2011 Fiscal Year Research-status Report
国内農業の自給力強化策と東アジア食料需給戦略に関する計量経済学的研究
Project/Area Number |
23580310
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Research Institution | Hokkai School of Commerce |
Principal Investigator |
阿部 秀明 北海商科大学, 商学部, 教授 (60183141)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柳川 博 北海商科大学, 商学部, 教授 (70166536)
田辺 隆司 北海商科大学, 商学部, 教授 (90360065)
佐藤 博樹 北海商科大学, 商学部, 教授 (20261084)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 東アジアの食料需給 / 計量経済モデル / シミュレーション分析 / 多様性環境 / 産業内貿易 / 地域間産業連関分析 / 食料自給力 / 食糧基地 |
Research Abstract |
本研究では、国内の自給力強化に向けた具体施策(リージョナルな課題)と東アジア圏全体の食料需給のあり方(グローバルな課題)といった両面を分析視点で捉え、固有の共通性を有する東アジア諸国の食料安保と食料備蓄を通じた分配機能を併せ持つ東アジアの食料需給戦略に関して研究するものである。本研究を遂行するためには、国内外の食料需給の見通し(計量的分析)と具体的な食料戦略を分析・提示するものであるが、特に研究の要である実証分析では、(1)東アジア全体の食料需給の予測分析、(2)国内の自給力強化の具体施策のシミュレーション分析、(3)東アジア食料需給調整(備蓄)のシミュレーション分析、そして(4)東アジア全体に向けた食品産業活性化の具体案提示等、何れも計量経済学的アプローチにより実施するものである。今年度は、(1)グローバルな視点による分析として、(1)人口増加、所得上昇、環境条件等の与件変化に基づく東アジアの食料需給の将来予測を試みた。具体的には、日本,中国,韓国,その他を分析対象とした計量経済モデルを構築し、分析モデルの統計的妥当性の検証を行った。さらに、部分的であるが幾つかの要因による需要変化を想定したシミュレーションを実施した。また、(2)多様性環境(バーチャルウォーター、土壌窒素負荷量、CO2排出量)を上記モデルに組み込むための環境負荷指標を導入し、理論モデルを構築した。今年度は、具体的な定式化も試みているが、統計的妥当性の点で改良の余地を残している。今後は、さらにモデルの改良に努め、環境負荷への影響を考慮し得るモデルでシミュレーション分析を実施する予定である。(2)当該モデルに基づく東アジア固有の共通性に関し部分的ではあるが比較分析を実施した。その結果を踏まえて、東アジアの共通農政に向けた新たな視点(多様性環境を考慮したルール化、東アジアの所得分配機能の考慮)の導入を想定した仕組みについて検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではグローバルな課題として、(1)東アジア圏全体の食料需給のあり方について、先ず東アジア(日本,中国,韓国,その他)を対象とした計量経済モデルにより、人口増加、所得上昇、環境条件等の与件変化に基づく食料需給の将来予測を試みた。この点で当初の目的は達成したものと考える。しかし、環境条件の与件変化に関して、多様性環境(バーチャルウォーター、土壌窒素負荷量、CO2排出量)を当該モデルに組み込むための環境負荷指標を導入して理論モデルを構築したが、具体的な定式化において十分とは言えず、特に統計的妥当性の点で改良の余地が残されている。今後は、さらにモデルの改良に努めるとともに、環境負荷への影響を考慮した当該計量経済モデルでシミュレーション分析を実施する予定である。また、本研究では独自の計量経済モデルを構築したが、妥当性やデータの利用可能性を考慮してGTAPモデルの援用も今後検討する。 一方、(2)東アジアとの産業内貿易(水平分業)の拡大戦略(産業連関分析による検証)の実証分析を行うために、今年度は第1段階として、国内における食料費の部門別の帰属額について検討したが、今後は、商品の生産工程における工程間分業・フラグメンテーションの拡大を仮定したシミュレーションを実施するとともに、東アジアの持続的発展戦略について検討を加える必要がある。この点で、今後、検討の余地を残しているが、全体としては、概ね当初の計画を達成したものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、先ず、(1)分析のための食糧需給モデルの改良を図ることが第一に挙げられる。特に、環境条件の与件変化に関して、多様性環境(バーチャルウォーター、土壌窒素負荷量、CO2排出量)等の環境負荷指標を当該モデルに組み込むための具体的な定式化と統計的妥当性の検証を実施する。そのもとで、環境負荷への影響を考慮した当該計量経済モデルでシミュレーション分析を実施する。また、(2)東アジアとの産業内貿易(水平分業)の拡大戦略(産業連関分析による検証)の実証分析を行うために、今後は、商品の生産工程における工程間分業・フラグメンテーションの拡大を仮定したシミュレーションを実施する。これにより、東アジアの活力を活かし、わが国食品産業の国際競争力の強化を図ることが狙いである。同時に東アジア各国の食品産業の発展に寄与することに繋がるもので、いわば「東アジア食品産業共同体構想」を推進するための具体的な戦略を提示するものである。 一方、(3)我が国農政に関するリージョナル視点からの分析を実施する。(1)水田フル活用(減反→選択、米粉用米、飼料米、バイオエタノール)を想定した場合の食料自給力強化策を計量的に検証する。(2)地域の多様性を考慮した戦略作物の選定、農地の有効利用を如何に推進するか、食糧基地北海道(地域ブロック別)を対象にした計量分析と実態調査により分析・検討する。(3)飼料用米、油糧用原料の菜種、地域の季候や土壌条件、農業形態に配慮した弾力的な作物の選択方法、農地の有効利用、担い手への面的集積について検討し、自由度を高めた産地づくりの作物選択等、具体的提言を加える。得られた結果を中間成果報告として取り纏める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の研究方法は、計量分析、実態調査、事例分析(サーベイ研究)等の3つに大別されるが、各分析に必要となる研究費の使用計画は以下の通りである。1)計量分析では、(1)東アジアの食料需給(日本・中国・韓国を含む東アジア、その他を分析対象)と環境負荷の影響を考慮した(バーチャルウォーター、土壌窒素量、CO2排出量等の環境指標を導入)世界食料需給計量モデル分析(特に妥当性の点で改良)を継続して実施するため、データの収集・整理、実際の計測が中心となる。また、(2)国内の自給力強化の可能性を探るため、地域ブロック別(主に北海道とし、東北・関東、四国・九州はSubモデル)の地域計量モデル(地域間産業連関表分析も検討する)による水田フル活用や戦略作物の選定のシミュレーション分析を実施するため、公表データの収集に加え、シナリオ作成のためのヒアリング調査が必要となる。これらの必要経費として、国内外旅費並びにデータの収集・整理のためのアルバイト謝金、計測するためのPC(パソコン)購入が当てられる。(国内外旅費1,000千円、PC等の物品費500千円、謝金等の研究補助200千円)2)実態調査では、(1)生物多様性を考慮した戦略作物の選定、自給力強化に向けた地域の取組みについて、北海道の事例調査:「米粉加工(外食、食品製造業との連携)」、道外の事例:「小麦粉消費量の10%を米粉に置換(例えば.R10プロジェクト)」や「学校給食に米粉使用」の取組み事例調査を実施する。事例分析に関しては、資料収集が中心でありインターネットでの検索とともに実際に現地において資料・文献収集を必要に応じ実施する。また、研究遂行上、調査地において研究打合せが必要となるので、研究分担者のヒアリング調査等の旅費や会議費等の経費が必要となる。(国内旅費700千円、会議費80千円)
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