2012 Fiscal Year Research-status Report
心房細動モデルを用いた心房筋におけるチャネル分子背景の加齢性変化の解析
Project/Area Number |
23580421
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 公一 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (50330874)
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Keywords | 心房細動 |
Research Abstract |
心房細動は加齢とともに発生率が上がる代表的な不整脈であり脳梗塞、心筋梗塞等の様々な病態のリスク要因である。しかしながらその発症機序の詳細は未だに不明な点が多く、その一因として小型実験動物を用いた心房細動モデル動物が作成しにくい点にある。本研究は実験動物として広く普及するラットを用いて心房細動を誘導し、その際に加齢性に発現量に変化が見られるチャネル分子を中心にその分布と心電図との対応関係を解析することによって心房細動の発症機序を分子レベルで理解することを目的としている。前年度は経食道電極を用いての頻回刺激により作製した心房細動モデルラットの有用性を検討した。この結果、ヒトの心房細動と共通する発症メカニズムを持っており老齢動物において心房細動が起きやすい器質があることが示唆された。本年度は、前年度で得られた心房におけるカリウムチャネル発現の結果をもとに、加齢に伴う発現量の変化が個体レベルで心房細動の発生にどのように関わっているのかを検討するため、心房細動誘発ラットにおいて薬理学的方法論による心房細動誘発の抑制における効果を検討した。その結果、心房に加齢依存的に発現しているIKAChチャネルの特異的遮断薬であるテルチアピンは濃度依存性に心房細動の誘発を抑制することが明らかになった。これに対し、IKurチャネルの特異的遮断薬DPO-1は抑制作用がみられなかった。このことから頻回刺激心房細動モデルラットにおいてIKAchが心房細動の発生に深く関与している可能性が示唆された。また、老齢群においてもテルチアピンが若齢群と同様の遮断効果をもたらした。今後加齢に伴うIKAchのチャネル特性の変化についてより詳細な研究が必要であることが重要であり、これらの成果は心房細動の機序解明のための大きな一歩になると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究も予定をおおむね達成したと考えられる。この理由として、前年度に達成したこと、すなわち①経食道カテーテル法によって誘発されたラット心房細動の性質を明らかにし②心房内に特異的に発現するIKurやIKAChを中心とした発現解析で得られた結果を踏まえた上で、本年度は③薬理学的方法論を用いた心房細動の制御を目標としたことがほぼ達成されたからである。具体的には、加齢依存性に心房に発現するIKAChの特異的阻害薬であるテルチアピンによる心房細動の抑制効果が濃度依存的に観察されたこと、また老齢ラットにおいても若齢と同様の抑制効果が観察されたこと、さらには心房のみに発現するIKurの特異的阻害薬であるDPO-1の効果が見られなかったことから、心房細動の誘発にはIKAChが強く関与していることが示唆された。現在は④病態モデルを用いた解析も始めており、一例として心房細動の発症率と正の相関を示す糖尿病が与える影響を調べるため、糖尿病モデルラットを作製してその機序に関する検討を行っている最中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策として、現在行っているIKACh及びIKur遮断の心房細動への影響を完了させることをまず行う予定である。その後、チャネル以外のもう一つの大きな心房細動発症要素であるギャップ結合の関与を調べるため、connexin43タンパク発現を週齢を追って解析することや、脱リン酸化阻害薬の効果を検討することを予定している。また現在同時並行して病態モデル動物における心房細動誘発性の検討を行っている。一例として、心房細動の発症率と正の相関を示す糖尿病が与える影響を調べるため、糖尿病モデルラットを作製してその機序に関する検討を行っている最中である。この解析の後には、高血圧や虚血性心疾患等、心房細動の基礎疾患の影響を解析する予定であり、これらの疾患モデル動物を用いて心房細動の発症に与える影響について検討したい。これらの解析を通じて基礎研究だけでなく、臨床治療への応用や創薬において非常に重要な情報を提供したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(3 results)