2011 Fiscal Year Research-status Report
低速電子顕微鏡の動力学的解析による鉄シリサイドナノアイランド構造と発光条件の解明
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23560021
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松本 益明 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (40251459)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 薄膜 / 鉄シリサイド / 表面構造 / 低速電子回折法 / 低速電子顕微鏡 / 動力学的解析 |
Research Abstract |
今年度は、連携研究者の日比野氏の所属するNTTにおいて、高い空間分解能を有する低速電子顕微鏡(LEEM)を用いて、ナノメートルからマイクロメートルのスケールでリアルタイムに観察し、鉄シリサイドの島の形成・発展の様子を詳細に観察した。 反応堆積(RDE)法により、約600℃においてSi(111)表面上への鉄の蒸着を開始すると、ステップから基板が浸食され、鉄シリサイドの島が形成されていく様子が観察された。LEEMの明視野像と暗視野像を比較することにより、以前の走査トンネル顕微鏡(STM)での観察に対応する2種類の三角形の島を確認し、一方が2x2構造であるのに対し、もう一方はそのような周期性のない構造であることを見いだした。周期性のない島は主にテラス上に急速な核形成により生じて成長するのに対し、2x2構造の島はステップ近傍に若干遅れて、シリコン基板の浸食を伴い成長するという相違点がある。さらに、島の成長に伴い、周期性のない島から2x2構造の島への転移が起きることから、周期性のない島は鉄がシリコンと反応せずに形成する準安定な島であり、シリコンとの反応により2x2構造の島へと転移すると考えている。さらに、鉄の蒸着を続けていくと2x2構造の島も中心部分から崩壊し、細長い島へと転移することを初めて観察した。 また、2種類の島についてLEEMの明るさの入射電子エネルギー依存性を測定し、動力学的な構造解析を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東大生研とNTTで使用する2つの異なるシステムでの薄膜成長条件を一致させるために、東大生研のSTMシステム用にフラックスモニターを内蔵した電子ビーム蒸発型の超高真空エバポレーターを購入したが、震災の影響により発注及び納入が遅れて12月中旬になったため、STMを用いた測定は始めたばかりであり、LEEMとSTMにおける薄膜の成長条件を合わせて、それらの結果を比較するには至っていない。また、これまでのところ反応堆積法(RDE)法による成長の観察のみにとどまっており、固相エピタキシー(SPE)法を用いた成長の観察には至っていない。 しかし、これまでに観察したRDE法での成長の際に、2つの島の成長の様子の違いが明らかとなり、周期性のない島から2x2構造の島へ転移し、さらに2x2構造の島が三角形状から細長い形状の島へと転移するという新しい現象が観察されるという成果が得られ、この系が当初考えていたよりも複雑であり、鉄とシリコンの多様な反応が表面で起きていることが明らかとなったことは、大きな収穫であり、今後に繋がる新たな知見が得られたため、全体としての達成度はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでの反応堆積法(RDE)法による成長の観察に加えて、固相エピタキシー(SPE)法による成長の様子をLEEMにより観察する予定である。SPE法では室温で蒸着した後、600℃程度に加熱して鉄とシリサイドの反応をおこなわせる。この場合吸着時の鉄の拡散が抑えられて、多数の核の形成とそこからの領域の成長が起きるために、周期性の高い領域がRDE法と比べると小さな大きさで形成されることが期待されている。このような小さな領域において動力学的構造解析に必要な回折強度の入射電子エネルギー依存性(I-V曲線)を得るのにLEEMは適している。これまでに得られた反応堆積(RDE)法による島のI-V曲線の動力学的解析を進め、今後測定するSPE法による薄膜で得られるI-V曲線の解析と合わせて、RDE法とSPE法による構造の相違について考察をおこないたいと考えている。RDE法で観察された周期性のない島、2x2構造を持つ島、三角形状や細長い形状の島といった特徴的な構造がSPE法ではどのような形で現れ、変化していくのかを明らかにしたいと考えている。 また、鉄シリサイドの薄膜の磁性について、内部転換電子メスバウアー分光(CEMS)法による測定をおこないたい。磁性は発光と並び鉄シリサイドの大きな特徴の一つであり、それらの性質の発現の条件や関連性についての情報が得られるのではないかと期待している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度においては、NTTでの共同研究に加えて、SPring-8での共同研究をおこなうための準備を進める。そのため、蒸着用鉄試料やシリコン基板を購入し、それらを用いて東大生研のSTM装置において、蒸着条件を変えたときの薄膜形状の変化の様子を研究し、薄膜形成についての基礎的な情報を得る。その際にCEMS法による磁性の研究もおこなうが、その装置の整備や、鉄の試料として必要な、メスバウアー核57Feの高濃度試料の購入にも充てたいと考えている。これを用いることによりSPring-8での核共鳴散乱測定も可能となるため、表面磁性についての研究へと発展させることも可能となる。 次年度の後半以降のSPring-8のマシンタイムに応募する予定であり、採用された場合にはSPring-8に赴き、研究の打合わせをおこない、そこでの実験に必要な物品の購入に充てたいと考えている。さらに、今年度から次年度にかけての研究において得られた研究成果を国内外の論文誌や学会において発表する予定である。
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Research Products
(16 results)