2013 Fiscal Year Research-status Report
登熟優先度調節系からのアプローチによるイネ穎果のデンプン蓄積および品質向上
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23580016
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中村 貞二 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助手 (70155844)
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Keywords | イネ / 穎果 / 登熟優先度 / 品種 / 登熟 / 品質 / source/sink比 |
Research Abstract |
イネには穎果の登熟優先度調節系が存在し,低source/sink比によりとくに弱勢な穎果の初期成長が遅延し易い.前年度の研究では,弱勢な穎果の初期成長の遅延は,後の乾物蓄積期における穎果のsucrose synthase,ADP-glucose pyrophosphorylase,starch synthaseなどの炭水化物代謝関連酵素活性の低下を通じて,穎果のデンプン合成・蓄積能力を低下させ,登熟・品質の悪化を引き起こすという機構が明らかとなった.したがって,イネが本来持っていると考えられる登熟優先度調節系が米の登熟・品質に大きく関わっていると考えられた.そこで本年度は低source/sink比条件下でも弱勢な穎果の初期成長が遅延しにくい,すなわち登熟優先度調節系が弱い品種と,弱勢な穎果の初期成長が遅延しやすい,すなわち登熟優先度調節系が強い品種を用い,登熟優先度調節系の弱い品種は強い品種よりも,品質の点で優れるか実証することを試みた.出穂期の穎果間引き(高source/sink比)ではほとんどの品種の弱勢な穎果において,開花から穎果の幅が籾殻の半分に達するまでの初期成長は速まったが,出穂期の剪葉(低source/sink比)では反対に初期成長が遅延した.しかし,その遅延程度,すなわち登熟優先度調節系の強さは品種により異なった.また,剪葉により特に弱勢な穎果の登熟が低下し,さらに白未熟粒発生によりそれらの品質が低下したために穂全体でも登熟と品質が低下したが,その低下程度は弱勢な穎果の初期成長の遅延が大きい品種ほど大きかった. 以上より,剪葉などのsource/sink比が低い条件下でも弱勢な穎果の初期成長の遅延が少ない品種,すなわち不良環境下でも一穂内の穎果が一斉に登熟する登熟優先度調節が弱い品種が強い品種よりも登熟や品質が低下しにくく,優れていることが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イネには登熟優先度調節系が存在し,とくにに弱勢な穎果では低source/sink比下で内生ABAレベルが低下することによりその初期成長が遅延すること,この遅延は後の乾物蓄積期におけるデンプン合成・蓄積能力の低下を通じて登熟・品質を悪化させることが示されている.しかし,初期成長の遅延からデンプン合成・蓄積能力低下までの機構は明らかではない.ABAはunloadingの促進を通じてsinkにおける物質蓄積を直接的に促進するという成長制御以外の機能が指摘されているが,本研究結果ではその機能は認められず,ABAは穎果の初期成長を促進して,後に起こるデンプン合成・蓄積を間接的に促進していることがわかった.また,低source/sink比による弱勢な穎果の初期成長の遅延は,後の乾物蓄積期における炭水化物代謝関連酵素活性の低下を通じて穎果のデンプン合成・蓄積能力を低下させ,登熟・品質の悪化を引き起こすことが明らかとなった.さらに,source/sink比が低い条件下でも弱勢な穎果の初期成長の遅延が少ない品種,すなわち不良環境下でも一穂内の穎果が一斉に登熟する登熟優先度調節が弱い品種が強い品種よりも登熟や品質が低下しにくく,優れていることが明らかとなった.すなわち,低source/sink比から米の登熟・品質悪化までの一連の機構を明らかにし,さらにその機構を登熟優先度調節の強さの異なる品種を用いて実証した.したがっておおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までの研究では,ABAは穎果における物質蓄積を直接的に促進していないが,登熟優先度調節という重要な役割を持ち,穎果の初期成長期のとくに弱勢な穎果では低source/sink比下で内生ABAレベルが低下することによりその初期成長が遅延する.そしてこの穎果の初期成長の遅延は後の乾物蓄積期における炭水化物代謝関連酵素活性の低下を通じて穎果のデンプン合成・蓄積能力を低下させ,登熟・品質の悪化を引き起こすことが明らかとなった.つまり低source/sink比条件から米の登熟・品質悪化までの一連の機構が明らかとなった.さらに,弱勢な穎果の初期成長が遅延しにくい登熟優先度調節の弱い品種が強い品種よりも登熟や品種が低下しにくく,優れていることが明らかとなった.つまり低source/sink比から米の登熟・品質悪化までの一連の機構を明らかにし,その機構を登熟優先度調節の強さの異なる品種を用いて実証した.登熟優先度の弱い品種の方が一穂内の穂が一斉に登熟するために同化物の競合が生じ,品質は悪化するとも考えられるが,前年度の実験では反対の結果であった.これは,予想していた結果で,同化物競合の前に穎果自身のデンプン合成・蓄積能力が大きく関わるからと考えられる.この考察は,本研究の根幹に関わるもであるために,前年度と同様の実験を行い,結果の再現性を確認する.また,外部からABAを施与し,特に弱勢な穎果の初期成長を速める,すなわち登熟優先度調節を人為的に弱くすることを前年度に試みたが,はっきりとした処理の効果を得ることができなかったので,今年度は再実験を試みる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
栽培資材(ポットなど)の消耗が激しくなく,更新を行う必要がなかった,またプラスチックチューブなどの消耗品を洗浄して再利用したなどの理由で次年度使用額が生じた. イネ穎果の登熟・品質に関する測定を行うために,栽培資材,ガラス・プラスチック器具等の消耗品が主に必要となり,購入予定である.また,得られた結果を学会発表するための,またイネ登熟に関する調査を行うための旅費が必要となる.
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