2012 Fiscal Year Research-status Report
植物における対被食防衛の集団内多様性の進化機構に関する理論的研究
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23570023
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山内 淳 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (40270904)
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Keywords | 防衛形質 / 協力 / 進化 / 国際情報交換 / アメリカ / イギリス / ドイツ / 台湾 |
Research Abstract |
本研究課題が焦点を当てている植物の防衛戦略の進化は、個体間の協力ゲームの枠組み、中でも連続snowdriftゲームと呼ばれるゲームの枠組みで捉えることができる。連続snowdriftゲームの状況においては、協力レベルが異なる個体が集団内で共存する場合があることが、適応的ダイナミクスに基づく理論解析によって明らかにされている。実際、様々な生物種の協力的な性質において、遺伝的あるいは行動的な多型が知られる。本研究課題が対象としている植物における防衛レベルの多型も、防衛が集団内で協同的な効果を持つ状況の下で多型が引き起こされていると考えられる。 本年度はこの協力ゲームとしての側面に焦点を当て、協力における利得関数の形が協力の進化に及ぼす影響について一般的な法則性を解明することに成功した。個体がzの投資を協力のために提供した場合、それに伴う個体のコストはzのみに依存するg(z)という関数で表現することができる。一方、そこから得られる利益は協力関係を結ぶ各個体の投資に依存し、それらがどのように連合されて個体の利得を与えるのかによって、協力行動の進化動態は影響を受けるだろう。投資と利益の関係をf(z)という関数で表した場合、各個体の協力への努力量の連合様式としては、f(Σz)、f(Πz)、Σf(z)、Πf(z)などが典型的なものとして考えられる。 我々の解析により、協力の連合様式が多型の進化・創出において重要な役割を果たしていることが明らかになった。多型の創出は、特定の連合様式の下でしか起きえないのである。この協力の進化における一般的な特性の解明が、今年度の主要な成果である。今後その成果を公表すべく、現在論文の執筆を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、植物の防衛形質の進化過程を理論的に明らかにすることを当初の目的としている。その研究計画当初から、協力ゲームとしての枠組みでのより幅広い分野への適用が期待されていたが、研究開始時点ではその可能性は未知数であった。しかしながら、綿密な解析によって協力の利得関数の形と投資レベルの進化動態の一般的な関係を明確にすることができた。これは当初の計画の枠を越えた大きな成果であると言える。 その成果は、植物の防衛形質の多型を始めとして、酵母の酵素生産能力に関する多型、動物における捕食者に対する警戒努力の多型、そしてさらには人間の協力における裏切りの存在など、広範な生物現象の理解に適用しうる成果である。その成果は、学会発表などにおいても独創性が高く評価されている。例えばゲーム理論のワークショップにおける発表では、経済学の研究者に非常に興味を持ってもらえ有用な情報交換ができた。 これらのことから、本研究計画は当初の計画以上に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度に向けて、研究成果をとりまとめ論文として公表することを目指すとともに、国際学会や海外研究者との研究交流を通じてその成果の発信に努める。現時点でアメリカやイギリスでの学会参加や、イギリスの大学への渡航および学生の派遣を予定しており、これらの活動を通じて成果の国際発信を進めてゆく予定である。 また、本研究課題の終了後を見据えた内容になるが、本研究課題の成果を発展させ、協力への投資とその利得との関係がより複雑な場合についての解析を開始する予定である。すなわち、個体の協力努力の連合様式について、本研究課題では大きく分けて「投資(z)の連合」と「効果(f(z))の連合」の可能性を考えていたが、これらが複合的に作用する場合における協力の進化動態について予備的な解析に着手する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は本研究課題の最終年度であり、研究成果の積極的な発信が望まれる。国際学会や海外研究者との研究交流を通じた成果の発信のために、研究費の大きな割合を海外旅費に充てる予定である。現時点ではアメリカ数理生物学会への参加、イギリス・ブリストル大学への渡航などを計画している。また博士課程学生の伊藤公一君を、イギリスで開催される国際生態学会(INTECOL)に派遣するとともに、その後ブリストル大学に一ヶ月ほど滞在してもらうことを計画している。研究費は主としてこうした活動に充てる予定である。
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Research Products
(22 results)