2012 Fiscal Year Research-status Report
新しい静的安定性の基準に基づく積雲対流パラメタリゼーションを使ったモデルの開発
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23540520
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
中村 晃三 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, チームリーダー (20143547)
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Keywords | 静的安定性 / 条件付き不安定成層 / 数値モデル / 積雲対流パラメタリゼーション |
Research Abstract |
これまで、大気の静的安定性は、上下に変位する気塊の温度減率の2つの値、つまり、水蒸気の凝結・蒸発の有無によって決まる乾燥断熱減率と湿潤断熱減率を用いて、絶対不安定、条件付き不安定、絶対安定の3つにわけて考えられてきた。これらの基準は、未飽和環境での飽和気塊の安定性を考える場合には使えない。この場合、未飽和な周囲の仮温度と等しい値の仮温度の飽和した気塊を考える必要がある。このときの安定性は、湿潤断熱仮温度減率を使って判定すべきであることを明らかにした論文が気象集誌に採用された。 この論文では、理論的な議論以外に、観測結果の解析も行い、熱帯の対流圏中層でのゾンデ観測で得られた温度成層は、未飽和な場合、これまで言われていたように、飽和気塊にとって不安定な成層が多いわけではなく、もっとも発生頻度が高いのは、飽和気塊にとって中立な成層であることも示した。ここで、湿潤断熱仮温度減率を通常判定基準に使う温度減率に変換するためには、環境の水蒸気混合比に鉛直変化はないと仮定して計算を行った。 ここで使った「環境の水蒸気混合比に鉛直変化はない」という仮定は、なんらかの仮定をしないと仮温度減率を計算することができなかったために、無理やり仮定したものだったが、今年度は、観測データを使って、温度減率と仮温度減率との間の関係を調べてみた。実際に観測されたデータを使って、飽和仮温度減率(Bettsの方法での仮温度減率)、水蒸気混合比が鉛直に変化しないとしたときの仮温度減率、相対湿度が鉛直に変化しないとしたときの仮温度減率の3つの値を、実際の仮温度減率と比較すると、前2つはそれぞれ正と負の偏りがあるのに対し、相対湿度一定を仮定する値が偏りがなく、誤差も小さいことが明らかになリ、気象学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
データ解析は進んだものの、積雲対流の運動を直接表現するような気象モデル(ここでは、密格子モデルと呼ぶ)を用いた数値実験などを進めることができなかった。そのための適当な初期条件、境界条件などの設定を考えるのに時間がかかり、実際にモデルを動かすまでに至らなかった。今後、なるべくわかりやすい実験設定として、これまで積雲境界層の実験として使ってきた大西洋の貿易風帯積雲のRICOと呼ばれる実験設定についてまず考え、引き続いて、深い対流のTWP-ICEと呼ばれる実験設定についても考えていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
積雲対流の運動を直接表現するような気象モデル(ここでは、密格子モデルと呼ぶ)を用いた数値実験を早急に始めるため、適当な研究協力をお願いすることにしたいと考えている。これまで、どのように進めていくか、いろいろと設定を考えていたが、今後、なるべくわかりやすい実験設定として、これまで積雲境界層の実験として使ってきた大西洋の貿易風帯積雲のRICOと呼ばれる実験設定についてまず考え、引き続いて、深い対流のTWP-ICEと呼ばれる実験設定についても考えていく予定である。そして、「大規模場が不安定化するのに対し、対流がその不安定化を解消する場合」に関して、積雲対流解像モデルを用いてその成層がどのように維持されるかを調べていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
どのような研究協力が可能で、もっとも効果的かを調べ、そのための経費として、これまでに交付された金額を効果的に使う予定である。アルバイトを雇用する場合の人件費やそのためのデータ処理のためのパソコンなどの購入を予定している。
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