2012 Fiscal Year Research-status Report
喪失体験に関わる対人援助者と被援助者の関係解消及び関係修復過程に関する縦断的研究
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23530821
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
増田 匡裕 高知大学, 教育研究部人文社会科学系, 准教授 (30341225)
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Keywords | 対人コミュニケーション / 対人関係の修復 / グリーフケア / 対人支援 |
Research Abstract |
2年間の研究活動は、当初計画通りに進まず、データ収集のための準備のための予備的な調査に費やされた。年度末に質問紙調査を計画した(そのためノートPCと質的分析ソフトウェアを購入した)が、直前にリサーチ・クエスチョンの大幅な修正が必要となり、3年目である平成25年度に実施することになった。進捗が遅い理由は、研究対象者である対人援助者及び喪失体験体験者のグリーフケアに対する考え方が余りにも多種多様であることが確認されたからである。これは、様々なグリーフケアの会合に出席し、幾つかのイヴェントについてはスタッフとして関与することで、「現場の生の声」を汲み上げた結果である。「現場の生の声」に耳を傾ける過程で、本研究と一見似通っている研究が看護学の分野で相当な数実施されている事実を確認したが、看護学での濫発といっても過言ではない多量の研究が実施されていることに伴う弊害も目の当たりにした。研究対象者となり得る人々一部が所謂「アンケート疲れ」と呼ばれる反応を示しているだけでなく、「過剰介入」と呼べる程度まで対人支援者側が被援助者をコントロールしたがる傾向を持っていることに彼ら彼女ら自身が無自覚であるという問題を解決しなければ、社会心理学者の研究である本研究の意義を十分に示すことが難しいということが明らかになった。その一方で、対人関係研究の学会に出席することで、海外の研究者と関係修復を理論的に定義するときにどのようなアプローチが必要か議論することで、幾つかの候補を得ることができ、その適用の準備作業として学生を対象とした対人関係の修復のコミュニケーションに関する予備調査を実施した。これらの活動を通じて、新年度に本課題の趣旨に則した社会心理学者ならではのユニークな研究を実施する準備が完了した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は当初縦断研究を計画していたため、2年目になってもデータ収集を実施していないということは、大変な遅滞であると言わざるを得ない。しかしながら、本課題は喪失体験を扱うセンシティヴなものであるため、リサーチ・クエスチョンに迷いが生じた際に強行すべきではない。また、これまで10年掛けて築き上げた喪失体験者や医療従事者との信頼関係を損なわないようにするのみならず、これらの研究対象者とのラポールが過剰になることで彼ら彼女らにおもねるような研究に陥ることを防ぐ必要もある。2年目においては、5月・12月・3月とデータ収集活動に着手せんとするときに。グリーフケアの実践で実直に実績を作っている人々やグリーフケアに対して思い違いをしている人々など様々な関係者と出会い、本課題のアウトプットがどのようなものであるべきかを再考せざるを得なかった。そのため3度とも調査実施には至らなかった。本研究は特定の団体の活動を支えるアクション・リサーチではなく、グリーフケアに興味を持つ全ての人に発信されるべきものであり、そのため喪失体験者と医療従事者のどちらかの与するものであってはならないことを再確認した。一方、対人関係の修復の研究は理論の面で未開発であるため、その具体的な測定法を含めた理論的なアプローチについても、様々な研究者と議論することが必要であった。面接法か質問紙法かいずれが適しているのかを見極めるのに時間を要しただけでなく、質問紙法を用いた場合は対象者をどのような喪失体験にまで広げるかを検討することになった。面接法や自由記述を用いた分析には分析補助者の確保の問題もあった。以上、主に理論・方法論の困難と課題のアウトプットのあり方の検討で、本課題は当初予定に比べて大幅に遅れている。しかし、この遅れは研究の質を高めるために必要であった。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目の研究活動は、データ収集及び分析と関係修復の理論の構築の2本立てである。データ収集については、ケアする対人支援者の無関心と過剰介入という2つの対立する問題から喪失体験者と対人援助者との関係の修復をとらえる調査を実施する。これまでのフィールドであった周産期の死の現場に限定することなく、喪失体験の幅を広げて、体験者と対人援助者との関係を一般的な現象として分析する。その一方で、これまでのフィールドにおいても、ラポールの取れた対象者との複数の面接調査をして、本研究の当初の目的であり、課題名の「縦断研究」としての側面にも目配りをする。また、対人関係の修復の理論の構築のために、対人関係の修復のコミュニケーションについて資料の収集を並行して行い、データの解釈に活用する。無論、グリーフケアの最前線についても常に情報収集を行う。そのため、対人関係を研究する学問分野の学会や研究会、またグリーフケアのイヴェントへの参加を今年度も積極的に行い、今後もこの研究を実施するための基盤を作る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の研究推進方策に基づき、今年度は様々な手法を用いたデータ収集を実施する。幅広い層のサンプルを対象として質問紙調査を実施するため、研究参加者の募集を社会調査会社に委託する。その一方で、これまで培ってきた人脈を活用して、医療従事者及び喪失体験ピアサポートグループを対象とした質問紙調査も実施する。また、本課題の当初の目的である縦断的研究として、ピアサポートグループからの少ないサンプルを対象に複数回の面接調査を実施する。また構造化されていないデータの分析には分析補助者の協力を求める。そのため、今年度は調査経費として謝金と消耗品費及び通信費の支出がある程度を占める。また、データ収集活動に加え、理論構築とラポール形成・維持のための調査旅費も主たる支出となる。これまでの研究活動で得られた成果は順次公表しながら、様々な立場の人々の反応を受けて、データ分析と考察を行っていくため、それらの活動の経費の支出も行う。
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