官立高等学校設立史の研究――「学都」論序説――

2011 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 23531029
• Research Institution: Doshisha University
• Principal Investigator: 田中 智子 同志社大学, 人文科学研究所, 助教 (00379041)
• Project Period (FY): 2011-04-28 – 2015-03-31
• Keywords: 日本近現代史 / 教育史 / 高等教育 / 都市

Research Abstract

当初計画した通り、北海道・東北・関東ブロックに属する旧制高等学校全５校に関する調査を実施できた。それぞれ、Ａ道県会議事録、Ｂ市会議事録、Ｃ地元紙、の所在および公開状況を確認し、必要史料の収集を行った。また、先行研究にあたる文献を特定・収集し、基礎的事実を整理した。以上の作業を通じ、旧制高校に関わる史料所在概況・研究史の大体の傾向が把握でき、個別的に行われてきた研究を総合・俯瞰するための準備方法をまずは習得できた。以下、各校に即して具体的進捗状況と留意点を記す。　(1)北海道帝大予科：道議会図書室、道立文書館、札幌市議会図書室で調査。Ａは製本・配架され、利用至便。これを収集完了。札幌市は公文書館設置計画を有するが、現公開態勢は芳しくない。(2)山形高等学校：山形県議会図書室、同県立図書館、山形市役所で調査。Ａの収集（完了）、Ｃの収集。市役所は公開体制未確立だが、要求には対応する態勢あり。(3)弘前高等学校：弘前大学図書館、弘前市立図書館、同市役所、青森県議会図書室、同県立図書館で調査。Ｃの収集。Ａは一部議事録の所在が不明。Ｂに関わる弘前市は議会図書室自体が閉鎖中。大学が旧制弘前高にアイデンティティを有し、関連史料を所蔵する点が特徴。(4)水戸高等学校：公文書・議事録・地元紙の収集・整理・公開体制が整う。Ａ・Ｃが茨城県立歴史館閲覧室に集中し便利。これらを収集。財界人・内田信也をはじめ、知事・政党代議士・県教育界などのキーパーソンを析出。(5)浦和高等学校：水戸同様、Ａ・Ｃの収集・整理・公開体制が整い、埼玉県立文書館に集中していて便利。これらを収集。同じく水戸同様、政・財界の大物・飯野喜四郎などのキーパーソンを析出。　以上を通じ、大正期の旧制高校設置に関し、財界人の関与度合の差を指摘できる。今後、どのような勢力が交錯して事態が進むのかを構造的に分析し、地域偏差を考える際の一指標を得たといえる。

Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

第一に、史料収集上の問題点が挙げられる。現地調査を実際に行った結果、道や県における公文書・議事録は、それなりに公開体制が整いつつあると判断した。しかし、市のレベルになると、公文書や議事録の整理・公開体制が整っておらず、原史料に容易にアクセスできないケースが多いことがわかった。　また、閲覧可能な史料についても、当初の見通しよりも通覧に時間がかかり、必要な作業を残すこととなった。　全体的な背景として、本年度は、東日本大震災の影響から、交付金が減額される可能性があるとの通達があった。そのことにより、当初は少々調査を控え、スケジュールも後ろ倒しに組んだ。そのため、夏休みを有効に活用することができず、調査が春休みに集中してしまい、調査完了に至らなかった。

Strategy for Future Research Activity

一年目の研究を終え、史料調査の勘所をつかむことができたので、相対的にスムーズな調査を行うことができると考える。特に既調査地における市会レベルの議事録の収集方法については、今回先方と顔をつなぐことができたケースもあり、工夫が可能である。　また、達成度欄に記したような理由から今年度実施できなかった夏休みの史料調査を精力的に行う。

Expenditure Plans for the Next FY Research Funding

当初の計画案にも、必要に応じて前年度の調査対象地を再訪する旨記したところであるが、今年度調査を行った札幌・山形・弘前・水戸・浦和について、いずれも再調査を実施する。特に、市会レベルの動向に関わる史料収集を心がける。　次年度の調査対象とした北陸・中部ブロックの５学校（新潟・富山・第八〔名古屋〕・松本・静岡）についても、予定通り調査を行うが、先の５都市と合わせて効率的な旅程を組む。また今年度の反省を踏まえ、いずれに対しても、可能な限り複数回の訪問を実施し、史料調査の経験値を高める。