2011 Fiscal Year Research-status Report
量子スピン鎖における新奇相の精密探索とレベルスペクトロスコピー
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23540388
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
岡本 清美 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (10114860)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
利根川 孝 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (80028167)
野村 清英 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70222205)
中野 博生 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 助教 (00343418)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 量子スピン系 / 量子相転移 / 低次元系 / 数値的対角化 / レベルスペクトロスコピー |
Research Abstract |
我々はXXZ異方性のある最近接相互作用とオンサイトの一軸異方性のあるS=2スピン鎖の問題を詳細に調べ,精密な相図を得た.このモデルに関しては20年前に押川によりintermediate-D (ID)相と呼ばれる相の存在が示唆されたものの,その後1990年代後半の密度行列繰込み群(DMRG)を中心とする数値的研究でID相の存在は否定されてきた.我々は課題名にある「レベルスペクトロスコピー」の手法を用いて数値的にこの問題を研究してID相の存在を示し,過去のDMRGなどの研究でID相が発見出来なかった理由も明らかにした.我々の成果は「レベルスペクトロスコピー」の手法があって初めて達成されたものであり,この手法の卓越性を示すものである. 我々はS=1/2三角形スピンナノチューブの問題にも取り組み,基底状態や飽和磁化の1/3の磁化プラトー状態を詳細に調べた.特に後者ではspin imbalance相と名付けた新しい量子相を発見した. また,分担者の中野が中心となってレベルスペクトロスコピー法に必須であるハミルトニアンの数値的対角化を大規模化することもおこなった.この成果をフラストレーションのある2次元反強磁性量子スピン系である三角格子や籠目格子に応用し,籠目格子の磁化過程において従来磁化プラトーと見なされていたものは実は「磁化ランプ」という新現象であることを発見した. その他,励起ギャップのある量子スピン鎖における磁化や比熱の異常な温度変化とランダムネスの問題も厳密に解けるモデルを用いて調べた. また,この方面の理論家と実験家が集まる「量子スピン系研究会」を2012年2月に福井大学で開催し,分担者の利根川が議長を務めた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
XXZ異方性のある最近接相互作用とオンサイトの一軸異方性のあるS=2スピン鎖の問題に関しては,1990年代後半から長い間存在が否定されてきたintermediate-D (ID)相の存在を示したことは研究の進展の順調さを示している.この発見に刺激された他グループもあり,量子エンタングルメントを用いて調べたが,確定的結論は得られていない模様である.ここでも我々の「レベルスペクトロスコピー」手法の卓越性が際だっている. 三角形スピンチューブに関しても新しい「spin imbalance相」を発見し,研究課題のキーワード「新奇相の精密探索」にふさわしい成果を得た.最近のarXivでは我々の系とやや異なる系でもspin imbalance相を発見したという報告もある. ハミルトニアンの数値的対角化の大規模化(すなわち,出来るだけ大きい系が対角化できるようにする)は中野が中心となって行い,対角化できるスピン数は世界最高水準にある.「研究実績の概要」に記した2次元反強磁性量子スピン系である籠目格子における磁化ランプの発見にはスピン数42までの数値的対角化が必要であった.これは中野の大規模化があって初めて可能になったものであり,世界の他グループの追随を許さないものである.この成果は多方面の関心を呼び,中野はこの件に関する招待講演を数件行い,日本物理学会誌の「最近の研究から」における解説記事も執筆した. 本科研費による論文数などを見るに,査読付論文20篇(他に掲載予定2篇,執筆中も数篇),講演も38件で招待講演もある.したがって,上に記した成果の独創性・卓越性とあわせて,研究は順調あるいは以上の進展を見せていると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
XXZ異方性のある最近接相互作用とオンサイトの一軸異方性のあるS=2スピン鎖の問題に関しては新奇なID相の存在は確立したが,その相の特徴的性質を精密に調べるのは容易ではない.我々はモデルを多少変形してID相が今のモデルより広範囲で現れるようにしてID相の物理的性質を調べることを始めたところである.このようなモデルではDMRGによって種々の性質を調べることが可能であると考えられる.また,今までは主に磁化がゼロの状態を調べていたが,この系では磁化曲線において飽和磁化の1/2のところに磁化プラトーが現れる場合があると予想される.プラトーが現れる領域の精密決定にもレベルスペクトロスコピーは適用出来るので,プラトー相図を描くことも予定している. スピンチューブに関しては,飽和磁化の1/3における磁化プラトー状態で,正三角形を二等辺三角形に変形させたときに,プラトー幅に関して今まで知られていない奇妙なタイプの振舞いが見られる.この振舞いはチューブではない他の系でも見られることが予想されるので,その系についても調べて奇妙な振る舞いの本質を明らかにしたい. ハミルトニアンの数値的対対角化の大規模化は応用範囲がきわめて広く,フラストレーションのある2次元量子スピン系については独壇場の感がある.種々のモデルに適用して新たな量子相。量子相転移の発見解明に努力する. 利根川が中心となって毎年開いている「量子スピン系研究会」はフランクな雰囲気の中でアイディアや予想の段階から意見交換や議論ができる会議になっている.実際,本科研費の主要テーマの1つであるS=2量子スピン鎖の成果もそのような意見交換や議論の中から発展したものである.H24年度もこの会議は開催予定にしている.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「収支状況報告書」の「次年度使用額」164,657円の内124,360円はH24年3月の出張費としてH24年4月に支払われた.残りの40,297円は出席予定にしていた大阪大学でのセミナーを欠席した(授業の都合による)ために生じたものであり,H24年度に請求した研究費と合わせて研究打合せ等の旅費に使用予定である. 代表者岡本の所属機関所在地は東京都であり分担者は兵庫県2人と福岡県1人であるので,研究打合せのために旅費を使用する.加えて,学会や研究会出張にも旅費を使用する.また,物品費は計算機周辺消耗品などに使用の計画であり,50万円を超えるような物品の購入は予定していない.
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Research Products
(58 results)
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[Journal Article] Magnetic-Field Induced Quantum Phase Transitions in Triangular-Lattice Antiferromagnets2011
Author(s)
T. Ono, H. Tanaka, Y. Shirata, A. Matsuo, K. Kindo, F. Ishikawa, O. Kolomiyets, H. Mitamura, T. Goto, H. Nakano, N. A. Fortune, S. T Hannahs, Y. Yoshida and Y. Takano
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Journal Title
Journal of Physics: Conference Series
Volume: 320
Pages: 012003-1-6
DOI
Peer Reviewed
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