2012 Fiscal Year Research-status Report
トロポニンCのカルシウム親和性が不整脈の頻拍周期の決定に果たす役割の解明
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23590253
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
三浦 昌人 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30302110)
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Keywords | カルシウム波 / 遅延後脱分極 |
Research Abstract |
心筋梗塞や狭心症などの心筋虚血の際には、細胞外カリウム濃度が上昇し、加えて、虚血部位の収縮力低下による収縮の不均一性が生じる。そこで、局所的な細胞外カリウム濃度の上昇が、不均一収縮によるトロポニンCのカルシウム親和性変化を介して、不整脈の頻拍周期にどのような影響を与えるかをラットの多細胞心室筋を用いて観察した。 ラット右心室より多細胞心室筋であるトラベクラを摘出した。張力は力トランスデューサーで、サルコメア長はレーザー回折法で、膜電位は微小電極法で、細胞内カルシウムは蛍光色素であるフラ2を用いて記録した。不整脈を誘発するために0.4秒間隔の電気刺激を30秒間行った。30mMカリウム液を心筋局所領域に潅流した状態で、β受容体刺激薬や伸展によるトロポニンCカルシウム親和性の変化が、不整脈の発生とその頻拍周期に与える影響を観察した。高カリウム液の心筋局所潅流は、収縮の不均一性を生じ、膜電位と細胞内カルシウムの空間的不均一性を引き起こした。収縮の不均一性は、カルシウム波を誘発し、誘発されたカルシウム波の伝播速度を亢進させた。更に、収縮の不均一性は遅延後脱分極を増高し、不整脈を誘発した。誘発された不整脈の頻拍周期は、高カリウム局所潅流によって増加した。 これらの結果は、局所的な細胞外カリウム濃度の上昇が収縮の不均一性を介して催不整脈性を有していることを示し、心筋虚血領域における細胞外カリウム濃度の上昇においても、収縮の不均一性が催不整脈性を亢進させることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、心筋局所トロポニンCにおけるカルシウム親和性と撃発性不整脈における頻拍周期との関係の解明を正常心筋・虚血心筋(高カリウム局所潅流心筋)・不全心筋において明らかにすることを目指している。ラットの右室より摘出した心室筋の局所心筋特性を可逆的に変化させ、さまざまな条件下で張力・サルコメア長・細胞内カルシウム画像・膜電位を記録する事により、正常心筋と高カリウム局所潅流心筋における解離カルシウム量と撃発性不整脈の頻拍周期の関係を既に明らかにしている。
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Strategy for Future Research Activity |
不全心筋におけるトロポニンCのカルシウム親和性と頻拍周期の関係を解明することを目的とする。ラットにモノクロタリンを皮下注すると、4週後には約25%のラットが心不全のため死亡し、生き残ったラットは右室肥大と右心不全を呈した。この生存ラット右室より摘出した心室筋は、不全心筋の特性を全て備えていることを我々は既に報告している。また、不全心筋ではトロポニンIの脱リン酸化が報告されている。 (1)心筋における解離カルシウム量の測定 細胞膜を除膜した心室筋に一過性伸展を加え、張力変化と解離カルシウム量との関係を特定する。更に、非除膜状態の心室筋を用い、1mMカフェイン存在下で、一過性伸展によって解離するカルシウム量を2.3-ブタンジオンモノオキシム局所潅流領域で測定する。細胞外液の電解質変化、温度変化、トロポニンIのリン酸化の有無などによるトロポニンCのカルシウム親和性変化が、解離カルシウム量に与える影響を解明する。 (2)不全心筋における解離カルシウム量と頻拍周期の関係 モノクロタリン投与心筋を用いて、持続性不整脈モデルを作成する。サルコメアの伸展/短縮、カルシウム増感剤であるSCH00013の投与によるトロポニンCのカルシウム親和性変化が、不整脈の持続性と頻拍周期の決定に関与するかどうかを確認する。更に、細胞外液の電解質変化、温度変化、トロポニンIのリン酸化の有無などによるトロポニンCのカルシウム親和性変化が、不整脈の頻拍周期に与える影響を測定する。これにより、不全心筋においては、どのような条件で頻拍周期が最も増加し、致死的不整脈に繋がりうるかを決定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成25年度請求額とあわせて、平成25年度の研究遂行に使用する予定である。 研究の遂行に必要な設備・備品は全て現有しており、研究経費の大半は以下のような消耗品費に充てる。 カルシウム蛍光色素としてはフラ-2を使用し、約290,000円/年の経費を予定する。実験に適したトラベクラは平均して3-4匹のラットで1個しか見つからないため、多くのラットを必要とする。そのため、ラット代として450,000円/年の経費を予定する。試薬費100,000円の中には、潅流液や細胞内液を作るための精製液や試薬などの費用、ラットの麻酔時に必要な塩酸メデトミジン、ミダゾラム、酒石酸ブトルファノール、ヘパリンの費用を含んでいる。また、不均一収縮モデルの作製に使用する2.3-ブタンジオンモノオキシム、カフェイン、ブレビスタチンや心不全モデルの作製に必要なモノクロタリンなども含んでいる。プラスチック器具費50,000円には、ビーカーやメスシリンダー等の器具の他にバッファー溶液を潅流するビニールチューブやシリコンチューブの費用を含んでいる。光学機器用消耗品50,000円の中には、キセノンランプの光源、顕微鏡やトラベクラ摘出時のランプの光源を含み、局所潅流や膜電位記録に使用する微小電極の費用も含んでいる。研究成果の発表は、アメリカ心臓学会、アメリカ不整脈学科、日本循環器学会、日本不整脈学会で毎年行う予定であるが、そのために海外旅費を250,000円、国内旅費を50,000円予定する。英語論文の校閲料として100,000円を、研究成果投稿料として50,000円、印刷費として50,000円を予定する。
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