2012 Fiscal Year Research-status Report
地球温暖化が水田の生物多様性と食物連鎖に及ぼす影響-FACE試験による解明-
Project/Area Number |
23580464
|
Research Institution | National Institute for Agro-Environmental Sciences |
Principal Investigator |
岡田 浩明 独立行政法人農業環境技術研究所, 生物生態機能研究領域, 主任研究員 (30355333)
|
Keywords | 地球温暖化 / CO2濃度 / 温度 / 土壌 / 線虫 / 水稲 / 微生物 / 水田生態系 |
Research Abstract |
昨年検出された水稲根重や線虫密度への加温の影響などの再現性を検討すべく、CO2ガス濃度の無増加区(Amb)、それより200ppm濃度を高めた増加区(FACE)、また、無加温区及びそれより田面水の水温を2℃高めた加温区を入れ子とした試験区のセットにおいて、5月下旬(田植え前)、6月、7月(湛水期)及び8月(落水期前後)に土壌を採取し、25-50mm深度に生息する生物の定量を行った。その結果、水稲根重はCO2濃度増加で増える傾向があったが(P=0.053)、昨年度検出された加温による増加の影響は検出されなかった。土壌DNAを抽出、精製し、微生物バイオマスの指標として定量したところ、CO2の影響は検出されなかった。しかし、程度は小さいが加温により有意にバイオマスが減少することがわかった(P<0.05)。線虫の主な種群について分析した結果、昨年と同様糸状菌食性線虫の1種とネモグリセンチュウの密度が加温区で低下した。一方CO2濃度の影響は別の糸状菌食性線虫1種で検出され、濃度の増加により密度が有意に高まった(P<0.05)。以上および昨年度の結果から、1)水稲根へのCO2ガス濃度および温度の増加の影響は認められるが、年次により有意で無くなるなど、影響の程度は小さいこと、2)土壌微生物バイオマスおよび線虫ではCO2濃度増加の影響は出にくく、3)一方で加温により密度が低下する線虫種がいることがわかった。微生物および線虫へのCO2増加の影響が小さいのは、生産者である水稲の生育がそもそもCO2増加に反応しにくいためと考えられる。また、水稲は加温に対しても反応が小さいので、加温による微生物や線虫の密度の減少は、食物連鎖を通じた影響ではなく、加温による直接的な影響と考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
温暖化影響の再現性を検討するため昨年と同様の調査や分析を行ったが、試験区の反復数や調査回数を増やし、また土壌微生物バイオマスについても定量評価するなど、昨年より豊富なデータを集めることができた。これにより、CO2濃度よりも温度の増加が微生物や線虫などに影響し、将来これらの量や個体数が減少しうること示すなど、重要な知見が得られている。このため全体としてはH24年度の研究目的を概ね達成できたと考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度採取した土壌DNAの分析を進め、古細菌や細菌といった湛水期水田土壌で優占する微生物群ごとのバイオマスの推定、およびそれに対するCO2濃度と温度の増加の影響を検討する。また、以上は1栽培期間内での温暖化の影響評価であるが、一方で、昨年より湛水前の土壌も毎年採取し、線虫密度などの分析を行っている。これを継続させ、温暖化の影響が年次を超えて蓄積されていくか否かの検討も行う予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
4月に行う土壌の採取、各生物群の分析に用いる土壌の小分け、水稲根量および線虫密度の推定、線虫標本の保存及びプレパラート作製などの作業及びその準備を行うためには、研究補助員1名を週2日ほど雇用することが不可欠である。また、DNAベースで微生物の定量分析を行うための試薬などの消耗品の購入が必要である。さらに、今までの研究成果を国内外の学会で公表していくための出張旅費などを見込み、前年度の残額とあわせ、70万円ほどの研究費を支出する予定である。
|