2011 Fiscal Year Research-status Report
制振構造用鋼材ダンパーの残余性能推定方法に関する研究
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23560666
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
松本 由香 横浜国立大学, 都市イノベーション研究院, 准教授 (70313476)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 低降伏点鋼 / ダンパー / 硬さ / 残余変形性能 |
Research Abstract |
近年、地震入力エネルギーをダンパーに集中させ、柱梁などの主要骨組の損傷を抑える構造形式(制振構造)が注目されている。そこで、建物棟数が多いこと、被災後の検査が比較的容易であることから、鉄鋼系工業化住宅に用いられる低降伏点鋼ダンパーを対対象とし、ダンパーの損傷度や残余変形性能と硬さの関係について検討を行った。建築構造用低降伏点鋼SSHDを2ロット入手し、金属材料試験片を製作し、単調引張載荷によってさまざまなレベルの塑性ひずみを与えた。載荷後の試験片の硬さ試験を行い、再度引張載荷を行って残余変形性能を求めた。鋼材の予ひずみ量や残余変形性能と硬さ変化量の間には明瞭な相関がみられた。SSHDの2ロットのうち、1ロットはダンパーに加工し、実大耐力パネルにダンパーを組み込み、耐力パネルの繰り返しせん断載荷実験を行った。主なパラメータは載荷パターンと繰り返し載荷数とした。載荷パターンは漸増振幅と一定振幅とし、一定振幅では振幅を5段階に設定した。繰り返し載荷数を段階的に変化させ、さまざまなレベルの繰り返しせん断ひずみをダンパーに与えた。載荷後のダンパーから金属材料試験片を採取し、硬さ計測を行った後、引張破断試験を行い、残余変形性能を確認した。その結果、一方向載荷による引張ひずみを与えた時と同様に、残余変形性能と硬さ変化量には明瞭な相関がみられた。普通鋼(引張強さ400MPa,490MPa)と同様に、低降伏点鋼についても硬さ変化量から残余変形性能をある程度推定できることが確認された。しかし、低降伏点鋼の場合は普通鋼と比べると大きなばらつきがみられた。これは、低降伏点鋼の硬さ自体が低いこと、同じ予ひずみ量を与えても硬さの変化量が普通鋼に比べて小さいことにより、計測誤差の影響が現れやすいためと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していたとおり、鋼材の基本的な特性を調査するための単調引張試験シリーズと、実部材に対する適用を想定したダンパー付き耐力パネルのせん断加力試験シリーズの両者を完了することができた。実験が完了している範囲については、鋼材が同一鋼種2ロットのみであり、耐力パネル実験の載荷パターンが限られているなどの点で、限定的な知見にとどまっている。しかし、次年度の耐力パネル実験の試験体はすでに手配済みである。また、別鋼種の低降伏点鋼を入手し、予ひずみを導入するための試験体をすでに製作しているため、次年度は直ちに実験を実施できる段階まで準備が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
SSHDとは異なる鋼種としてLYP225を検討対象に加え、継続して残余変形性能と硬さ変化量の関係を検討する。特に、SSHDでは、普通鋼と同じ予ひずみ量を与えても硬さ変化量が比較的小さかったことに注目し、その原因と、同様の現象が起こりにくい鋼材を特定することを狙いとする。LYP225は普通鋼に比べて硬さや強さが低い鋼材であるが、SSHDとは異なる応力ひずみ曲線を有する。応力ひずみ曲線と硬さ変化量の対応について検討することにより、硬さ計測による残余変形性能の推定方法が適用しやすい鋼材の特性が明確になれば、手法の適用範囲を定めるうえで重要な情報が得られる。また、これまでの耐力パネルの載荷実験では、載荷パターンが完全両振に限定されていた。今後は一方向に変形が偏る場合など、異なる載荷パターンについても同様の結果が得られるかどうか、検討する必要がある。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
耐力パネルのせん断載荷実験など、鋼材に予ひずみを与える段階の試験体については、すでにその多くを手配済みであり、次年度新たに試験体製作費が発生することはほとんどない。研究費の多くは、載荷後の試験体から金属材料試験片を製作する際の費用と、ひずみゲージなどの計測関連消耗品の購入に充てる。ただし、引張試験に用いる伸び計の老朽化が進んでいるため、伸び計の修理もしくは新規購入のために200,000円程度を見込んでおく必要がある。また、試験体の運搬費、実験施設までの交通費、実験作業を行う大学院生への謝金として、200,000円程度を見込んでおく必要がある。
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