2012 Fiscal Year Research-status Report
キャリア教育における「非就労」の位置づけに関する研究
Project/Area Number |
23531112
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
新谷 康浩 横浜国立大学, 教育人間科学部, 准教授 (10345465)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
眞鍋 倫子 中央大学, 文学部, 准教授 (00345323)
居郷 至伸 横浜国立大学, 学内共同利用施設等, 講師 (70586396)
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Keywords | キャリア教育 / 非就労 / 学校から職業への移行 |
Research Abstract |
本研究は「広義」の非就労が大学で行われているキャリア教育でどのように扱われているのかを実証的に明らかにすることを目的としている。研究手法はキャリア教育担当者を対象とした半構造化面接による聞き取り調査を中心に、既存資料やキャリア教育のシラバスなどの検討も行うものである。24年度は、主に3つの課題に取り組んだ。 第1に、日本的移行モデルがあてはまらないとされる芸術系の聞き取り調査を補足し、その分析を行った。その結果、芸術系の場合、「就職」だけが進路のイメージではなく、就職する場合にも専門的な技術を生かすことが目指されていた。その一方で聞き取り調査によると、専門性の中に社会的能力が入ることで、社会的な能力がないことが専門的な能力の評価にも影響を及ぼす可能性があることが示唆された。また対価が安くとも専門的な技術を使うことで当面の暮らしを成り立たせることができることをヒアリング対象者は学生の欠点と捉えていた。この知見を眞鍋(2013)で論文としてまとめた。 第2に、キャリア教育のテキストの中で正規雇用以外の広義の「非就労」がどのように扱われているのかを探索的に分析した。その結果、テキストによって非就労への評価が異なっていることが明らかになった。この知見は、新谷(2013)で論文としてまとめた。 ところでこのような非就労の構造は、当初グラデーションとして捉えていたものとは異なるものである。そのため、多元的に非就労の構造を捉えるために「就労/非就労の境界に関するアンケート調査」を作成し学生対象に予備調査を行った。その分析結果によると、学生の場合、就労と非就労の境界を地位ではなく行為ととらえていた。行為が地位を獲得する手段として認識されている可能性を示すものであるとともに、閉塞感の原因がそこにある可能性も示唆するものである。この知見を日本教育社会学会第64回大会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
何をもって就労というかという就労/非就労の区分は、管見の限りではシャドウワークなど部分的な境界線の問い直ししか見当たらなかった。我が国においてキャリア教育は「間断なき移行装置」としての役割がマクロに求められながらも、個々人の望ましいキャリアを構築するという個別性を理論の根底に含意している両義的なものである。その両義性が大学の中でどのように位置付けられているのか、それは学部によって異なるのかという大学の構造をキャリア教育の観点から明らかにするものであるとともに、キャリア教育担当者がどのようにこの両義性に向かい合っているのかという制度内の専門家の位置づけを明らかにする試みでもあることが聞き取り調査と分析を通して明確になってきた。またこの研究を進めていく中で、キャリア教育にみられる両義性の問題が、学部教育の変質にもパラレルに表れている可能性を示唆している。そのうち工学部の教育の変質については、新谷(2012)にまとめた知見に派生することができた。 このように教育社会学がキャリア教育の潜在的価値と潜在的機能を明らかにするという教育社会学本来の研究の在り方を提示できるものであることが明確になりつつある。このような意義の高さがわかりつつあるのでこの研究は当初の予定通り研究が進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に本年度まで行った芸術系を中心とした聞き取り調査の補足調査を行うとともに、それを踏まえて芸術系のキャリア教育が孕む両義性をキャリア教育担当者がどのように認識しそれに対応しているのかを分析・考察する。 第二に暫定的に行ったキャリアテキストの分析の知見を踏まえ、大学全体をサンプルとしたキャリアテキストの分析を行う。調査対象は全大学であり、インターネットに公開されたキャリア教育のシラバスを昨年までに収集している。これをもとに、そこで採りあげられているキャリアテキストに含まれた「非就労へのまなざし」の分析を行う。 第三に昨年実施した学生を対象とした予備調査を精緻化し、第二次予備調査を行う。これをもとに、大学の学部別・地域別分析に耐える調査票を完成させる。 第四に、これまでの知見をもとに最終報告書を作成する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初予定していた聞き取り調査の回数を減らしたことにより、平成24年度の残額が生じた。しかし上に示したように、理論的検討を行うことを優先したためであり、研究推進に遅滞が生じているわけではない。次年度の研究費の使用につき、以下の研究費を使用する。 ①補足の聞き取り調査・資料収集にかかわる調査研究旅費、資料収集文具など消耗品費。 ②収集した資料整理、聞き取り調査のテープ起こしなどのためのアルバイト謝金とそれを保存する記録媒体などの消耗品費、コピー代。 ③先行文献や資料収集の費用。 ④これまでの研究成果を公表するための学会参加旅費。 ⑤最終報告書を作成するためのアルバイト謝金、印刷費。
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Research Products
(5 results)