2011 Fiscal Year Research-status Report
キサンチン酸化還元酵素における阻害剤の作用の研究―「鍵と鍵穴」のドグマを超えて
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23570198
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Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
菊地 浩人 日本医科大学, 医学部, 准教授 (00224907)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡本 研 日本医科大学, 医学部, 准教授 (60267143)
藤崎 弘士 日本医科大学, 医学部, 講師 (60573243)
古田 忠臣 東京工業大学, 大学院生命理工学研究科, 助教 (10431834)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 酸化還元酵素 / 構造・機能予測 / 分子動力学 / キサンチン / 痛風治療薬 / 阻害剤 / フェブキソスタット / 創薬 |
Research Abstract |
キサンチン酸化還元酵素(XOR)は、キサンチンを水酸化して尿酸に変換する酵素であり、その過剰な反応は痛風の原因となる。痛風治療薬として日本で新規開発された阻害剤(フェブキソスタット)は、哺乳類には確かに効くがバクテリアには効かないという実験結果を示し、理論計算からその原因を説明した(Sci. Rep. 2, 331; DOI:10.1038/srep00331 (2012))。このことは、実施計画前半部分に関する成果であり、研究目的であった、XORの阻害作用の解明(フェブキソスタットの場合)を正に果たしたものである。具体的には、本来の基質と結合する酵素側鍵穴部分の活性部位アミノ酸の影響ではなく、酵素の鍵穴の入り口付近のアミノ酸の違いが重要な影響していることを明らかにした。鍵穴の形状は、種の違いによってほとんど同じであり、ファブキソスタットは哺乳類に対してもバクテリアに対しても、鍵穴の空間を埋めるようにコンタクトしていて、現在のドッキングソフトウェアでも両者の違いを見出せなかった。生体反応で良く言われる、いわゆる「鍵と鍵穴」のような静的な描像では説明するのが困難な現象であり、動力学計算を通してはじめて、その現象を理解することが可能であった。このことは「鍵と鍵穴」のドグマを超える内容であり、学術的な意義がある。 また、この研究結果で新たにわかった知見は、今後の製薬に対する示唆も与えている。すなわち、フェブキソスタットのように、バクテリアには効かないが人には効くという他の病気を治療する薬があれば、人にとって有用である腸内細菌には効かないが病気そのものには効くという薬の開発可能性を物語っている。また、逆に、バクテリアには効くが、本来人間に備わっている酵素には効かない薬の開発可能性も同時に物語っていて、そのような薬は、人に直接害を及ぼすバクテリアを殺すのに有効であろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、平成23年度において、バクテリアと哺乳類のキサンチン酸化還元酵素に対する阻害剤(フェブキソスタット)の阻害効果の違いに関して、分子動力学ソフトウェアであるAmberを利用してその原因を説明することができ、一流のジャーナルに掲載することができた。ただし、研究計画において記述した、熱力学的に重要な相互作用に関して定量的な議論をするに至っていない点がある。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、阻害剤(フェブキソスタット)の末端部分と、キサンチン酸化還元酵素側の鍵穴入り口付近のアミノ酸残基間の疎水性相互作用が、哺乳類とバクテリアに対する薬の効き方に対して決定的な要因であることが明らかになった。次の段階としては、酵素と阻害剤の親和性に関して結合自由エネルギーを計算し、定量的な評価をしていく必要がある。また、阻害剤を化学的な修飾を変えたときや酵素のアミノ酸残基をミューテーションした場合に、結合自由エネルギーがどのように変化するかということを調べるためには、単純な分子動力学計算では不十分であるので、未設定の分子に関するパラメトリゼーションを量子化学計算に基づいて行ったり、string法やパスサンプリング法の具体的な適用方法を模索する新たなアルゴリズムを開発するなどして、より精度を高めた定量的な評価ができるようにしていく。 実験では、ニワトリ肝からのXORの精製と結晶化、構造解析、フェブキソスタット複合体の構造解析、フェブキソスタットによる阻害機構、阻害定数の決定を行う。 更に、フェブキソスタット以外の阻害剤に関しても、実験データに基づき、同様な計算を行って、阻害作用の総合的な理解を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究代表者の菊地の学会出張旅費や消耗品の購入に対して32万円を予定している。 研究分担者の岡本が、酵素の結晶の精製や阻害作用の実験を行うための消耗品の購入に対して、20万円の支出を予定している。 研究分担者の藤崎の学会出張旅費として10万円を予定している。 研究分担者の古田の学会出張旅費として10万円を予定している。
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