2011 Fiscal Year Research-status Report
地域主権をめぐる葛藤と社会的労働市場の持続的発展に関する教育・労働社会学的研究
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23531139
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
筒井 美紀 法政大学, キャリアデザイン学部, 准教授 (70388023)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
本田 由紀 東京大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (30334262)
櫻井 純理 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (10469067)
長松 奈美江 関西学院大学, 社会学部, 准教授 (30506316)
阿部 真大 甲南大学, 文学部, 講師 (60550259)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 社会的労働市場 / 持続的発展 |
Research Abstract |
解明課題は次の2点である。第1、社会的労働市場の構成要素のいかなる連関が、持続的発展に繋がっているのか。第2、なかなか成果の出ない社会的労働市場の持続的発展を正当化し物事を進める現場の論理はいかなるものか。これらを解明すべく初年度は、2つの基礎自治体の聴き取り調査とジョブ・カード制度の調査を実施した。 解明課題の第1について。調査対象たる基礎自治体における、社会的労働市場の持続的発展は、基礎自治体のキーパースンが「扇の要」となって、就労・生活支援の構成要素(NPOや社会的企業、自治体の各部局など)を繋いでいることで「もっている」部分が小さくない。その繋ぎ方は、根拠法に基づく行政組織の各部局の執行のあり方自体を根本的に変更するには至らない状態での「連携」であり、それゆえ、通常1~3年程度の各種助成金やイニシアチブが終了するごとに、新たに繋いでいかねばならない不安定さを抱えている。その不安定さのなかでNPOや社会的企業は、組織自体の存続、事業の成果、基礎自治体(のキーパースン)とのヒューマンネットワークを絶やさないこと、の3つを秤にかけながら行為しており、その結果として生じるコンフリクトも少なくない。 解明課題の第2について。なかなか成果の出ない、社会的労働市場の持続的発展を正当化し物事を進める現場の論理は、大事な政策に取り組むための外部予算が獲得できたことと、アウトリーチが困難な人びとにどれだけ手が届いたか(就労実績を伸ばしたいならエンプロイヤビリティの高い人を対象にすればよいだけだ)という主張の組み合わせである。 ジョブ・カード制度については、活用企業の追跡的聴き取り調査と「事業仕分け」議事録・会議資料の分析から、中小企業現場でのプラスの効果が正当に評価されなかったものの、企業社会のOJT信奉とでも言うべき社会的規範の強さが、かろうじて制度を存続させたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2つの基礎自治体について見ると、関東に比べて関西の調査の方が進捗している。その理由としてひとつには、研究会メンバーの2名が大阪パーソナル・サポート事業(調査対象基礎自治体は事業実施主体の中心的存在)の研究部会委員であるため、関係するNPOや社会的企業との関係づくりや聴き取り調査依頼がより行いやすいことが挙げられる。その結果、「少なくとも1回は聴き取りに行く」という「つぶし込み」と、定点観測的・断続的な聴き取りが並行して進められてきた。そこで、ここまでの調査研究については2012年5月の社会政策学会にて報告をする。これに対して関東の基礎自治体の調査は、3.11東日本大震災の影響で、関西よりもいっそう当該自治体が被災者支援・被災地支援に諸資源を投資しなければならず、そうした先方の事情を勘案し、また、調査研究の当初の枠組みを再考しながら進める必要があった。とは言え、幾つかのNPOや社会的企業に関しては、研究会メンバーは半ば当事者的に深くコミットしており、ミーティングや実施事業における掘り下げた観察や聴き取りを鋭意進めている。その分、もう少し手広く「つぶし込み」を進めることが必要で、そのなかには基礎自治体の各部局での聴き取り・資料収集も含まれている。ジョブ・カード制度については、活用企業の追跡的調査と中央での制度変更に関して、『大原社会問題研究所雑誌』644号の特集論文としてまとめ、一区切りがついたところである。以上より、現在までの達成度は「おおむね順調」であるとの自己評価を下すものである。
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Strategy for Future Research Activity |
大きくは3点ある。第1、関西調査は、社会政策学会報告での質疑も踏まえつつ、基本的にこのまま進捗させる。第2、関東調査は、少しピッチを上げて、精力的に「つぶし込み」を実施する。第3、ジョブ・カード制度調査は、制度変更によって実施の中核機関となった労働局・ハローワーク調査に取り組む。 第1点について。社会的労働市場の持続的発展は、基礎自治体のキーパースンが「扇の要」となっている面が大きいにしても、そこにはさまざまなコンフリクトが存在している。それぞれのアクター(自治体の部局、NPOや社会的企業)がもつ論理をより丁寧に析出し、行政法上の公法関係との合致やズレ、事業のパフォーマンスや「成果」との連関を解明していく。 第2点について。研究を進めるにあたってのリサーチクエスチョンや視点は関西調査と同様である。「つぶし込み」を進めることで、両基礎自治体の比較がより体系的に可能となるようにもっていく。 第3点について。2011年度より、ジョブ・カード制度の実施中核機関は日本商工会議所から労働局・ハローワークへと変更された。ハローワークの組織・人員体制は制度変更に適っているのか、制度変更によって事業がどのような影響を受けているかを明らかにすべく、次段階の聴き取り調査を実施する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の承認時には130万円であった第2年度の直接経費は、第1年度(今年度)の未使用額が若干加わったが、支出計画はほとんど不変である。すなわち、研究会出張と聴き取りのテープ起こしが大半をしめる予算の支出構造は変わらず(調査そのものの出張費は、メンバーの居住地・勤務先地からして微々たるものである)、第1年度の途中で関西チームに研究協力者が加わったため、その出張費を管理する研究分担者への予算配分を多少多めにしたこと、関西チームへのテープ起こし謝金を多少多めにしたことが、変更点と言えば変更点である。 第1年度の未使用金額は、引き続きN県でなされるジョブ・カード制度調査に充当される。もし可能であれば同時に実施しようと考えていたハローワーク調査(制度変更後の実施中核機関)が第2年度になされるもので、N県への旅費(交通費ならびに宿泊費)はそれ相応にかかるものである。 なお、第3年度(最終年度)に、研究分担者の1人が海外留学をすることになった。本研究の最終年度は、報告書執筆に向けた研究会での議論と執筆が中心になること(足りていない調査があれば実施するが)、当該分担者は特定の調査プロジェクトで海外滞在するわけではなく、「勉強」が目的であることから、そのまま分担者を続ける。その分担金自体は大幅に減らし(研究会出張の費用が不要となるので、物品費と通信費を多少確保する)、再配分することを予定している。
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Research Products
(4 results)