2012 Fiscal Year Research-status Report
大型ハドロン衝突型加速器時代の超対称性と余剰次元理論
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23540289
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村山 斉 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 教授 (20222341)
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Keywords | 国際研究者交流(欧米・アジア) / 国際情報交換(欧米・アジア・中南米) / 加速器実験 / 余剰次元 / 超対称性 |
Research Abstract |
LHC 実験がすすみ、ヒッグス粒子が発見されたが、一方標準模型を超える物理の存在はまだヒントすらない。ヒッグス粒子の性質の詳細測定はまだこれからだが、現在では標準模型の予言と誤差を含めるとほぼ合っていると言ってよい。更に、ヒッグス粒子の質量が126 GeVであることから、最も簡単な超対称性の模型で期待される質量よりもかなり高めに出ている。これを総合すると、超対称性粒子は、階層性問題を解くために期待されていた軽い質量には存在せず、もっと重く、ファイン・チューニングが必要とされる領域に入って来る。残念ながら当初の研究実施計画で期待していた情報は出て来ていない。 そこで別の問題として、超対称性粒子が見つかっていないのは、予想しなかった質量スペクトルのため実験的に見えにくくなっているためか、という問題に取り組んだ。粒子のスペクトルが縮退していると実験的に見えにくいことは Stephen Martin などの仕事で知られていたが、いわば「手で」勝手にスペクトルをいじるため、理論的な整合性が不明であった。特にゲージ粒子のパートナーと、物質粒子のパートナーが縮退する理由が特になく、逆に一種のファイン・チューニングとなっていた。 H24年度は野村、飛岡、白井と四人で、縮退したスペクトルが出る簡単な模型を発見した。新たな空間次元がオービフォルドという線分である場合、第零近似では、超対称性粒子が全て同じ質量になる。特にゲージ粒子のパートナーと、物質粒子のパートナーが縮退することが自然に理解できる。更に摂動の効果を入れると縮退は解けるが、それでもスペクトルはかなりコンパクトになっており、実験的な制限がゆるくなる。つまり割と軽めであっても LHC で見つかっていない可能性がでてきた。これを「コンパクト超対称性」と呼んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請書で「制限が強くなった場合の研究計画は上に書いたものを継続。つまり発表されたある模型に対する制限を他の興味深い模型への制限へ翻訳していく。更に宇宙論、地下実験、宇宙線等と絡めた多角的な議論に深めていく。」と提案。この提案通り実験グループが発表した「ある模型」(標準的なスペクトルを持つ超対称性粒子)への制限を我々の提案した「コンパクト超対称性」ヘの制限へ翻訳した。その結果期待通り質量の下限が弱くなり標準的なスペクトルよりもファイン・チューニングの少ない模型となっていることを示した。また宇宙論的な制限、つまり暗黒物質の量が観測された量を超えないことを要求し、実際にその要求が満たされていることも示した。 一方 H25 年度に予定した「IPMU で天文からひも理論、数学までの研究者が共存する環境を最大限に活用し模型の可能性を広く多角的に探っていく。」に既に踏込み、ヒッグス粒子を含めて一般に対称性が自発的に破れた系の統一的な理解ができる理論的な枠組みを発見。対称性が自発的に破れた系では、質量がゼロの粒子が破れた対称性の数だけ現れるとことが知られており、等質空間の幾何学で記述されて来た。しかし有限温度、有限密度の系ではローレンツ対称性がなく、一般に南部-Goldstone 粒子の数が少なく分散関係も線形でなく異常な例が多く知られていた。渡辺と二人、数学者の助けを借り、等質空間に presymplectic な構造が入ると「異常な例」がきちんと理解できた。これは素粒子物理学だけでなく天体物理学、物性物理学、原子物理学など幅広い応用が出来るものでPhysical Review Letters の Editors’ Suggestion と Physics Synopsis に選ばた。実験結果が期待通りでない厳しい状況の中で、うまく方向を転換し、有意義な研究成果が出せたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はヒッグス粒子の質量に注目し、超対称性模型でありながら、126 GeV という値がファイン・チューニングなしで説明できる模型を構築することを目指す。今まで Next-to-Minimal Supersymmetric Standard Model (NMSSM) という模型でヒッグス粒子の自己相互作用を強くし、ファイン・チューニングを避けようとする仕事はなされて来たが、それほど改善する訳ではないことが知られていた。問題はヒッグス粒子の質量を充分高くするためには自己相互作用をかなり強くする必要があり、繰り込み群で自己相互作用がすぐさま発散し、大統一理論等に繋げることが出来なくなるためである。 最近 Ruderman, Lu, 飛岡と四人で、更にもう一つの singlet を入れるだけで、non-decoupling の効果があり、自己相互作用を簡単に大きくできることを見つけた。しかもこの新しい singlet の質量がかなり高くても、ヒッグス粒子のファイン・チューニングに寄与しないという理論的に面白い構造を持っている。現在この模型の現象論を詳しく調べている。 そして対称性の自発的破れの一般論については、内部対称性だけでなく時空対称性の場合に一般化し、更にはギャップ(質量)を持つ励起状態についても議論を拡げようとしている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初予定通り
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