存の公的サービスと個人給付の関係とそれぞれの長短所、個人給付を受給している知的障害者の特徴、知的障害者のダイレクト・ペイメント受給者数の推移、本人の会の活動との関係、個人給付とその給付内容、給付範囲(余暇以外の就労や居住サービス)について20日間の調査を実施する。(旅費35万円+宿泊費20万円+日当18万円+調査謝金10万円) 国内旅費(研究打ち合わせ及び資料収集) 15万円 文具等68,711円である。
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