2011 Fiscal Year Research-status Report
ランタニドイオンの光化学-4f電子励起状態を経る多光子反応-
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23550030
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Research Institution | Toyota Physical & Chemical Research Institute |
Principal Investigator |
中島 信昭 公益財団法人豊田理化学研究所, その他部局等, その他 (00106163)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ランタニドイオン / 二光子反応 / Yb(III) / Yb(II) |
Research Abstract |
【序】Eu3+, Sm3+は次の三つの励起方法によりそれぞれの2価イオンLn2+に光還元できることを明らかにしてきた. (1) UVレーザーによる電荷移動吸収帯(CT)の励起,(2) 短パルスf-f’遷移を経る共鳴多光子励起,(3) メタノール中で非共鳴励起.Yb3+では(1),(3)の方法でLn2+に光還元できる.Yb3+→Yb2+のより詳しい機構の確定と反応効率を明らかにすることが本研究の課題である.本研究ではYb3+→Yb2+において(2)の機構(f-f’遷移を経る共鳴多光子励起)が実際に起きることを見出すことができた.この励起波長依存性を調べることにより,機構をより明確にできた. 【実験】CTレベルにはナノ秒YAGレーザーのパラメトリック変換による975 nm(6 mJ, スペクトル幅~4 nm)と3倍波(355 nm, 0.3 mJ)の2光子で到達できる.YbCl3・6H2O,15クラウン5のメタノール溶媒を3ないし12分間(レーザーの繰り返しは10 Hz)照射した.照射後30分以内でYb2+の生成量をその吸収スペクトル(ピーク367 nm)で測定した.【結果】Yb2+の生成量を何点かの励起波長で測定した.Yb2+濃度はYb3+のf-f’吸収スペクトル上にプロットできることが分かった.このことは,反応は中間体4f電子励起状態を経ることを明確に示している.【結論】反応は次に示すように2段階機構で説明できる.Yb3+Cl-(975 nm励起)→Yb3+Cl-(f電子励起状態),(355 nm励起)→Yb2+Cl(CT状態)→ Yb2+ + Cl【発表】国内外の学会で6件報告した.招待講演を4件行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【当初目的】ランタニドイオン(Ln(n+))の光化学の一端を確立する.Ln3+の4f電子励起状態は光反応しないが多光子励起(正確には多段階励起)は有効である.Ln3+の多光子励起による還元反応の機構を解明する.本研究ではYb3+系を詳しく調べた.この系は電子準位が単純で,反応機構の解明に最適である.励起状態からの電荷移動(CT)吸収帯を測定し,多光子反応の2番目の光子の役割を明確にする.本研究の目的はYb3+を実験対象とし,(1)4f電子励起状態を経る多光子反応の3番目の例とする.(2)4f電子励起状態からのCT吸収を測定する.本反応におけるCT状態の役割を明らかにする.であった.【当面の結果】(1).2光子励起でYb3+→Yb2+反応が実際に起きた. Yb3+の4f←4f遷移に相当する波長は975 nmである.これはナノ秒YAGレーザーの3倍波励起パラメトリック発振器から得た.CT状態への励起は3倍波の355 nmを用いた.生成したYb2+は吸収分光光度計で367 nm付近の吸収の増大で調べた.試料は小さな体積のセルに封入された溶液とした.生成したYb2+はやや不安定であった.安定な場合の溶媒系を見出すことに約半年を要した.手間取ったので,「予定通り進まない時の対応」として計画していた実験もいくつか試みた.3倍波による2光子励起である. また,CT レベルを変えるため YbBr3に照射してみた.適切な溶媒の探索を行った. が,結局,細かな実験上の改良を行うことで,2光子励起でYb3+→Yb2+反応に成功した.現在は目的の(1)をさらに確定させるための実験,(2)の予備実験を進行中である.以上により,トータルの目的の半分は達成でき,予定通りである.
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Strategy for Future Research Activity |
【今後の計画その1】目的の(1)4f電子励起状態を経る多光子反応の3番目の例とするであった.この内,詳細な機構は残されている.まずこれを行う.a-dについて調べる. a.Yb2+の生成量∝赤外光強度(975 nm),b.Yb2+の生成量∝紫外光強度(355 nm),c.反応収量は基底状態の吸収スペクトルに沿う,すなわち反応収量の励起スペクトルは吸収スペクトルと一致するはずである.(予備的結果は得ており,更に詳しく調べ,確定する.),d.3倍波(355 nm)における,励起状態の吸収係数を求め,反応収量を評価する.【今後の計画その2】(2)4f電子励起状態からのCT吸収を測定する.本反応におけるCT状態の役割を明らかにすることである.前項のd,3倍波(355 nm)における,励起状態の吸収係数を求めることは一点の波長でのCT吸収に相当し,(2)の目的に向けた第1歩である.Eu3+,Yb3+系のナノ秒レーザーホトリシスを行うための光学系を構築する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
試薬 20万円特殊セル,光学部品 20万円電子部品,パソコン関連部品 11万円海外発表,国内発表各1件 40万円計91万円
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Research Products
(10 results)