2011 Fiscal Year Research-status Report
新しい静的安定性の基準に基づく積雲対流パラメタリゼーションを使ったモデルの開発
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23540520
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
中村 晃三 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, チームリーダー (20143547)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 静的安定性 / 条件付き不安定成層 / 数値モデル / 積雲対流パラメタリゼーション |
Research Abstract |
これまで、大気の静的安定性は、上下に変位する気塊の温度減率の2つの値、つまり、水蒸気の凝結・蒸発の有無によって決まる乾燥断熱減率と湿潤断熱減率を用いて、絶対不安定、条件付き不安定、絶対安定の3つにわけて考えられてきた。そして、条件付き不安定な成層を未飽和環境での飽和気塊の安定性と関連付けて議論する場合があった。しかし、これらの基準は、環境と等しい性質の気塊の安定性を考えるときに使うべきもので、未飽和環境での飽和気塊の安定性を考えるには、未飽和な周囲と等しい仮温度の飽和した気塊を考える必要がある。このときの安定性は、湿潤断熱仮温度減率を使って判定すべきであることが明らかにされた。この内容の論文を気象集誌に投稿していたが、その改稿を進め、採用され、この論文は、気象集誌2011年の論文賞の一つに選ばれた。 この論文では、理論的な議論以外に、観測結果の解析も行い、熱帯の対流圏中層でのゾンデ観測で得られた温度成層は、未飽和な場合、これまで言われていたように、飽和気塊にとって不安定な成層が多いわけではなく、もっとも発生頻度が高いのは、飽和気塊にとって中立な成層であることも示した。ここで、湿潤断熱仮温度減率を通常判定基準に使う温度減率に変換するためには、環境の水蒸気混合比に鉛直変化はないと仮定して計算を行った。これに対し、飽和している場合の頻度分布では、湿潤断熱減率と湿潤断熱仮温度減率から得られる中立成層の間に最大頻度が得られた。 その後、このゾンデ観測の結果を用いて、温度成層と相対湿度の関係を調べ、相対湿度が高いほど平均的に温度減率が小さい方で発生頻度が大きくなることを明らかにし、秋の気象学会で発表した。これらの結果は、2009年の一年間のアーカイブデータを使って得たものだが、今後、他の年の観測データ、及び、対流を解像するモデルを用いた数値実験の結果を用いて吟味する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ゾンデ観測で得られたデータ(Nakamura、2011で使ったNOAAにアーカイブされているデータ)を用いて観測された温度成層がどのような特性を示しているかの調査を進めたが、結果が予想していたものと異なる分布を示した。その原因の解明に時間がかかっている。現在、その原因として、全てのデータ、つまり、水平収束があって大規模場が不安定化するのに対し、対流がその不安定化を解消する場合と、水平発散があって大規模場そのものが安定化作用を示し対流の効果は関係しない場合の全体を含むためである可能性を考えている。そこで、全球の解析データを用いて、ゾンデ観測に対応する場での鉛直流を求め、上昇流の場合のみに限定した議論を行う方法で解析を進めている。 また、積雲対流パラメタリゼーションのスキームのレビューをすすめることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
達成度の理由のところに書いたが、全球の解析データを用いて、ゾンデ観測に対応する場での鉛直流を求め、上昇流の場合のみに限定した議論を行うなどの方法で、対流の効果をうまく抽出できるできるように解析を進めていきたい。 そして、そのようにして、「大規模場が不安定化するのに対し、対流がその不安定化を解消する場合」として代表的な場合を選び、その設定を使って、積雲対流解像モデルを用いてその成層がどのように維持されるかを調べていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は、まだ数値実験の計算をすすめていないため、物品費を使っていないが、次年度に、数値実験の設定を決めてから大量のデータを保存するためにサーバーを購入する予定である。またその計算のために、アルバイトを雇用する人件費が必要になると考えている、したがって、物品費の執行の年度は変わるが、全体としての使用計画の変更は必要ないと考える。
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