2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23570042
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
田中 亮一 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (20311516)
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Keywords | クロロフィル |
Research Abstract |
クロロフィル分解は植物の老化やストレス応答に必須な、重要なプロセスである。本研究では遺伝学的手法や分子生物学的手法を用いて、複数のクロロフィル分解経路が植物に存在する可能性を検討し、クロロフィル分解経路の全体像を明らかにすることを目的としている。本研究では、クロロフィル分解に関わると考えられる酵素のうち、特にchlorophyllase (CLH)に焦点をあてた。なぜなら、この酵素はin vitroで強いクロロフィル分解活性が見られるにも関わらず、in vivoでのクロロフィル分解への関与について、明快な証拠が提示されていないからである。本研究では、シロイヌナズナを研究材料として用いている。シロイヌナズナにはCLH1とCLH2の2種類のアイソフォームが存在する。 昨年度は、CLH1が葉緑体の外に存在すること、また、CLH1, CLH2を欠く変異体でも、クロロフィル分解に差が見られないことを示した。それでは、CLHは一体、どのような状況でクロロフィルを分解するのであろうか?これを明らかにするために、本研究では、クロロフィルを葉から抽出する際の条件を検討し、CLHの影響を正しく見積もるための方法を開発した。その結果、(1) 事前に葉を5秒間ボイルする、(2) 凍結した状態で、葉を破砕し、-30度に冷やしたアセトンでクロロフィルを抽出する、(3) N, N'-dimethylformamideをアセトンの替わりに用いてクロロフィルを抽出する、という3つの方法を用いることで、抽出時のクロロフィラーゼ活性をほぼ完全に抑えることができた。この結果、葉の破砕前の植物細胞内のクロロフィリドの蓄積レベルは非常に低く、クロロフィリドは主に葉の破砕時に生成されることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、クロロフィル分解経路の全体像を明らかにすることにある。昨年、クロロフィラーゼを欠損したシロイヌナズナの変異体を詳細に解析する事によって、通常生育条件においても、ストレス下(本研究では、メチルジャスモン酸処理条件下で解析した)においても、クロロフィラーゼの欠損はクロロフィル分解に影響を与えないことがわかった。一方、既に報告されている通り、フェオフィチナーゼの欠損株は、どちらの条件においてもクロロフィル分解が著しく遅延した。これらの結果は、フェオフィチナーゼが(すべてではないにしても、)葉緑体におけるクロロフィル分解の主要な酵素であることを示している。一方、本研究では、細胞が破砕したされたとき(組織が傷害を受けたときに相当すると考えられる)のクロロフィル分解について着目した。CLH活性の影響を正しく見積もる手法の開発によって、CLHは細胞が破砕されたときに著しい活性を示すことを見いだした。これらの結果から、CLHの細胞内機能に関して、新しい仮説を見いだし、現在、それを検証しようと研究を進めている。この仮説が正しければ、クロロフィル分解と植物の防御機能の関わりが明らかになるとともに、なぜ、クロロフィル分解の活性が葉緑体の外に存在するか、という理由が明らかになると考えられる。このような点から、本研究は順調に進行していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のとおり、本研究によって、CLHは細胞が破砕されたときに著しい活性を示すことが明らかとなった。この結果は、生理学的にはどのような意味があるのか、考えてみると、これは、葉が虫や草食動物などによって食害を受けたときの状態に近いと考えられる。この考察を進めてみると、CLHは食害を受けたときにクロロフィルを分解し、クロロフィリドを生成する酵素なのではないかと推察できる。また、CLH1遺伝子の発現はメチルジャスモン酸処理によって誘導されることが知られているが、この植物ホルモンは食害などを受けたときの植物の防御応答に関わっていると考えられている。これらの考察から、CLHは植物が食害を受けたときに、クロロフィリドを生成し、クロロフィリドが防御物質として機能するのではないか、という予想を立てた。現在、クロロフィル分解経路が食害を受けたときにはたらき、防御応答として機能しているのではないかと考え、このクロロフィル分解経路の活性をあげた、CLH過剰発現株における、食害への防御の影響を調べたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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