2013 Fiscal Year Research-status Report
抗うつ治療で賦活化する海馬プロトカドヘリンーマップキナーゼ系の意義
Project/Area Number |
23590300
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
田中 秀和 立命館大学, 生命科学部, 教授 (70273638)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山形 要人 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳発達・神経再生研究分野, プロジェクトリーダー (20263262)
|
Keywords | うつ病 / 海馬 / 遺伝子発現 |
Research Abstract |
抗うつ薬が作用発現に至るまでに数週間かかる一方で、電気けいれん療法は即効性を示す。これら慢性・急性いずれの抗うつ療法によっても、海馬神経細胞にArcadlin/Protocadherin-8/PAPCというプロトカドヘリン分子が誘導される。Arcadlinはシナプス(スパイン)に運ばれ、下流のp38MAPキナーゼを活性化しながら、シナプスの機能・形態を調節する(神経回路網のつなぎかえ)。反対に、p38MAPキナーゼ活性を抑制するMKP-1/DUSP1分子は、うつ病を引き起こす。本研究計画では、【抗うつ療法→Arcadlin誘導→p38MAPキナーゼ活性化→シナプス(スパイン)のリモデリング】という一連の海馬での現象が、慢性・急性両方の抗うつ療法に共通するメカニズム である可能性を検証してきた。過年度の検討により、電気けいれんによるArcadlin蛋白質の発現に必要な時間は4時間であり、その効果は12時間を過ぎると減じることが判明した。一方、抗うつ薬の場合は、連日の投与が18日を超えて初めて、顕著なArcadlin誘導が見られ、両者の間にあきらかな発現の時間的プロフィールの違いが認められた。また、慢性抗うつ薬投与による効果は3日間持続することもわかった。これらの結果は、うつ病に対する治療効果が発現するタイミングと良く一致することから、Arcadlinを介した細胞生物学的メカニズムが、抗うつ効果の生物学的基盤となっている可能性が示唆された。本年度は、組織学的検討を進め、Arcadlin蛋白質が、海馬組織の歯状回顆粒細胞ならびにCA1~CA3錐体細胞の細胞体から樹状突起にわたって発現することを確認することができた。また、抗うつ薬による治療効果を判定する手段として、マウスを用いた行動学的な解析の準備を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、作用機序が異なる抗うつ薬とけいれん刺激の両者が、どのようなメカニズムでArcadlin発現誘導をもたらすのか?増加したArcadlinは、シナプス・スパインの機能・形態にどのような変化を与えるのか?同時に、Arcadlinの下流で活性化されるp38MAPキナーゼはうつ病の誘発因子であるMKP-1と拮抗するのか、その結果シナプス・スパインのリモデリングに与える影響はいかなるものか?そして最後に、【抗うつ療法→Arcadlin誘導→p38MAPキナーゼ活性化→スパインのリモデリング】という一連のメカニズムが、抗うつ効果に関与している可能性について検討している。 過年度までの検討で、マウスにおけるうつ病治療行為によって、海馬にArcadlinが発現誘導されるのに必要な、投薬量(用量依存性)、投与期間(オンセット)、効果持続期間(Duration)を明らかにすることができた。また、その特異性も検討しており、海馬の神経活動で発現誘導されることが知られているArc蛋白質とは異なる発現プロフィールとなることも見出した。さらに神経細胞のセロトニン受容体を直接刺激することによって、Arcadlin下流にあるp38マップキナーゼの活性化も見出した。 本年度はさらに、海馬のどの細胞にArcadlinが発現し、それが細胞の中のさらにどのような構造で作用するかを確かめることができた。特に、シナプスを形成し、神経伝達といった神経回路機能にもっとも重要なスパインが形成される樹状突起部分にもArcadlinが誘導されることを見いだした。その結果、スパインの形態や形成にどのような変化がもたらされるかを検討するためのアッセイ系の樹立に取り組んでいる最中である。さらに、最終的に抗うつ薬の効果を判定するためのマウス行動学実験の準備にも取りかかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの蛋白質化学的解析と、培養細胞を用いた解析、ならびに免疫組織学的検討の結果をふまえ、Arcadlinならびにそれを誘導する抗うつ薬が、海馬神経回路の形態に及ぼす影響を明らかにしてゆく。複雑な脳の神経回路、特に海馬の神経回路の形態を可視化するために、一部の神経細胞だけを蛍光ラベルする方法を確立し、Arcadlinと抗うつ薬による神経細胞形態の変化を検討する。特にシナプスを形成するスパインの数の変化に着目し、数値化する努力を行う。また、それらの結果をふまえ、Arcadlin遺伝子をノックアウトしたマウスの神経細胞で、抗うつ治療によって野生型にみられる現象に異常がみられないかどうかを検討する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
高額なマウスを用いる行動学に先んじて、組織学的検討を先行させたため。 組織学的検討や他の解析の進捗を確認しつつ、行動学などに必要な実験材料の購入を加えて行き、研究を遂行する。
|
Research Products
(10 results)