2012 Fiscal Year Research-status Report
抗うつ治療で賦活化する海馬プロトカドヘリンーマップキナーゼ系の意義
Project/Area Number |
23590300
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
田中 秀和 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70273638)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山形 要人 公益財団法人東京都医学総合研究所, その他部局等, その他 (20263262)
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Keywords | うつ病 / 海馬 / 遺伝子発現 |
Research Abstract |
抗うつ薬が作用発現に至るまでに数週間かかる一方で、電気けいれん療法は即効性を示す。これら慢性・急性いずれの抗うつ療法によっても、海馬神経細胞にArcadlin/Protocadherin-8/PAPCというプロトカドヘリン分子が誘導される。Arcadlinはシナプス(スパイン)に運ばれ、下流のp38MAPキナーゼを活性化しながら、シナプスの機能・形態を調節する(神経回路網のつなぎかえ)。反対に、p38MAPキナーゼ活性を抑制するMKP-1/DUSP1分子は、うつ病を引き起こす。本研究計画では、【抗うつ療法→Arcadlin誘導→p38MAPキナーゼ活性化→シナプス(スパイン)のリモデリング】という一連の海馬での現象が、慢性・急性両方の抗うつ療法に共通するメカニズムである可能性を検証してきた。電気けいれんによるArcadlin蛋白質の発現に必要な時間は4時間であり、その効果は12時間を過ぎると減じることが判明した。一方、抗うつ薬の場合は、連日の投与が18日を超えて初めて、顕著なArcadlin誘導が見られ、両者の間にあきらかな発現の時間的プロフィールの違いが認められた。また、慢性抗うつ薬投与による効果は3日間持続することもわかった。これらの結果は、うつ病に対する治療効果が発現するタイミングと良く一致することから、Arcadlinを介した細胞生物学的メカニズムが、抗うつ効果の生物学的基盤となっている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、「Arcadlinとその下流のp38MAPキナーゼシグナル伝達系」を基点にして、次のことを明らかにすることを目的としている。作用機序が異なる抗うつ薬とけいれん刺激の両者が、どのようなメカニズムでArcadlin発現誘導をもたらすのか?増加したArcadlinは、シナプス・スパインの機能・形態にどのような変化を与えるのか?同時に、Arcadlinの下流で活性化されるp38MAPキナーゼはうつ病の誘発因子であるMKP-1と拮抗するのか、その結果シナプス・スパインのリモデリングに与える影響はいかなるものか?そして最後に、【抗うつ療法→Arcadlin誘導→p38MAPキナーゼ活性化→スパインのリモデリング】という一連のメカニズムが、抗うつ効果に関与している可能性について検討を加えていく。 本年度までの検討で、マウスにおけるうつ病治療行為によって、海馬にArcadlinが発現誘導されるのに必要な、投薬量(用量依存性)、投与期間(オンセット)、効果持続期間(Duration)を明らかにすることができた。また、その特異性も検討しており、海馬の神経活動で発現誘導されることが知られているArc蛋白質とは異なる発現プロフィールとなることも見出した。 さらに神経細胞のセロトニン受容体を直接刺激することによって、Arcadlin下流にあるp38マップキナーゼの活性化も見出した。 以上のように、5年間の研究計画全体を通じての研究目的に対して、約60%の目標を達成しており、今後も予定どおり計画を遂行していくことで、完遂可能と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの蛋白質化学的解析と、培養細胞を用いた解析結果をふまえ、海馬組織の中のどのタイプの細胞の、どの部分にArcadlinが誘導され、局在し、機能するのかを調べるため、免疫組織学的検討を加えてゆく。 また、培養神経細胞における検討をさらに加えて、刺激を受けた細胞におけるシナプスの形態変化や、Arcadlinの分布変化、p38マップキナーゼの活性変化を観察する系を導入し、電気けいれんや抗うつ薬によって、海馬神経細胞に起きることが予想される変化を観察する。 それらの結果をふまえ、Arcadlin遺伝子をノックアウトしたマウスの神経細胞で、抗うつ治療によって野生型にみられる現象に異常がみられないかどうかを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度までに行ってきている蛋白質化学実験のサンプルの保存に必要な超低温フリーザーを購入し、引き続き検討を行う。 マウス、ラットは今まで通り用いるので、一定数購入。蛋白質化学実験、免疫組織学実験、遺伝子組換え実験、細胞培養実験などに用いる消耗品も購入する。 本研究の成果を学会発表する、さらに共同研究の打ち合わせに必要な旅費を支出する。 さらに、学術雑誌への英文論文発表に必要な英文校正費用、雑誌投稿費用、掲載費用も支出する予定である。
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[Journal Article] Transport of 3-fluoro-L-α-methyl-tyrosine by tumor-upregulated L-type amino acid transporter 1: a cause of the tumor uptake in PET.2012
Author(s)
Wiriyasermkul P, Nagamori S, Tominaga H, Oriuchi N, Kaira K, Nakao H, Kitashoji T, Ohgaki R, Tanaka H, Endou H, Endo K, Sakurai H, Kanai Y.
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Journal Title
J Nucl Med.
Volume: 53
Pages: 1253-1261
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] NRFL-1, the C. elegans NHERF orthologue, interacts with amino acid transporter 6 (AAT-6) for age-dependent maintenance of AAT-6 on the membrane.2012
Author(s)
Hagiwara K, Nagamori S, Umemura YM, Ohgaki R, Tanaka H, Murata D, Nakagomi S, Nomura KH, Kage-Nakadai E, Mitani S, Nomura K, Kanai Y.
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Journal Title
PLoS One.
Volume: 7
Pages: e43050
DOI
Peer Reviewed
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