2012 Fiscal Year Research-status Report
沈み込んだ地殻物質の高温高圧弾性特性と下部マントルの化学不均質の解明
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23540560
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
土屋 卓久 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 教授 (70403863)
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Keywords | 第一原理電子状態計算 / 沈み込んだ地殻物質 / 高圧相転移 / 地震波速度 / マントルの不均質性 / マントルの進化 |
Research Abstract |
今年度導入した高性能ワークステーションを含む計算設備と独自に開発してきた地球惑星物質の第一原理計算技術を用い、主要地殻物質の一つで地球深部でのカリウムの主要ホスト相と考えられるKAlSi3O8(Kホーランダイト)および主要マントル物質の一つであるMgSiO3エンスタタイトの高圧相平衡、弾性特性の決定をおこなった。 その結果、KホーランダイトはMgAl2O4(スピネル)と共存しない場合には、約20GPaで弾性不安定化を伴ってKホーランダイトIIへ相転移し100GPa以上まで安定となるのに対し(Amerian Mineraolist誌のNotable Paperに選出)、スピネルと共存する場合は約25GPaでKMg2Al5SiO12とSiO2の混合物に相転移することを初めて見いだした。新たに見いだされた高圧安定化合物KMg2Al5SiO12は、前年度の研究で取り扱った地球深部でのナトリウムの主要ホスト相と考えられる六方晶NAL相と同一の結晶構造であった。これらの結果から、MgOやAl2O3成分が豊富に存在する場合は高圧下においてKホーランダイトが熱力学的に不安定化することがわかった。 一方MgSiO3エンスタタイトに関しては、斜方輝石構造から高圧型単斜輝石構造への相転移が約6GPaで生じること、相転移に伴いP波速度、S波速度ともに大きく増加することが分かった。これは最近の高圧実験(例えばGasparik, 1990やKung et al., 2004)と調和的である。しかし同様に実験的に示唆されていた弾性不安定化(Kung et al., 2004)は今回の計算では見いだされなかった。一方、相転移に伴い弾性異方性が大きく増加することも明らかとなった。ともに基本的には類似の結晶学的特徴を有するが、斜方輝石と高圧型単斜輝石の弾性異方性は大きく異なることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成24年度に計画していた内容は、ほぼすべて予定通り実施することができた。特に100万気圧を超えるマントル深部領域まで安定だと考えられていたKホーランダイトが、スピネルと共存する場合には高々25万気圧程度で消失してしまい、代わりに六方晶NAL相と同じ結晶構造を持つ新たな高圧相が出現するという、これまで全く知られていなかった大陸上部地殻物質の新たな高圧相関係を見いだすことができた。この結果は、マグネシウムをあまり含まない大陸上部地殻物質が地球深部に沈み込んだ場合、マントルに存在するマグネシウム(やアルミニウム)に富む物質との反応が生じた場合、今回見いだされた高圧安定相が出現することを意味しており大変興味深い。平成25年度の研究で弾性特性などについても詳細な計算を行う計画であり、これにより地殻物質を構成する主要な鉱物に対して、それらの高圧相関係および状態方程式、弾性特性などの基礎物性の計算を完了することができる。また平成24年度の成果の一部をまとめた論文(Kawai and Tsuchiya, 2013)が、米国の鉱物科学の専門誌American Mineralogist誌においてNotable Paperに選出された。これらのことを踏まえると、今のところ本研究は当初の計画以上に進展していると判断して差し支えないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は本研究課題の最終年度であるため、研究対象物質の第一原理計算の仕上げを行うとともに、地球深部に沈み込んだ地殻に関する本研究の総括を行う。 まずこれまでの計算で得られた主要地殻構成鉱物の高圧物性に基づき沈み込んだ地殻岩石をモデル化し、マントル岩石(かんらん岩)の物性との比較を通して、地殻物質の沈み込みの可能性、沈み込んだ場合の地球内部での分布、その観測可能性、マントルダイナミクスへの影響などについて考察する。具体的には、地殻岩石として海洋地殻(玄武岩)組成、大陸上部地殻(花崗岩)組成と同時に、太古代花崗岩(TTG)組成や月地殻の主成分である斜長岩組成を考え、それらが沈み込んだ場合の密度をマントル岩石の密度と比べることにより、それぞれの地殻岩石が地球内部に沈み込むための条件や、沈み込んだ場合に重力的に安定化する領域の存在について検討する。一方、両者の弾性波速度や温度異常に起因した速度異常比の相違を定量化することにより、沈み込んだ地殻によって生じる地震波速度異常をモデル化する。これを地震波トモグラフィーなどの観測結果と比較することにより、下部マントルの不均質構造の起源や沈み込んだ地殻の影響について考察する。特に速度異常比に対して温度と組成が一般的に異なる効果を持つことに着目し、地球深部における地殻物質の分布についてより定量的な推定を試みる。 これらによって得られた知見と我々のこれまでの主要下部マントル物質に対する研究成果を総括して、下部マントルの新たな鉱物学モデルを構築し、地球深部の不均質構造と熱化学状態およびそれらの形成・進化過程についてより詳しい制約を与える。それに基づき、表層-マントルを包括した系における地殻物質の循環とダイナミクスについて、地球史的な観点も含めて考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(消耗品)第一原理シミュレーションのような大規模数値計算では、膨大なデータを取り扱う必要がある。また十分なストレージの確保も欠かせない。そこで膨大なデータを高速で処理するための大容量メモリや、保存するための大容量ハードディスクを購入する。 (旅費)関連研究機関との研究打ち合わせや国内外の会議・学会発表のための出張旅費として使用する。平成25年度は日本地球惑星科学連合、日本鉱物学会、日本高圧力学会及び米国地球物理学連合の各年会等で成果発表を計画している。 (その他)研究の進展に併せて、国内外の学術誌上での成果公表も進めている。そこで論文掲載料や別刷り購入経費として使用する。
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Research Products
(30 results)