2011 Fiscal Year Research-status Report
中皮腫における新規原因遺伝子の同定と発癌機構の解明
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23590464
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
嘉数 直樹 島根大学, 医学部, 准教授 (20264757)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 中皮腫 |
Research Abstract |
最近、肺癌や前立腺癌等の固形腫瘍において、染色体転座に伴って異なる座位にあった別々の遺伝子同士が結合して融合遺伝子を形成していることが続々と明らかになってきた(肺癌におけるALK融合遺伝子、前立腺癌におけるETSファミリーやRAFファミリー融合遺伝子等)。これらの融合遺伝子の発見は発癌機構の解明だけではなく、新規治療法の開発にもつながる可能性を秘めている。既にALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌に対する分子標的治療薬としてALK阻害薬クリゾチニブが開発され、2012年3月には我が国において製造販売が承認された。固形腫瘍のなかでもアスベストによる中皮腫は世界各国で急増しているが、確立された治療法はなく、予後は極めて不良である。また、中皮腫は今日まで原因遺伝子も同定されていない。以上の背景から、中皮腫において原因遺伝子でもあり治療の分子標的ともなりうる融合遺伝子を発見することは極めて意義のあることである。 我々は先行研究で中皮腫細胞株において3番と7番染色体間の染色体転座を見いだしていた。この3番側切断点をfluorescence in situ hybridization(FISH)解析でstep by stepで狭めた結果、DNAトポイソメラーゼIIβ(TOP2B)遺伝子が切断点上に局在していることを明らかにした。さらに、Southern blot解析によっても3番と7番染色体間の融合遺伝子によるTOP2B遺伝子の再構成を検出できた。 今回の中皮腫細胞株を、染色体ペインティングプローブを用いたFISH技術により全染色体がその種類ごとに異なるシグナルの色調で自動識別されるspectral karyotyping(SKY)法で分析した。その結果、9番染色体と4番および12番染色体間の2つの転座の存在も新たに明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成23年度は介護休業や介護休暇等によって約4ヶ月にわたり研究を中断せざるを得なかった。このため、進捗状況としてはやや遅れを生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
TOP2B遺伝子再構成が確認された中皮腫細胞株においてRT-PCRにより融合転写産物を同定し、その発現を確認する。さらにその融合転写産物の全構造を決定する。 複数の中皮腫細胞株を対象にTOP2B遺伝子が再構成に関与していないか解析を進める。また、これまでに融合遺伝子が同定された肺癌や前立腺癌では、その遺伝子だけではなく、他の同種のファミリー遺伝子についても融合に関与していることが明らかになっている。本研究においても、TOP2B遺伝子以外のTOPファミリー遺伝子が転座切断点上に局在するような染色体転座がないか、中皮腫細胞株を対象に探索する。具体的には、4つのTOPファミリー遺伝子(TOP1,2A,3A,3B)について、bacterial artificial chromosome(BAC)クローンをプローブとして中皮腫細胞の分裂中期染色体でFISH解析を行う。FISHシグナルが2つに分断していれば、その遺伝子が切断点上に局在している可能性が強く、Southern blot解析で再構成を確認した上で融合相手遺伝子を同定する。 今回SKY法によって9番染色体と4番および12番染色体間の2つの転座が新たに見いだされたが、SKY法等による染色体解析レベルでは可視的に同定できないような潜在的な染色体転座によっても融合遺伝子が形成されている可能性がある。そこで、当該中皮腫細胞株よりcDNAライブラリーを作製し次世代シーケンサーと遺伝子解析ソフトにより網羅的に融合遺伝子を同定する新方法を導入することも検討する。本計画で同定された融合遺伝子のなかから治療の分子標的となるような遺伝子を見い出すことも将来的な研究の推進方策として考えていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は介護休業や介護休暇等により約4ヶ月にわたり研究に中断が生じた。このため次年度に使用する予定の研究費が生じた。この研究費については、今後の研究の推進方策で示した通り、網羅的に融合遺伝子を同定する方法に投入する計画を新たに加える。 平成24年度交付の研究費については、FISH解析、PCR解析等の実験に主に使用する予定である。
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