2011 Fiscal Year Research-status Report
マウス顎下腺の性差におけるアンドロゲン受容体の役割
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23590231
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
井関 尚一 金沢大学, 医学系, 教授 (50167251)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 顎下腺 / 導管系 / 性差 / アンドロゲン / マウス |
Research Abstract |
1) マウス顎下腺の導管系は著しい性差をもち、各種増殖因子を産生する顆粒性導管は雄でのみ発達する。受容体型蛋白質チロシンフォスファターゼβ(RPTPβ)と、そのリガンドのひとつである増殖因子のプレイオトロピンは、蛋白質リン酸化の制御によりシグナル伝達に関与する。RPTPβのマウス顎下腺における発現をRT-PCRで解析したところ、RPTPβ-Sのサブタイプのうち短鎖受容体型(RPTPβ-S)が発現し、雄で雌よりも高く、雌へのアンドロゲン投与により発現が増した。免疫組織化学で、RPTPβ-Sは雄では介在部導管に強く局在して顆粒性導管では全く陰性であったが、雌では介在部導管と線条部導管に広く分布した。またプレイオトロピンも顎下腺に発現し、雄雌で発現量の差は見られなかった。プレイオトロピンは雄では介在部および隣接する顆粒性導管の遠位端に局在したが、雌では介在部と線条部導管全域に広く分布し、RPTPβ-Sと共存した。これらの結果から、マウス顎下腺の導管系においてRPTPβ-Sとそのリガンドであるプレイオトロピンの発現の組み合わせが、導管系の性差の形成に関与している可能性が示唆された(論文投稿中)。2) アンドロゲン受容体(AR)を欠損するマウス(ARKO)を作成して顎下腺を調べたところ、雄の顎下腺導管系の形態および遺伝子発現が正常マウス雌と同様(顆粒性導管が発達せず、線条部導管が発達)であり、顆粒性導管に特異的な増殖因子であるEGFやNGFの発現も低かった。腺房系には異常がなかった。正常雌マウスにアンドロゲンであるテストステロンを5日間投与すると線条部導管が顆粒性導管に分化してEGFやNGFの発現が上昇するが、ARKOマウス雄にテストステロンを投与しても効果はなかった。このことから、マウス顎下腺導管系の性差は古典的なアンドロゲン受容体を介することが明らかになった(論文準備中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マウス顎下腺の分化におけるアンドロゲンとアンドロゲン受容体の役割を解明するという研究全体の目的は順調に果たされている。アンドロゲン受容体欠損マウス顎下腺の解析において、当初予想していなかった腺房の産物(SMARP)の遺伝子発現について重要な所見が得られつつあり、現在その研究に集中しているため、当初予定していた欠損マウスと正常マウスの顎下腺遺伝子のマイクロアレイによる解析は後回しになっている。
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Strategy for Future Research Activity |
アンドロゲン受容体欠損マウスにテストステロンを投与すると腺房の産物であるSMARPの発現が著しく上昇するという現象が見いだされ、SMARPの発現は古典的アンドロゲン受容体とは異なる膜受容体により制御されている可能性が示唆された。H24年度はまずアンドロゲン受容体欠損マウスにおけるSMARPの発現を制御する非古典的なアンドロゲン受容体の同定と機能解析のため、顎下腺培養系を用いてシグナル伝達系の機能を薬物投与や遺伝子導入により解析する。またH24年度後半には野生型マウスとアンドロゲン受容体欠損マウスの顎下腺におけるmRNA発現ならびにmiRNA発現のマイクロアレイによる解析を行なう。H25年にはこれらマイクロアレイ解析により検出されたアンドロゲン受容体欠損マウスで発現が低下または亢進しているmRNAの産物およびmiRNAの機能についてさらに研究を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度予算は計画的に使用したが、517円の残額を次年度に繰り越した。次年度はまず顎下腺培養系での実験のため、培養器具、培地と血清などに40万円が必要となる。またマイクロアレイ解析のため、マイクロアレイキット20万円、miRNAマイクロアレイキット 20万円が必要となる。これに実験動物のマウス・ラット購入費20万円、試薬類20万円余を加え、1,200,517円を次年度に使用する予定である。
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