2012 Fiscal Year Research-status Report
量子スピン鎖における新奇相の精密探索とレベルスペクトロスコピー
Project/Area Number |
23540388
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
岡本 清美 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (10114860)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
利根川 孝 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (80028167)
野村 清英 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70222205)
中野 博生 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 助教 (00343418)
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Keywords | 量子スピン系 / 量子相転移 / 低次元系 / レベルスペクトロスコピー / 新奇相 / 数値的対角化 |
Research Abstract |
我々はXXZ異方性のある最近接相互作用と2種類のオンサイト一軸異方性(すなわち Sz の2次乗および Sz の4次に比例する項)のあるS=2スピン鎖の問題を詳細に調べ,精密な相図を得た.この相図の精密決定には課題名にある「レベルスペクトロスコピー」の手法が本質的役割を演じている.また Sz の4次に比例する項を取り入れることで Intermedisate-D (ID) 相の領域を広げることができ,DMRG 等の手法によって ID 相の性質を具体的に数値計算で調べることが可能になった.実際,我々は端モードについて詳細に調べ,その振舞いが ID 相の物理的描像と一致することを示した.また,我々は異方的 S=1/2 梯子系の問題にも取組み,スピンギャップの異常増大などの新しい現象を見いだした. レベルスペクトロスコピーの手法は我々のグループの野村と岡本が中心となって開発したものであるが,実際の使用には励起状態の分類などに深い知識が必要である.多くのグループが使いやすいように,野村と岡本は詳細なレビューの執筆に取り組んでいる. また,分担者の中野が中心となってレベルスペクトロスコピー法に必須であるハミルトニアンの数値的対角化を大規模化することもおこなった.この成果をフラストレーションのある2次元反強磁性量子スピン系である三角格子や籠目格子に応用し,磁化過程について新しい知見を得た.また,フェリ磁性に関して従来のものとは違う機構を見いだした. その他,励起ギャップのある量子スピン鎖における磁化や比熱の異常な温度変化とランダムネスの問題も厳密に解けるモデルを用いて調べた. この方面の理論家と実験家が集まる「量子スピン系研究会」が2013年3月に新潟大学で開催され,分担者の利根川が議長を務めた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
XXZ異方性のある最近接相互作用とオンサイトの一軸異方性のあるS=2スピン鎖におけるintermediate-D (ID)相の存在は我々が最初に示したことであるが(2011年),この問題に関して追試論文が2篇現れた(2012年).我々の「レベルスペクトロスコピー」とDMRGを組み合わせた手法では我々と同様の結論が得られているが,他の解析手法ではID相の存在が明確になっていない.この事実は「レベルスペクトロスコピー」手法の卓越性を示している.また,我々はモデルを拡張してID相の特徴的性質を数値計算で示して見せたが,ここでも我々の「レベルスペクトロスコピー」による相図の精密決定が重要な役割を果たしている. 異方的 S=1/2 梯子系の問題では相転移の機構が従来の常識と異なるため,論文がなかなか受理されないという事態まで生じた. ハミルトニアンの数値的対角化の大規模化(すなわち,出来るだけ大きい系が対角化できるようにする)は中野が中心となって行い,対角化できるスピン数は世界最高水準にある.「研究実績の概要」に記した幾何学的フラストレーションのある2次元反強磁性量子スピン系である籠目格子等に新しい知見にはスピン数42までの数値的対角化が必須であった.これは中野の大規模化があって初めて可能になったものであり,世界の他グループの追随を許さないものである.特に2次元あるいは3次元の量子フラストレート系では数値的対角化以外に有効な数値的手法が難しく,大規模数値的対角化の存在意義は極めて大きい. 本科研費による論文数などを見るに,査読付論文14篇(執筆中も数篇),講演も30件(申込み中も数件)で招待講演もある.したがって,上に記した成果の独創性・卓越性とあわせて,研究は順調あるいはそれ以上の進展を見せていると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
XXZ異方性のある最近接相互作用とオンサイトの一軸異方性のあるS=2スピン鎖の問題に関しては新奇なID相の存在は確立したが,磁化過程に関しては我々も含めてほとんど仕事がない.異方性がない場合Haldane gapから飽和磁化までプラトーがないと信じられているが,異方性が入った場合には飽和磁化の半分のところにプラトーが生じる可能性がある.プラトーが現れる領域の精密決定にもレベルスペクトロスコピーは適用出来るので,プラトー相図を描くことも予定している.また,プラトー相図が描ければDMRGによって磁化曲線を描き,プラトーを目に見やすい形で示してみせることも可能である. S=1/2 梯子系に関してはrungの相互作用を反強磁性的-強磁性的と交代させることによって基底状態が非整合的になるなど興味深い結果が予備的に得られているので,この方面で研究を進める. レベルスペクトロスコピーの手法に関しては誰もが使いやすいようなレビューを野村と岡本で執筆中である.レビューに関しては他の研究グループからの要望も多い. 中野が中心になっているハミルトニアンの数値的対対角化の大規模化は応用範囲がきわめて広く,フラストレーションのある2次元量子スピン系については独壇場の感がある.種々のモデルに適用して新たな量子相。量子相転移の発見解明に努力する. 利根川が議長を務めて毎年開いている「量子スピン系研究会」はフランクな雰囲気の中でアイディアや予想の段階から意見交換や議論ができる貴重な場になっている.実際,本科研費の主要テーマの1つであるS=2量子スピン鎖の成果もそのような意見交換や議論の中から発展したものである.本年度もこの会議は開催予定にしている.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度使用予定額のうち,分担者野村について\34,500,分担者中野について\18,563の残額が生じた.いずれも出席予定にしていた会議やセミナーを学内業務の理由により欠席したために生じたものであり,H25年度に請求した研究費と合わせて研究打合せ等の旅費に使用予定である. 代表者岡本の所属機関所在地は東京都であり分担者は兵庫県2人と福岡県1人であるので,研究打ち合わせのために旅費を使用する.加えて,学会や研究会出張にも旅費を使用する.また,物品費は計算機周辺消耗品などに使用の計画であり,50万円を超えるような設備の購入は予定していない.
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Research Products
(44 results)
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[Presentation] Spin Nanotubes
Author(s)
T. Sakai, M. Sato, K. Okunishi, K. Okamoto and C. Itoi
Organizer
Radiation Research Symposium "Magnetism in Quantum Beam Science"
Place of Presentation
SPring-8
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