2011 Fiscal Year Research-status Report
バイオマーカーによって明らかにするイノセラムスの古生態
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23540544
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
荻原 成騎 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50214044)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | イノセラムス / 化学合成群集 / バイオマーカー分析 / 炭酸塩炭素同位体 / アラゴナイト殻 |
Research Abstract |
本年度は研究初年度として研究試料の収集に努めた。国立科学博物館、穂別町立博物館、天塩中川町立博物館の協力により、それぞれの博物館倉庫より、合弁のイノセラムスを7試料発見した。また、自身による北海道天塩中川地域および穂別町周辺地域の踏査により、アラゴナイト殻を持つ、続成作用をほとんど被っていないイノセラムス試料を複数発見した。イノセラムス試料の採取とともに、産出層準の泥岩についても採取した。入手した各試料はグラインダーで表面を削った後、バイブレーションミルを用いて粉末化した。これらの試料について、粉末X線回折分析により、構成鉱物を決定した。また、炭酸塩炭素酸素同位体分析を行なった。これらの分析は、ノジュールからイノセラムス殻を分離できる試料については、ノジュール部と殻を分けて、分離できない試料については、バルクのノジュールとして分析を行なった。さらに、粉末化した試料を用いてバイオマーカー分析を行なった。具体的には、炭化水素、多管芳香族炭化水素、ケトン、アルコール、ステロールの中性画分、酸性成分の脂肪酸は、エステルを一旦加水分解した後に、メチルエステル化し分析に用いた。これらの分析結果は、本年度に予定している個別炭素同位体組成分析の結果と合わせて議論する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の目標であった多数の合弁イノセラムス試料、さらに続成作用を被っていないアラゴナイト殻を持つイノセラムス試料の採取、収集に成功した。また、収集したイノセラムス化石の時代についても、チューロニアン階からカンパニアン階までと幅広い時代に及んだ。幅広い時代の試料を採取できたことは、今後、共生細菌の進化を議論する研究において、意義深い研究を行なう基礎となる。アラゴナイト殻を持つイノセラムス試料については、殻と本体を別々に炭酸塩炭素同位体分析を行ない、被った続成の程度を評価することが出来た。(分析の結果、ほとんど続成作用を被っていないことが明らかになった) 採取した化石試料表面に付着しているであろうコンタミネーションについても、これまでの研究から開発した手法を用いてコタミネーション除去に成功し、コンタミネーションフリーのバイオマーカー分析を行なうことができた。(本年度の分析結果からは検出されなかった)また、危惧していた現世の人為起源有機化合物も検出されなかったことは、初年度に採集した試料は本研究に最適であると言える。 以上のように、当初目的としてきた初年度の研究は、ほぼ100%達成されたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度に引き続いて、化学合成細菌と共生関係にあったイノセラムスを探索する。これまでの経験から、イノセラムスは合弁化石がほとんど産出しない。そこで、国立科学博物館倉庫から、合弁のイノセラムス類を入手する。イノセラムス化石は、ほとんどが離弁であるが、まれに合弁も存在する。(すでに数個を入手)アラグナイトのままの続成作用を被っていない試料と同様に、死後に擾乱を被ってない合弁の産状を示す試料について、バイオマーカー分析には適する可能性が高い。北海道白亜系における試料採取は、メタン酸化古細菌群集に変化が生じたアルビアンの海洋無酸素事変の前後における変化を検出すること、それ以後の白亜紀でどのように変化したか検出することを目的として行なう。アルビアン(万字、夕張地域)から上位のセノマニアン、チューロニアンの層準からイノセラムスを採取し分析を行なう。年代(時代)と共生関係、生態、生息環境の相互関係を議論し、イノセラムスの進化と化学合成細菌の共生関係を明らかにする。共生細菌のマーカーが発見できなかった場合について。バイオマーカー分析は、本来堆積環境指標として広く用いられている。バイオマーカー分析から推定したイノセラムスの生息環境と生態の関係を議論することができる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度は、ほぼ予定通り順調に予算執行が進み、2596円の繰越で当該年度の研究を行なうことができた。23年度に引き続いて24年度以降もイノセラムス試料の採取に努める、即ち北海道白亜系を中心に化学合成細菌と共生関係にあったイノセラムスを探索する野外調査を行なう、さらに学会発表(有機地球化学会;仙台、地球化学会;福岡)などの出張を行なうため、出張費用330千円を予定している。種々の化学分析に掛かる費用(ガラス器具、溶媒、試薬、ガスクロマトムラム質量計用カラム代、および質量分析計デルタプラス使用料など、470千円(+2011年度繰越金2596円)。バイオマーカー分析における分析補助の謝金、300千円。北海道踏査におけるレンタカー代およびガシリン代、100千円 以上、合計1200千円(+繰越2596円)を使用予定である。
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