2013 Fiscal Year Research-status Report
国内農業の自給力強化策と東アジア食料需給戦略に関する計量経済学的研究
Project/Area Number |
23580310
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Research Institution | Hokkai School of Commerce |
Principal Investigator |
阿部 秀明 北海商科大学, 商学部, 教授 (60183141)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柳川 博 北海商科大学, 商学部, 教授 (70166536)
田辺 隆司 北海商科大学, 商学部, 教授 (90360065)
佐藤 博樹 北海商科大学, 商学部, 教授 (20261084)
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Keywords | 東アジアの食料需給 / 計量経済モデル / 産業連関分析 / シミュレーション分析 / 自由貿易協定 / 産業内貿易 / 食料自給力 / 食料基地北海道 |
Research Abstract |
本研究ではグローバルな課題として、(1)東アジア圏全体の食料需給のあり方について、先ずは、①世界の食料需給の動向とアジアを中心とした与件変動分析を実施した。具体的には、アジアを中心に各国の食料需給を取り巻く与件が変化した場合に、わが国の食料需給、アジア全体、さらには世界全体の食料需給に如何なる影響がもたらされるか、我々が構築した世界食料需給モデル(マクロ計量モデル)によるシミュレーション分析を通じて試算・検証した。次に、②これまでの東アジアFTA/EPA、TPPをはじめとする自由貿易協定等の進化の中で、日本・米国・豪州、そしてアセアン諸国や中国・韓国が如何なる国内対策を講じているのか、また対抗軸となる国々がどのような戦略の上で経済連携を進めているのかについて概括した。こうした前提の下で、FTA/EPAをめぐる東アジアとの連携を図る方策について考察を加えた。そこでは、わが国は、新大陸型輸出国である米国や豪州、欧州圏等の統合の拡大・進化に対抗する政治的・経済的な拮抗力として、アジア全体の持続的発展を推進し、国際社会における地位を強化する必要がある点を指摘した。その具体化として東アジアの農業を見据えた戦略を打ち立てること。固有の共通性を有する東アジア諸国の食料安保と食料備蓄を通じた分配機能を併せ持つ東アジアの食料需給戦略(食のネットワーク化)を提案した。 一方、(3)我が国農政に関するリージョナル視点からの分析では、食料自給力の強化に向けたリージョナル(食料基地北海道を対象)な食料戦略について、特に地域資源の有効利用については次のような分析を実施した。①TPP協定による自由化の波が食料基地北海道の食料自給力に如何なる影響を及ぼすのか独自の計量モデルで明らかにした。②これまでの食料自給力の強化に向けた幾つかの政策効果を分析・評価し、具体的な政策対応(自給力強化策)を提言した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究ではグローバルな課題として、(1)東アジア圏全体の食料需給のあり方について、我々が構築した改良型計量経済モデルにより、東アジア(日本,中国,韓国,その他)を対象として人口増加、所得上昇、環境条件等の与件変化に基づく食料需給のシミュレーション分析を実施し、自給力強化と東アジアの食のネットワーク化構築の必要性に関する政策提言を試みた。この点で当初の目的は達成したものと考える。しかし、昨年度の課題でもあった(2)東アジアとの産業内貿易(水平分業)の拡大戦略の実証分析については、不十分な分析・検証内容に留まっている。特に、商品の生産工程における工程間分業・フラグメンテーションの拡大を仮定した試算とその検討が必要となる。 一方、(3)我が国農政に関するリージョナル視点からの分析については、食料自給力の強化に向けたリージョナル(食料基地北海道を対象)な食料戦略について、①これまでの食料自給力の強化に向けた幾つかの政策効果を分析・評価し、関税撤廃といった自由化の流れの中で、如何なる政策対応を講ずるべきかを検討し自給力強化策を提言した。しかし、②食品加工や関連産業といった非農業部門の生産拡大の視点から、地域資源を活用した農産物・魚介類の加工幅拡大(食料産業の拡大推進→高付加価値化)や6次産業化を想定し、食品産業をはじめ、他産業との連携をより強化することで地域経済・雇用への活性化策が図れるのか否かの実証分析については、多くの検討課題を残している。特に産業連関分析を通じて試算・検証に課題が残る。この点で、次年度では、産業連関表における農畜産物の食品加工向け比率を高めた場合を想定し、加工度を高めることで如何なる生産誘発・付加価値誘発が期待できるかシミュレーションを通じて試算する必要がある。 以上、全体としては、幾つか検討の余地を残すなど、当初の計画からはやや遅れているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、(1)グローバルな視点で、東アジアとの産業内貿易(水平分業)の拡大戦略(産業連関分析による検証)の実証分析を行う。具体的には、商品の生産工程における工程間分業・フラグメンテーションの拡大を仮定したシミュレーションを実施する。これにより、東アジアの活力を活かし、わが国食品産業の国際競争力の強化を図ることが狙いである。同時に東アジア各国の食品産業の発展に寄与することに繋がるもので、いわば「東アジア食品産業共同体構想」を推進するための具体的な戦略を提示することができると考える。 一方、(2)我が国農政に関するリージョナル視点からの分析結果(水田フル活用:減反→選択、米粉用米、飼料米、バイオエタノールを想定した場合の食料自給力強化策)に基づき具体的な政策提言を加える。また、今年度の懸案であった(3)食品加工や関連産業といった非農業部門の生産拡大の視点から、地域資源を活用した農産物・魚介類の加工幅拡大や6次産業化(食品加工・流通への仕向率強化)を想定し、食品産業をはじめ、他産業との連携をより強化(地域全体としては、食・産業クラスター化を想定)することで地域経済・雇用への活性化策が図れるのか否かの実証分析を実施する。具体的には、産業連関表における農畜産物の食品加工向け比率(仕向率)を高めた(素材生産物→加工仕向に至る自給率を疑似的に操作)場合を想定し、加工度を高めることで如何なる生産誘発・付加価値誘発が期待できるかシミュレーションを通じて試算する。 最後に、食料基地北海道における自給力強化と東アジアの食のネットワーク化(東アジア食料需給調整システム)の構築に向けた政策提言等の総括を行い、最終報告書として取り纏める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
以下の①~③の事由により、研究費未使用額が発生した。 ①実態把握のための調査機会に関し、日程変更等が生じ、旅費等に未使用額が発生した。また、データの利用可能性の点で、資料収集やデータ解析等の経費に未使用額が発生した。 ②研究成果の妥当性や課題の整理・検討のための研究会実施の日程調整がつかず、当該経費に未使用額が発生した。これらにより、③成果報告書作成等の経費が未使用となった。 本年度の研究計画において、達成できなかった実態調査やデータ解析等の分析、さらに成果の妥当性の検討会(研究会)の実施を含め、研究成果の公表に向け取組む。具体的な使途内容について以下に示す。 ①分析対象の調査実施に伴う旅費等経費:70万円。②研究会を実施して、本研究成果の妥当性や課題について整理・検討を行う予経費:40万円。③研究成果の公表の為、報告書を作成する経費(印刷製本等):30万円を充てる。
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