2012 Fiscal Year Research-status Report
同軸二重型差動ボールねじを応用したミリストローク超高分解能直動アクチュエータ
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23560159
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
深田 茂生 信州大学, 工学部, 教授 (70156743)
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Keywords | ボールねじ / 精密位置決め / 差動機構 / アクチュエータ |
Research Abstract |
精密位置決め技術は,半導体製造装置や超精密工作機械および精密測定機などの基幹性能を支配する最も重要な基盤技術の一つであり,今後の着実な進展が期待されている.本研究では,最大1mm程度のストローク(ミリストローク)にわたってナノメートルレベルの直動分解能を持ち,センサレスで駆動可能なコンパクトで低コストな機構を実現するために,同軸二重型差動ボールねじとステッピングモータを一体化したリニアアクチュエータを開発することを目的としている.これまでにアクチュエータ本体の設計・製作およびその性能評価を中心に以下の内容を実施した. 平成23年度には,超高分解能ステッピングアクチュエータの基本部分の設計製作を行った.出力軸の実効ストローク1 mm,位置決め分解能5 nmを目標とし,差動ボールねじの入力軸にステッピングモータの歯状ロータを結合する構造とした.平成24年度には,製作した超高分解能ステッピングアクチュエータの性能評価と考察を行った.まず,製作した直動ステッピングアクチュエータの性能を種々の条件で測定するための実験装置を構成した.種々の動作条件で入力軸回転角度と出力軸変位を測定したところ,差動ボールねじ単体の性能と比較して,1回転に同期した誤差成分が拡大し,送り誤差の再現性も低下していることが明かとなった.これはステッピングモータのロータ部と入力軸の結合が嵌合によっているため,両者の同軸度が低下しているためであると判断した.そこでロータ部と入力軸をワンチャックで一体加工し,ロータ取付部と入力軸ボールねじ部の同軸度を限界まで高める構造に変更した.その結果,差動効果による誤差の同相成分除去が有効に作用し,送り誤差の再現性を高めることができた.さらに,出力軸の直動案内部をよりコンパクトな構造とし,リニア動作を直接出力可能な超高分解能リニアステッピングアクチュエータを実現した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
超高分解能ステッピングアクチュエータの仕様としては,出力軸の実効ストローク1 mm,位置決め分解能5 nmという目標を設定した.目標仕様を実現するため,同軸二重型差動ボールねじとステッピングモータを一体化する構造としたが,当初の設計では軸部を嵌合構造としていた.しかし同軸度が低下したことによる影響が性能劣化として表れたため,一体加工構造へと変更し性能を改善した.また出力軸の回転拘束をスムーズに行うため,出力軸の直動案内部をクロスローラガイドによりコンパクトに構成し,リニア動作を差動出力ターミナルから直接出力可能な超高分解能リニアステッピングアクチュエータを実現した.また運動性能を詳細に測定可能な実験装置を構成し,種々の条件で運動性能を評価した. その結果,位置決め分解能は目標仕様の5 nmを実現していることを確認した.また1 mmのストロークにわたって差動出力ターミナルの送り誤差が1μm程度存在するが,その再現性が100 nm程度に抑えられていることが分かった.これは差動効果による誤差の同相成分除去が有効に作用しているためであると考察された.さらに負荷特性について測定を行ったところ,軸方向負荷により誤差が負荷方向に偏位するが,誤差の変動成分には大きな変化がないことが分かった.これは予圧による拘束が有効に作用しているためであると考えられる.また,差動ねじ部の個々の精度を測定し,それらの単純な差と実際の差動送り誤差を比較したところ,低周波成分については概ね一致した.以上により,当初に設定した目標を実現する超高分解能リニアステッピングアクチュエータの実現の見通しが得られ,限界分解能と誤差の要因についても考察できたことから平成24年度までの当初の計画を概ね達成できた.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度にはまず,これまでに実現した超高分解能リニアステッピングアクチュエータの送り誤差と個々の部品精度との関係を明らかにする.差動ボールねじの入力軸と出力軸を構成する合計4本のねじ溝のリード精度を三次元測定機により詳細に測定し,それらの差動演算結果と実際の入力軸変位および差動送り誤差とを比較することにより,個々の部品の幾何学誤差と差動送り誤差の関連を明確化する.次に,アクチュエータの出力誤差の補正方法について検討する.分解能については一方向送り動作における分解能は5nmを実現しているが,反転時に応答の遅れが現れることが明かとなっている.そこで反転時の追従の遅れを解消するための目標値の修正方法を検討する.また1 mmストロークにわたる送り誤差については,100 nm程度の再現性が得られていることから,実測した送り誤差データを元に目標ステップを修正して送り誤差を補正するアルゴリズムを構成し,差動出力ターミナルの送り誤差を±100 nm程度以下(RMS値)まで改善する. 最後に最終年度のまとめとして,同軸二重型差動ボールねじによる限界性能の考察を行い,ねじ駆動という純メカ的方法による限界分解能と精度限界の決定要因を明らかにして,精密工学的見地から実用化への可能性と問題点を提示する予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度には個々の部品精度と直動リニアステッピングアクチュエータの動作との関連を考察するが,現状の実験装置は入力軸変位を高精度かつ効率的に測定可能な装置となっていない.そこで入力軸変位を高精度に測定するための変位センサを本研究費により備品として購入して実装する計画である.また変位センサのデータおよび三次元測定機により得られたリード誤差のデータをオンラインで処理するための計測用ディジタル信号処理ソフトウェアを消耗品として購入する予定である.なお,平成24年度に購入を予定していた消耗品の納期が年度内に収まらなかったため残額を繰り越したが,平成25年度研究費と併せて消耗品購入に充てる計画である.
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Research Products
(1 results)