2011 Fiscal Year Research-status Report
海外業務経験と若年層のキャリアイメージ-青年海外協力隊日本語教師への調査から-
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23531117
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
平畑 奈美 滋賀大学, 国際センター, 准教授 (70520906)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西山 教行 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (30313498)
森山 新 お茶の水女子大学, 人間文化創成科学研究科文化科学系, 教授 (10343170)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 社会学 / 国際経験 / キャリア形成 / 青年海外協力隊 / 日本語教育 |
Research Abstract |
研究課題の主旨に従い、まず先行研究の収集から行った。若年層のセルフイメージ、キャリアプラン、各種キャリア育成の状況などについて、主として国内の文献を中心に収集した。近年の厳しい社会状況を背景とする若年層の保守化、海外生活への抵抗、その一方で「生き残りのために」特殊スキルの獲得を目指して海外を志す層が存在すること、などを確認した。 また、青年海外協力隊日本語教師の実態を把握するため、年に1回都内で実施されている、JICAの同プログラム派遣前後研修に参加し、観察調査も行った。 続いて、青年海外協力隊日本語教師経験者、派遣前候補生に対するインタビューを開始した。インタビューは個別に、一人2~3時間をかける詳細な聞き取り調査で、すでに13人を終了し、ほぼ予定通り推移している。13人のうち3名が派遣前、10名が派遣後の隊員である。インタビューは25名程度まで続行する予定ではあるが、現在までのところで、(1)彼らが海外を志した理由としては、モラトリアム志向よりは、明確なキャリア形成がより強く意識されている、(2)しかし帰国後の隊員には、海外経験がそれほどキャリア形成に有効だったという認識はなく、キャリア形成への困難を感じている場合が多い、(3)一方、海外経験の価値として強調されるのは、日本への意識の変化であり、日本への肯定的評価、および自己評価の高まりである、といった事象が浮かびあがった。今後この事象を踏まえ、海外の現場で活動中の隊員に対する調査を行う予定である。 インタビュー調査と並行して、より大量のデータを分析できるアンケート調査も進めている。派遣前、および帰国後の青年海外協力隊日本語教師を対象とした同一の質問紙を作成し、すでにパイロット調査を終えた。この結果を見て質問紙を調整し、インターネットを利用した本調査を推進する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最終的な目的は「若者の海外離れを食い止めることへの貢献」であり、そのために、海外経験というものを「自らの人生に関与しうるもの」として若年層に意義づける道筋を示すことである。海外経験の魅力を、商業的に訴えるのではなく、社会背景を考慮したライフストーリーの中で客観的に示していく必要がある。現在までに行ったインタビュー調査によって、この目的を実現できる見通しが得られた。 まず、インタビュイーが海外を志した背景に、キャリア形成への期待があったことが明らかになった。このことは、「国際協力、人道援助」が目的という先入観を持たれがちな青年海外協力隊員を、海外に興味を持たない若者にも共感可能なものとするだろうと思われる。そして、インタビュイーの記述に示された海外経験の葛藤と現実、母国日本への感情の変化、特に一部のインタビュイーの語る、人生そのものへの肯定的評価の発生は、海外志向のない若年層にとっても、記銘される重みを持つだろう。 また、現在までの調査によって、海外を志向する若者に、帰国後の収入確保への不安があるということも浮かび上がった。つまり、若者に対してどのような啓蒙的活動を行ったとしても、雇用環境の柔軟性が確保できなければ、「帰国後難民」を形成するだけであるということで、社会意識変革のための活動の必要性も示唆されたことになる。 こうした見通しが得られたことは、具体的な作業の進捗と同程度に重要であり、これによって残りの期間の調査の方向性を絞り込むことができた。 ただし、インタビュー調査が順調に進展しているのと比して、アンケート調査の進行はやや遅れている。パイロット調査の結果、質問紙の修正の必要性が予想より大きかったためである。また、研究分担者との協議は進めているが、分担者の調査計画は、調査対象者であるフランス語母語話者教師の確保が難しく、こちらも若干の遅れが見られる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初からの計画に従い、平成24年度は、アンケート調査の続行、また、国内、海外の青年協力隊員および元隊員を対象としたインタビュー調査を進める。 研究分担者・協力者との議論も継続中で、現在までの各自の調査結果を持ちより、平成24年8月に名古屋で開催される、日本語教育国際研究大会(ICJLE)にて、パネルディスカッションを行うことも決定した。ディスカッションのテーマは、「日本語教師養成は『グローバル人材』育成手段として機能しうるか」であり、若年層に海外での日本語教育経験(ないし、自国語の教育経験)を積ませることが、若年層のグローバルキャリア形成に与える影響を、日本、アメリカ、フランスの事例から検討する予定である。 計画進行にやや遅れの生じていた、研究分担者によるフランス語母語話者教師へのインタビュー調査も、平成24年には計画通りの進行状況に戻す予定である。インタビューには研究分担者だけでなく可能な限り研究代表者も同席し、研究者間の齟齬の生じないよう調整を行っていくものとする。 また、平成24年度には、JICA青年海外協力隊技術顧問を兼務する研究者を研究分担者に加えた。これにより、より実状に即した青年海外協力隊の調査・分析が可能となると考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の通り、新たに追加した研究分担者への追加予算配分を行う。分担者は、JICAの青年海外協力隊日本語教師派遣事業について、その変遷と意義、今後とるべき方策をまとめる予定である。主に文献調査が主体となり、資料収集費、翻訳費の発生が見込まれる。 それ以外の2名の研究分担者については、当初の計画通りの予算配分を行う。研究代表者は、平成24年度は、海外にて活動中の青年海外協力隊員、および、元隊員へのインタビュー調査を行う。海外渡航費、海外でのインタビュー謝金が発生する。また、文献収集費、国内でのインタビュー謝金、インタビューの文字化費用、WEBアンケート作成費、アンケート分析費用なども必要となる。
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Research Products
(5 results)