2011 Fiscal Year Research-status Report
社会システム正当化の深層過程ー統制感覚と相補的世界観ー
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23530824
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
池上 知子 大阪市立大学, 文学研究科, 教授 (90191866)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | システム正当化理論 / 統制感覚 / 相補的世界観 / 相補的ステレオタイプ / 平等幻想 / 自己効力感 / 統制の所在 / 学歴格差 |
Research Abstract |
本研究では、補償的統制説(人間は個人レベルでの統制感覚の欠如を外在的な力により補おうとするという考え方)に基づき、(1)環境や人生に対する統制感覚を阻害する状況に置かれたとき、外在的な力により相補性原理が働き、格差や不平等が解消されるであろうという期待が高まる、(2)個人的統制感(自らの力で社会を変え得るという感覚)を強めると、相補的世界観にもとづく平等幻想の生成が抑制され、人々は格差や不平等の解消に動機づけられるとする2つの理論仮説を検証することを目的としている。 平成23年度は、上述の目的達成のための第一段階として、研究の基本的前提となる統制感覚と相補的世界観、及びシステム正当性信念との関係を質問紙調査により検討し(研究1)、次に、これらが格差是正動機にどのように影響するかについてシナリオを用いた実験により検討した(研究2、研究3)。研究1では、統制感覚に関連する「自己効力感の欠如」「コントロールの内在化」「コントロールの外在化」のそれぞれに対応する下位尺度を構成し、これら下位尺度と相補的世界観及びシステム正当性信念との関連について相関分析を行った。その結果、「コントロールの内在化」と「相補的世界観」の間に有意な正の関係が認められ、「自己効力感の欠如」と「コントロールの外在化」の間に正の関係、「自己効力感の欠如」と「システム正当性信念」の間に負の関係が認められた。これらより、人は相補的世界観を信ずることによって努力の効果を信じられるようになること、現行システムの正当性を信じることによって自己効力感を維持していることが示唆された。研究2と研究3は、学歴による雇用格差を素材にしたシナリオ実験を実施し、相補的世界観が格差への感受性を高め、格差是正への動機を強める反面、相補的事例により幸福度における平等幻想が生成されると格差是正への動機が抑制されることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の理論的前提を予備的研究により確認できたことにより所期の目的は一定程度達成できた。しかし、特性としての統制感覚を測定する尺度の検討は行えたものの、状態としての統制感を測定するための尺度の検討が十分できていない。ただし、これに代わり実験的手法により主観的統制感を一時的に操作し、その効果を間接的に検証することはできた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度実施した研究2、研究3の結果が、主観的な統制感覚の一時的変化によって引き起こされたものであるのかを、直接検証する必要がある。したがって、次年度は状態としての統制感覚を測定する尺度の開発に着手する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当せず。
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