2011 Fiscal Year Research-status Report
産業動物に対する迅速な新規疾病ウイルスの検出と分離の試み
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23580451
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Research Institution | Azabu University |
Principal Investigator |
落合 秀治 麻布大学, 付置研究所, 講師 (20247307)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
水谷 哲也 国立大学法人 東京農工大学, 農学部附属 国際家畜感染症防疫研究教育センター, 教授 (70281681)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ウイルス / ブタ |
Research Abstract |
原因不明の産業動物の疾患を解明するためには、まず既知のウイルスや細菌などを検査し、これらの病原微生物が関与していないことを確認したうえで、未知のウイルスを探索しなければならないと考えた。そこで、初年度は産業動物の中でもウシとブタのウイルスに対象を絞り、検出しなければならないウイルスを選出した。アフリカ豚コレラウイルスなどの重要疾病ではあるが、日本において発生が認められないウイルス感染症については対象に含めないことにした。その結果、ウシでは25種類、ブタでは31種類のウイルスについての検出系(PCR)を構築することにした。ただし、この中には牛乳頭腫症の原因であるパピローマウイルスのように少なくとも5種の型が存在するものもあり、すべての型を検出することを目的としているので、ひとつのウイルスであっても複数のプライマーセットを用意することもある。本研究においては、それぞれのウイルスの検出に関する論文を検索し、最も適していると考えられるプライマーを用意している。しかしながら、論文に掲載されているプライマー配列を遺伝子バンクに登録されているウイルス群について、検出可能か否かを検討してみると、明らかに検出できない例もあった。そこで、最も適したプライマーセットをデザインするために、ウイルス群をアライメントした後に共通領域を抽出してくるプログラムを作成した。さらに、このプラグラムからプライマーをデザインできるソフトも作成中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は未知のウイルスを検出するための第一段階として、既知のウイルスのPCRによる検出系の作成にとりかかった。家畜で発生した感染症が未知のウイルスであることを確認することは困難であり、まず既知のウイルス感染であることを否定するためである。したがって、初年度は未知のウイルスについての解析を行えなかったが、必要なプロセスを踏んでいると考えている。それゆえ、現在の達成度はおおむね順調であると考えられる。初年度の問題点として、ウシやブタなどの産業動物では仮に未知のウイルスが検出されたとしても、酪農家から学会や論文発表することに異議を唱えられる可能性があることがわかった。特に昨年は東日本大震災に関連した原発問題により、農産物を中心とした放射能汚染による風評被害が問題となった。この問題は放射能汚染された藁や植物を主食とするウシやブタにも降りかかってくることが予想される。ウシロタウイルスやウシ下痢粘膜病ウイルスのように、日本に常在していることがすでにわかっており、毎年ある程度の感染が認められるウイルス感染症においては、報道されることがないので、酪農家は不評被害を気にすることはないと考えられる。一方、未知のウイルスに関しては、実際には病原性は低い場合であっても、病原性や感染様式などはすべて不明であり、風評被害の対象になりうる。次年度は、この問題点を踏まえて、ウシやブタなどの産業動物から検体を採取する際に、事前に十分な対策を練ることが必要と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
達成度の項目に挙げたように、実際に未知のウイルスを検出する際に問題となることは、未知のウイルスを発見したときに、酪農家が風評被害を恐れて学会発表や論文発表ができなくなる可能性が高いということである。この問題を解決できない限り、本研究はたとえ成果が得られても学術的には発表されないことになってしまう。そこで、次年度の推進方策としては、産業動物の獣医師などの協力のもと、本研究を理解いただける酪農家を探すことから始めなければならないと考えている。具体的には、麻布大学からは毎年15名程度の卒業生が産業動物の獣医師として就職しているので、彼らから情報を得て、早い時期にご協力を得られる酪農家を選出する。ウシやブタを飼育している10件の酪農家からの協力を目標とする。 未知のウイルスを検出するためには、2つの方法を用いる予定である。ひとつは、Rapid Determination system of Viral nucleic acid sequences (RDV法)であり、ウイルス分離後にわずか2日で未知のウイルスのゲノム遺伝子断片を検出できる。これまで、国内で12例以上の未知のウイルスを検出した実績がある。もうひとつは、次世代型シークエンサーを用いる方法で、ウイルス分離を必要とせず、1000万リードの解析が可能である。本法では、新規ウイルスの遺伝子断片が得られる可能性が高いが、ウイルス分離をしていないので、その後の病原性やウイルス性状に関する研究に発展する可能性は低い。次年度は、これら2つの方法の利点を活用しながら進めることにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度はRDV法と次世代型シークエンサーの消耗品費に重点を置いて計上している。RDV法は最終的にいくつのアンプリコンをシークエンスするかにより、費用が変わるが、通常は1解析で2-3万円程度になる。一方、次世代型シークエンサーはイルミナ社のパーソナル型のMiSeqを用いる予定である。この方法ではアンプリコンの作成方法によりかかる費用が異なってくるが、おおよそ1解析で10から15万円である。一方、これらの解析には多大な人手を必要とする。そのために、研究補助員を謝金で雇い効率的な解析を進める予定である。
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