2012 Fiscal Year Research-status Report
直径制御された金属型半導体型カーボンナノチューブの核磁気共鳴による電子状態の研究
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23540420
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
松田 和之 神奈川大学, 工学部, 准教授 (60347268)
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Keywords | カーボンナノチューブ / 核磁気共鳴 / 1次元電子系 |
Research Abstract |
単層カーボンナノチューブ(SWNT)はその1次元性に起因し、朝永-ラッティンジャー液体状態などの興味深い電子物性が出現する。SWNTには金属型と半導体型が存在するが、そのどちらか一方の選択的合成は実現されていないため、ほとんどの物性実験は金属型と半導体型SWNTが混在したバンドル試料で行われてきた。特に核磁気共鳴(NMR)実験では、このような混在試料では半導体型と金属型SWNTからの13C核NMR信号を個別に観測することができないため、それらの電子状態について得られる情報は限られていた。 本研究では、密度勾配遠心分離法により平均直径1.45 nm のSWNT試料を半導体型と金属型に分離し、それぞれの固体13C NMRスペクトル測定を行い、金属型と半導体型SWNTの13C NMRシフトテンソルの決定を行った。一般に、半導体型SWNTの13C NMRシフトは、sp2混成軌道による化学シフトと、NMR測定の印加磁場によりSWNTに誘起される環電流による化学シフトから構成され、金属型SWNTではこれら2つの化学シフトの他に伝導電子スピンによるナイトシフトが加わる。本NMR測定により得られたNMRシフトについて詳細な解析を行い、金属型と半導体型SWNTの環電流シフトテンソルを決定することに成功した。 1次元的配列したC60フラーレン分子を内包したSWNTを熱処理することにより、内包C60分子がSWNTに変換され、2層CNTが形成されることが知られている。本研究では、13C同位体濃縮(30%)したC60分子を内包させることにより、選択的に内包C60分子の13C NMR観測を行い、この変換過程を調べた。その結果、熱処理によりC60分子の13C NMRシグナルが消失することがわかった。この結果は熱処理によりC60分子が内包SWNTに変換されたためであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していたように、半導体型と金属型が混在した単層カーボンナノチューブ(SWNT)バンドル試料を密度勾配遠心分離法により半導体型と金属型SWNTに分離し、それらの13C NMRを行った。さらに、観測された固体13C NMRスペクトルから、金属型SWNTと半導体型SWNTのNMRシフトテンソルを決定することに成功した。また、得られたNMRシフトテンソルの詳細な解析を行い、NMR測定時の外部磁場によりSWNTに誘起される環電流による化学シフトテンソル成分を明らかにするなど、金属型SWNTと半導体型SWNTの電子状態についての微視的な情報を得ることができた。これらの研究成果について論文発表(Journal of the Physical Society of Japan 82 (2013) 015001)を行った。 また、当初計画していた、フラーレンC60分子を内包したSWNTから2層CNTの変換過程の解明については、熱処理により内包C60分子が内包SWNTに変換されていることを13C NMRにより確認することができた。しかし、C60から内包SWNTへの変換途中過程の中間生成物が多く含まれる試料を作製するための最適な熱処理条件を見つけることができなかったため、中間生成物の13C NMR測定を行うことができず、変換過程についての知見を十分に得ることができなかった。今後、熱処理の温度や時間などの条件を詳細に変化させながら試料作製を行い、内包C60分子から内包SWNTへの変換の各過程での13C NMR測定を行い、各変換ステージでの中間反応物の構造と電子状態について微視的な情報を得る必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き、金属型と半導体型SWNTの13C NMR測定を行い、それらの電子状態を調べる。特に今年度は、熱処理によりSWNT内部に1次元的配列したC60 フラーレン分子が内包SWNTに変換される機構を調べる研究に、重点的に取り組む計画である。この変換機構の解明には、C60分子から内包SWNTへの変換途中の中間生成物が多く含まれる試料を作製する必要があるため、温度や時間などの熱処理条件を系統的に変化させた試料を作製し、それらの13C NMR測定を詳細に行う方針である。また、それら中間生成物の構造に関する情報を得るために、13C NMRに加えx線回折実験も行う計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
金属型SWNT、半導体型SWNT、フラーレンC60分子内包SWNTとその関連物質の作製に必要な高純度ナノカーボン試料と試料調整用器具、またNMR測定に必要な石英試料管などの消耗品に使用する計画である。特に、熱処理によるC60 フラーレン分子内包SWNTから2層ナノチューブへの変換機構を解明する研究において、当初は今年度中に行う計画であった、C60分子からSWNTへの変換途中の中間生成物が多く含まれる試料の作製が不十分であるため、この試料作製に必要な高純度ナノカーボン試料や試料調整用器具の購入費として使用する。また、外部研究機関で実験を行うためと学会発表のための旅費に使用する計画である。
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