2011 Fiscal Year Research-status Report
地球温暖化が水田の生物多様性と食物連鎖に及ぼす影響-FACE試験による解明-
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23580464
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Research Institution | National Institute for Agro-Environmental Sciences |
Principal Investigator |
岡田 浩明 独立行政法人農業環境技術研究所, 生物生態機能研究領域, 主任研究員 (30355333)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 地球温暖化 / CO2濃度 / 温度 / 水田生態系 / 土壌 / 線虫 / 水稲 / 微生物 |
Research Abstract |
CO2ガス濃度の無増加区(Amb)、それより200ppm濃度を高めた増加区(FACE)、また、無加温区及びそれより田面水の水温を2℃高めた加温区を入れ子とした試験区のセットにおいて、5月下旬(田植え前)、7月(湛水期)及び8月(落水期前後)に土壌を採取し、最も生物量が多いと期待される0-25mmの表層の土壌を小分けして各種生物の定量を行った。なお、表層土壌は農薬の影響を直接受けること、藻類や水草のパッチが不均一に発生し、生物相に影響することを想定し、25-50mmの下層土壌についても定量を行った。ただし、水生ミミズについてはいずれの土壌でも非常に個体数が少ないため、また、表層の藻類については実際にパッチが不均一に発生したため、定量を断念した。分析の結果、表層の線虫密度には、FACE<Ambの傾向が見られたが、反復間のバラツキが大きく有意ではなかった。一方、下層では比較的バラツキが小さく、7月にCO2と温度の相互作用が、8月には温度の影響が有意であり、特に8月にはCO2濃度によらず加温による密度の低下が認められた。線虫種別に見てもネモグリセンチュウでは8月に加温区で密度が低下した。また、統計分析の結果、8月の線虫密度の低下は、線虫の餌である水稲根や微生物を介したものではなく、高温による直接的な影響であることが示唆された。これらの結果は、水田生態系において魚類稚魚の餌や水稲害虫となりうる線虫の増殖が将来の高温で抑制されることを示す世界初の知見であり、水田生物に及ぼす地球温暖化の影響を予測する上で重要な情報となる。以上のような線虫の分析に加えて、土壌の一般細菌についてリアルタイムPCRによる定量のための条件を検討するとともに、水稲根の量を月別、土壌層別に定量した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
水生ミミズの密度が予想以上に低くデータがとれない、パッチが不均一に発生したため表層の藻類の定量ができないなどの問題のため、当初予定していた表層土壌中心の生物分析が十分できなかった。しかし、これを見越して下層土壌でも分析を行ったため、線虫全体及びネモグリセンチュウについては加温による顕著な増殖抑制を8月に、また水稲についてはCO2濃度及び土壌温度の増加によるバイオマスの増加を弱いながらもいずれの月でも検出することができた。線虫については全体の密度を推定した後に標本をホルマリンで固定し、全サンプルについてプレパラートを作製することができた。これにより、次年度以降に行う種ごとの詳細な分析が容易になった。また、当初は連携研究者からデータを提供してもらう予定であった水稲根の量についても、自分の土壌から十分量のサンプルが得られ、他の生物と同じ時期に上下層別にデータを得ることができた。以上のようなデータを得るための土壌の採取、土壌の小分け、各生物群の分析・定量、標本作製などに要する時間や労力を把握し、作業のプロトコール化ができた。加えて、土壌微生物をDNAベースで定量するための条件検討を実施することもできた。これらは来年度の研究進行をスムーズに行うための大きな進捗である。このため全体としてはH23年度の研究目的を概ね達成できたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初は表層土壌を中心に生物分析を行う予定であったが、反復間のバラツキが大きく温暖化の影響を検出できないと考えられるため、予定を変更して25-50mmの下層土壌を中心に分析を行うこととし、H24年度はH23年度と同様の調査、分析を行い、現象の再現性を検討する。また、土壌微生物の定量をリアルタイムPCRによりDNAベースで行い、CO2濃度及び土壌温度の影響の検出を試みる。このためH24年度は、土壌採取、小分け、生物分析にかかる作業の補助員を雇用するための賃金及び生物分析に係る試薬などの経費を必要とする。なお、H23年度は補助員の雇用手続きが遅れたこと及び藻類の分析ができなかったことなどにより51万円ほどの予算が未使用であったが、この経費はH24年度以降に請求する研究費と合わせて補助員の賃金及び試薬の購入経費などとして使用する予定である。H25年度は、H23、24年度に採取、作製した線虫標本の顕微鏡観察を進め、食性群ごとの密度を明らかにし、これに対するCO2ガス濃度及び温度の影響をより詳細に検討する。この他にも、H24年度までに終了できなかった生物の分析を行う。このため、H25年度は生物分析に係る試薬などの経費を必要とする。得られた分析結果について、生物群ごとに、CO2ガス濃度及び温度の影響を再度検討する。その結果を利用し、線虫などの動物に対し、CO2ガス濃度と温度の直接的な影響及び、水稲根や微生物などの餌を介した温暖化の間接的な影響が各々どの程度であるか、一般化線形モデルなどにより統計分析する。またH23年度とH24年度のデータを比較することで、密度やバイオマスの年次間差を生物群ごとに検討し、温暖化の影響が年次を超えて蓄積されるか否かについても検討する。以上の分析により、地球温暖化が水田の土壌食物網に及ぼす影響を総合的に解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
5月から8月までに行う土壌の採取、各生物群の分析に用いる土壌の小分け、水稲根量および線虫密度の推定、線虫標本の保存及びプレパラート作製などの作業及びその準備を行うためには、4月から12月頃まで研究補助員1名を雇用することが不可欠である。また、DNAベースで微生物の定量分析を行うためには、土壌からのDNA抽出、得られたDNAの精製、リアルタイムPCRによる定量分析の実施などにかかる試薬類の購入が不可欠である。さらに、以上の調査・分析により得られた成果を公表するためには、学会発表にかかる出張旅費の支出も不可欠である。このため、賃金として計154万円、試薬代として計60万円、出張旅費として計7万円、合計221万円程度の支出を見込んでいる。なお、この中にはH23年度の未使用額51万円を含んでいる。
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