2012 Fiscal Year Research-status Report
メタボリックシンドロームの合併症予防を目指したキマーゼ阻害の意義
Project/Area Number |
23590313
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Research Institution | Osaka Medical College |
Principal Investigator |
高井 真司 大阪医科大学, 医学部, 准教授 (80288703)
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Keywords | メタボリックシンドローム / キマーゼ / 阻害薬 / 血管機能障害 / 心機能障害 / 腎機能障害 |
Research Abstract |
「研究の目的」は、メタボリックシンドローム合併症に対するキマーゼ阻害薬の効果を解析することで、メタボリックシンドロームの合併症発症および進展におけるキマーゼの病態生理学的役割を解明することであった。 「今年度の研究実施計画」は、メタボリックシンドロームの合併症として、ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病ハムスターモデルを用いてキマーゼ阻害薬の影響を解析することであった。本モデルでは、STZ投与直後より血糖値が上昇を認めた。STZ投与後6週において血管内皮機能の指標であるアセチルコリン誘発の血管弛緩反応がプラセボ群では有意に減弱したが、キマーゼ阻害薬投与群により有意に改善した。 その他の「今年度の研究実施計画」として、メタボリックシンドローム合併症の一つである脳卒中に対するキマーゼの動態解析を行うため、脳卒中易発性自然発症高血圧ラット(SHR-SP)を用いた。SHR-SPの血圧は、8週齢の時点で約180mmHg、12週齢の時点で約240mmHgであった。12週齢の時点で摘出した血管では、アセチルコリン誘発の血管弛緩反応が有意に減弱し、心肥大の指標である心重量/体重比の著明な増加を認めた。血管および心臓のキマーゼ遺伝子発現レベルは、共に同週齢の正常ラット(WKYラット)に比べて有意に増加した。また、炎症関連因子であるMonocyte Chemoattractant Protein (MCP)-1やTumor Neclosis Factor (TNF)-αの遺伝子発現も有意に増加した。一方、血中のアンジオテンシンII濃度は有意に減少していたことより、心血管組織におけるキマーゼの発現増加は、アンジオテンシンII産生には影響がないことが示唆された。これらのことより、キマーゼはアンジオテンシンII産生以外の作用を介してSHR-SPの心血管障害に関与している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目的は、メタボリックシンドローム合併症とキマーゼとの関連性を解析すること、そして、キマーゼ阻害薬の合併症に対する影響を解析することであった。23年度は、ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病ハムスターモデルで血管内皮機能が減弱されること、そして、その部位でキマーゼ活性が有意に増加することを明らかにした。24年度は本モデルにおいて、キマーゼ阻害薬がSTZ投与後6週の時点の内皮機能減弱を有意に抑制することを示した。また、血管組織中のNADPHオキシダーゼの構成因子のp22phoxの遺伝子発現を有意に抑制し、マロンジアルデヒド(MDA)も有意に抑制していたことより、キマーゼ阻害薬は、血管の酸化ストレス軽減を介して内皮機能不全を予防したと考えられた。 脳卒中易発性自然発症高血圧ラット(SHR-SP)を用いた実験では、8週齢の時点で180 mmHg、12週齢の時点で240 mmHgの血圧を示した。12週齢の時点で心重量/体重比(心肥大の指標)が有意に増加し、血管内皮機能が有意に減弱した。心臓および血管組織中のキマーゼの遺伝子発現が有意に増加し、炎症関連因子であるMonocyte Chemoattractant Protein (MCP)-1やTumor Neclosis Factor (TNF)-αの遺伝子発現も有意に増加した。これらのことは、心・血管組織のキマーゼ発現の増加が炎症を介して心血管障害と関連する可能性を強く示唆する。 糖尿病の血管障害や高血圧による心・血管障害においてキマーゼ発現の増加が関連すること、そして、糖尿病による血管障害は、キマーゼ阻害薬により有意に改善されたことより、キマーゼ阻害薬がメタボリックシンドロームの合併症(血管障害)予防に有用である可能性を示唆できた。 今年度の目的に対する達成度は、80%で、最終目的に対する現在までの達成度は、約70%である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでにキマーゼ阻害薬による高脂血症モデルを用いた動脈硬化予防効果や糖尿病モデルにおける内皮機能障害の予防効果(23、24年度研究成果)を示した。24年度は、高血圧の合併症である脳卒中を起こしやすいラット(SHR-SP)を用いて、血圧上昇や心肥大に伴い心・血管のキマーゼ活性が有意に増加することを発見した。また、キマーゼ発現の増加と炎症関連因子であるMonocyte Chemoattractant Protein (MCP)-1やTumor Neclosis Factor (TNF)-αの遺伝子発現の有意な増加を認めたことより、キマーゼが、炎症関連因子を誘導して心血管の機能障害に関与している可能性が示唆された。 25年度は、SHR-SPにキマーゼ阻害薬を投与し、高血圧合併症の一つである脳卒中におけるキマーゼの役割を明らかにする予定である。具体的には、SHR-SPの4週齢よりキマーゼ阻害薬を投与し、血管内皮障害を認めた12週齢の時点での血管内皮障害に対する影響を解析する。また、脳卒中に対するキマーゼ阻害薬の直接的影響を検討するため、SHR-SPの4週齢よりキマーゼ阻害薬を投与し、生存率に対する影響を解析する。 メタボリックシンドロームの合併症として、血管内皮障害(脳血管障害)、心機能障害が知られているが、腎機能障害も重要な合併症である。本年度は最終年であることより、腎機能障害に対するキマーゼの役割も解明する予定である。具体的には、SHR-SPに食塩負荷を行い、腎臓キマーゼの発現とタンパク尿、血中および尿中クレアチニン、BUNの測定、そして、腎組織解析による障害程度との関連性を解析し、キマーゼ阻害薬による影響も解析する。また、糖尿病モデルラットであるOLETFラットを用いて、同様に腎臓キマーゼと腎機能障害との関連性とキマーゼ阻害薬の影響を解析したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
SHR-SPにキマーゼ阻害薬を投与し、脳卒中におけるキマーゼの役割を明らかにする。具体的には、SHR-SPの4週齢よりキマーゼ阻害薬を投与し、血管内皮障害を認めた12週齢の時点で血管内皮障害に対するキマーゼ阻害薬の影響を解析する。本実験では、4、8、12週齢の時点で血圧測定を行い、キマーゼ阻害薬による血圧および心拍数に対する影響を解析する。12週齢(キマーゼ阻害薬8週間投与)の時点で、アセチルコリン誘発血管弛緩反応を解析し、血中および血管組織中のキマーゼならびに炎症関連因子等を解析する。本実験に正常ラット(WKYラット)8匹、SHR-SPを16匹(プラセボ群、キマーゼ阻害薬群、各8匹)用いる。また、脳卒中発症に対する影響を明確にするため、SHR-SPを40匹(プラセボ群、キマーゼ阻害薬群、各20匹)用いて生存率に対する影響を観察する。これらの動物費用として60万円、血管機能解析および生化学的解析に20万円を必要とする。また、キマーゼ阻害薬の投与に用いるオスモティックミニポンプに10万円を必要とする。 腎機能障害に対するキマーゼの役割の解明するため、SHR-SPの4週齢より1%食塩水を飲ませ、同時にキマーゼ阻害薬の投与を開始する。8週齢の時点で腎臓キマーゼの発現とタンパク尿、血中および尿中クレアチニン、BUNの測定と腎障害程度との関連性を解析する。本実験に正常ラット(WKYラット)を8匹。SHR-SPを16匹(プラセボ群、キマーゼ阻害薬群、各8匹)を用いる。これらの動物費用として20万円、腎機能および生化学的解析に10万円を必要とする。また、キマーゼ阻害薬の投与に用いるオスモティックミニポンプに5万円を必要とする。また、糖尿病モデルを用いた腎機能に対する影響も解析する予定である。 これらの研究成果を学会および科学雑誌にて公表する費用にも一部使用する予定である。
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[Journal Article] Chymase Inhibition Attenuates Monocrotaline-Induced Sinusoidal Obstruction Syndrome in Hamsters.2013
Author(s)
Masubuchi S, Komeda K, Takai S, Jin D, Tashiro K, Li ZL, Otsuki Y, Otsuki Y, Okamura H, Hayashi M, Uchiyama K.
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Journal Title
Curr Med Chem
Volume: 印刷中
Pages: 印刷中
Peer Reviewed
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[Journal Article] Cisplatin-induced acute renal failure in mice is mediated by chymase-activated angiotensin-aldosterone system and interleukin-182012
Author(s)
Okui S, Yamamoto H, Li W, Gamachi N, Fujita Y, Kashiwamura S, Miura D, Takai S, Miyazaki M, Urade M, Okamura H, Ueda H.
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Journal Title
Eur J Pharmacol
Volume: 685
Pages: 149-155
DOI
Peer Reviewed
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