2011 Fiscal Year Research-status Report
加圧熱水による反応場を用いたデンプン・多糖類のナノ粒子分散系調製技術の開発
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23580157
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
清水 直人 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (70323251)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 俊範 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (60111241)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 食品工学 / ナノ材料 / 機械工作・生産工学 / フードナノテクノロジー |
Research Abstract |
本研究は、ある程度過酷な反応場(温度:~200 ℃(473.15 K)、圧力:~7 MPa)を加圧熱水システムにより作りだし、大きな目標として食品加工やバイオマス変換技術として広く応用の可能なデンプン・多糖類のナノ分散系調製のための加工基盤技術を開発することにある。具体的な課題として、加圧熱水システムを用いて各種温度・圧力条件に基づいてナノ粒子分散系を調製するとともに、ナノ粒子化ための各種反応条件で得られた結果を取り纏め、最適な反応条件を見いだす。糖質素材のサイズダウンによって生ずる融点低下、溶解度増大、結晶化、物性改良等の物理化学的性質の解明を進め、ナノ粒子分散系の新機能創出に向けた知見を提示する。今年度の研究の成果・具体的内容を以下に示す。ナノ分散系調製の条件検討:加圧熱水処理の試料として耐圧容器内の条件を整えた後に、反応容器を有機合成装置にセットし、加圧熱水の反応場を創り出した。反応を始めてから設定温度到達までの過程における温度変化、圧力変化を計測した。イオン化カルシウムの分析:デンプンとカルシウムイオンのナノ構造体を作製することを目指し、バイオマス素材として扱われるホタテ貝殻の緩衝液/酸・塩基抽出カルシウムの特性を明らかにするために、微粉末ホタテカルシウムの可溶化と、イオン化カルシウムの測定を行った。噴霧乾燥試験:溶解度の高い物質(具体的には尿素)のモデル液体を供給して、乾燥温度、空気供給圧力、二流体ノズル径数種を組み合せて噴霧乾燥実験を進め、噴霧乾燥機の運転条件の解明を行った。運転時の所用エネルギーや収率について測定を行い、噴霧乾燥機による溶解度の高いモデル液体の微粒子化についての特性を調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
加圧熱水による反応場を用いたナノ粒子分散系調製の条件検討は、本研究の中心的な課題である。大きな成果としては、加圧熱水システムの条件を設定し、微粒子化を進め、乾式粉砕・分級方法では困難であった米デンプン粒子のナノスケール化が達成され、設定目標近くの平均粒径サイズまでデンプン粒子を小さくできたことにある。また、カルシウムとデンプン複合ナノ粒子作製に向けた加工技術の提案のため、前処理としてカルシウムの可溶化と測定、同時に噴霧乾燥を用いたデンプン・多糖類ナノ粒子の固体結晶化についての実験を行った。ナノ分散系構築のための条件検討:平均粒子径 約30 μmの米デンプン(0.6 g)、溶媒として超純水(60 ml)を耐圧容器(63 ml)に注入をする。耐圧容器内の空気を窒素ガスに置換した後、容器内を所定の圧力(大気圧~3 MPa)に調整・密封する。有機合成装置に耐圧容器をセットし、設定温度(~453.15 K)まで加熱する。調製デンプン粒子の平均粒径を動的光散乱光度計により測定し、最小の100 nm以下のサイズであることを確認した。イオン化カルシウムの分析:溶出カルシウムの測定は、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma :ICP)発光分析装置を用いて行った。塩酸抽出では大きな溶出量を得られた。カルシウム溶出率を見ると、強酸である塩酸抽出では75%の大きな溶出率が示された。噴霧乾燥試験:スプレードライヤーを用いて、モデル溶液を数十~数百 μmの微小液滴に噴霧し、これらを高温熱風(423.15 K以上)に接触させて固体結晶化する。尿素モデル溶液の噴霧乾燥試験の結果から、粉末化は、問題無く行われたが、乾燥粉末の収率を高めるための工夫が求められた。
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Strategy for Future Research Activity |
デンプン・多糖類のナノ粒子分散系調製の加工基盤技術を開発することが大きな目標である。加圧熱水による反応場を用いて設定目標近くの平均粒径(平均粒子径:100 nm以下)までデンプン粒子をサイズダウンして、ナノ粒子分散系を調製できた。この成果をもとに、今年度は、デンプンナノ粒子の走査型電子顕微鏡による構造観察、デンプン・多糖類ナノ粒子化反応解析と分散系の安定性評価を進める。研究内容としては、様々な条件で微粒子化を進め、反応の平衡定数や自由エネルギーの計算、ナノ粒子分散系の安定性評価に関する研究を行う。加圧熱水による反応場を用いて、デンプン・多糖類・カルシウムを素材として、ナノ粒子分散系を調製し、作製粒子の溶解度等を測定する。これらのデータの蓄積を図りナノ粒子化反応解析の結果を取り纏めて、加圧熱水システムのスケールアップや限界性等の知見の提示を試みる。また、凍結乾燥機、噴霧乾燥機等により液体と固体の変換操作を速やかに進め、既存技術によって調製された微粉末の特性等を調べる。平衡定数、自由エネルギーの計算:加圧熱水の熱力学量(温度、圧力、密度、体積、内部エネルギー、エンタルピー、エントロピー、定圧熱容量、定容熱容量)は、米国の国立標準技術研究所(NIST)の公開データに基づいて計算を行う。さらに、ナノ粒子化の開始条件と、平衡条件に基づいて反応の自由エネルギーを求める(小宮山、1996)。安定性評価:各種条件で調製されたデンプン・多糖類ナノ粒子を所定の温度で(室温、278.15 K)で保持し、平均粒子径、場合によってはゼータ電位等を指標にしながら、ナノ分散系の安定性を評価する。さらに、保存期間中に、ナノスケール化デンプン粒子の自己組織化も予想され、粒子構造体の透過型電子顕微鏡による観察を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H23年度に実施した調製微粉末の保存のための実験用消耗品費の支払いに使用する。
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