2012 Fiscal Year Research-status Report
ランタニドイオンの光化学-4f電子励起状態を経る多光子反応-
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23550030
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Research Institution | Toyota Physical and Chemical Research Institute |
Principal Investigator |
中島 信昭 公益財団法人豊田理化学研究所, その他部局等, フェロー (00106163)
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Keywords | ランタニドイオン / 2光子反応 / Yb(III) / Yb(II) |
Research Abstract |
【序】 Yb(III)はアルコール溶媒中で2波長2段階光還元を示し,Yb(II)に変換できることを見出した. 今年度でこの反応機構についてほぼ最終結論を得た.IR,UVそれぞれの励起光強度依存性は前年度までに結果を得て示した通りであるが,今年度は反応中間体Yb(III)の励起状態の吸収係数,εCT(355 nm),Yb(III)→Yb(II)の反応効率,φ3→2を求めた.他のf電子系イオンの反応にもこれらの結果を応用できるであろう. 【実験】ナノ秒YAGレーザー(10 Hz)をベースとし,3倍波(355 nm),そのパラメトリック光(976 nm, 4 mJ, スペクトル幅~4 nm)を励起光とした. YbCl3・6H2Oのエタノール溶液を照射した.Yb(II)の生成量をその吸収スペクトル(ピーク367 nm)で測定した.中間体の吸収係数εCT(355 nm)の測定ではナノ秒レーザーホトリシス法を適用した. 【結果と議論】① 266 nm励起,1光子励起のYb2+への反応収量は約0.2であった.② IR励起4f*(2F5/2)の発光寿命とCT←4f*の吸収減衰はともに0.2 μsであった.CT←4f*の吸収は340 nmにピークがあり,吸収係数は約50 M-1cm-1であった. ③2光子目の反応収量は0.1のオーダーであった.266 nm励起の際,見られる短い成分は4f*の減衰,長寿命成分は生成したYb(II)として説明でき,CT励起状態の緩和は内部転換が主で,geminate再結合による基底状態への緩和は少ないと推定した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
【当初目的】ランタニドイオンLn(n+)の光化学の一端を確立することが当初目的であった.ほぼ,反応機構を確立できた.ランタニドイオンLn(III)の4f電子励起状態は光反応しないが多光子励起(正確には多段階励起)は有効である.本研究ではYb(III)系の多光子励起による還元反応が起きること,その機構を解明することを目的とした.この系は電子準位が単純で,反応機構の解明に最適である. 【結果】Yb(III)を4f電子励起状態を経る多光子反応の3番目の例とすることができた.励起状態からの電荷移動(CT)吸収帯を測定,励起状態の寿命などを明らかにし,多光子反応の2番目の光子の役割を明確にした. ①.2光子励起でYb(III)→Yb(II)の反応が実際に起きた.Yb(III)の4f←4f遷移に相当する波長は976 nmである.これはナノ秒YAGレーザーの3倍波励起パラメトリック発振器から得た.CT状態への励起は3倍波の355 nmを用いた.生成したYb(II)は吸収分光光度計で367 nm付近の吸収の増大で調べた.試料は小さな体積のセルに封入された溶液とした.生成したYb(II)はやや不安定であった 結局,細かな実験上の改良を行うことで,2光子励起でYb(III)→Yb(II)反応に成功した. ②.反応中間体Yb(III)の励起状態の吸収係数,εCT(355 nm),Yb(III)→Yb(II)の反応効率,φ3→2を求めた.また,geminate再結合による基底状態への緩和は少ないと推定できた.このように,ほぼ,反応機構を確立できた. これらについての論文を投稿したところである.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画から発展し,次の関連した研究に展開することを計画している.フェムト秒レーザーを利用した金属イオンの価数変化の実験を進める計画である.レーザーによる酸化還元反応は原子力発電における高レベル放射性廃棄物の低減技術に発展できる.【今後の計画その1】希土類イオンにおける価数変化についてまとめることである.高強度ナノ秒レーザー照射(多光子励起)で価数変化を誘起できたが,一昨年来進めてきたYb(III)→Yb(II)反応をベースとし,希土類イオンにおける価数変化についてまとめる.【今後の計画その2】フェムト秒パルス励起による金属イオンの価数変化について調べる.溶媒がイオン化されM(n+) +e-; →M((n-1)+)のような還元反応が期待できる. フェムト秒パルス励起で白色光の発生とともにYb(II)が観測される.(昨年度報告) CH3OH → CH3OH+ + e-; Yb(III) + e-; →Yb(II) 同様の還元反応が起きた例として,Eu(III)→Eu(II), Sm(III)→Sm(II)があり,筆者らが報告している.フェムト秒パルスを溶液中に集光すると,自己収束→メタノールのイオン化→フィラメントの生成,顕著な非線形屈折率の時間変化→IRレーザー光は可視の白色光に変換される. 溶媒のイオン化は多光子,またはフィールドイオン化が考えられる.このとき,金属イオンM(n+)が含まれていれば,M(n+) +e-; →M((n-1)+)の反応が起きてもよい.3種のランタニドイオンLn(III)ではLn(II)になることが分かったが,遷移金属についても同様の現象がみられるのであろうか? MとしてFeを試し,次にAgについて調べる.これらの電子補足反応はMarcusの電子移動理論によって説明できるのではないか,と考えている.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
試薬 20万円 特殊セル,光学部品 10万円 電子部品,パソコン関連部品 10万円 海外発表,国内発表各2件 52万円 計92万円
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Research Products
(7 results)