2012 Fiscal Year Research-status Report
中皮腫における新規原因遺伝子の同定と発癌機構の解明
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23590464
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
嘉数 直樹 島根大学, 医学部, 准教授 (20264757)
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Keywords | 中皮腫 |
Research Abstract |
造血器腫瘍の原因遺伝子として多数の融合遺伝子が同定されてきた。最近では、肺癌等の固形腫瘍においても、病態に本質的に関わる融合遺伝子が続々と明らかになってきている。一部では、融合遺伝子を分子標的とする薬剤も開発され、患者の治療に臨床応用されている。 我々は中皮腫の原因遺伝子を同定する目的で、中皮腫細胞株Meso-4に認められた染色体転座の切断点を手がかりにFISH解析等で融合遺伝子を同定する研究を進めてきた。しかしながら、この方法では時間を要し、また、通常の染色体解析レベルでは検出できないような微細な染色体転座によって形成された融合遺伝子は探索できない欠点があった。そこで、平成24年度はシークエンス技術で網羅的に融合遺伝子を探索するwhole transcriptome shotgun sequencing(RNA-Seq)法を導入した。実験の概略としては、Meso-4細胞株よりcDNAライブラリーを作製し、次世代シーケンサーにより得られたpaired-end read配列情報を専用ソフトにより解析した。 この方法により、多数の融合遺伝子候補を同定した。その中から絞り込んだ候補(偽陽性の可能性が高いと判断されるものは除く)のそれぞれについてシークエンスデータを基にして切断点を挟むようにプライマーを設定し、RT-PCR解析を行った。その結果、発現が確認できた融合転写産物の中には、MET遺伝子やPI3Kファミリーに属するPIK3C3遺伝子が関与するものも含まれていた。 中皮腫ではMET経路やPI3K-AKT経路の活性化が報告されており、本研究により、中皮腫の発癌機構の一端を解明する上で重要な知見が得られたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、中皮腫細胞株Meso-4における染色体転座切断点を個別に解析し、融合遺伝子を探索する予定であったが、近年急速に普及した次世代シークエンス技術を導入することにより、網羅的に多数の融合遺伝子候補を同定することができた。この中には、MET遺伝子やPI3Kファミリーに属するPIK3C3遺伝子が関与する融合も含まれており、本研究のテーマである中皮腫の発癌機構の解明につながると考えられた。この点から、当初の遅れを挽回して、研究がおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究で中皮腫細胞株Meso-4において発現を認めた融合転写産物について、他の複数の中皮腫細胞株でもrecurrentに発現していないかRT-PCR解析により検証する。Meso-4以外の細胞株で確認された融合転写産物については、シークエンス解析で塩基配列上の切断点を同定する。また、異なる染色体間の転座によって形成されたと考えられる融合転写産物については、ゲノム上での融合を確認する目的で、それぞれの細胞株の分裂中期染色体を対象にFISH解析を行う。 先行研究において、中皮腫細胞株Meso-4で認められた3番と7番染色体間の転座に着目し、前者の転座切断点上にTOP2B遺伝子が局在することをFISH解析で見出した。このTOP2B遺伝子と7番染色体転座切断点上の遺伝子が融合し、発癌に関与していることが示唆された。本研究計画では、この予想されたTOP2B融合遺伝子について主に解析を進めていく方針であった。しかしながら、RNA-Seq法による解析ではMeso-4においてTOP2B遺伝子が関与した融合遺伝子は同定できなかった。これは、TOP2B遺伝子の局在する3p24切断点と融合している7番染色体側転座切断点が遺伝子外のゲノム領域であったことにより、融合転写産物として発現していなかった可能性が考えられた。この点は当初の予想に反していたが、RNA-Seq法によって発癌経路に関わる重要な遺伝子の融合が複数発見された。今後は研究計画を変更して、これらの融合遺伝子について解析を進めていく予定である。 本計画での融合遺伝子の研究が中皮腫の発癌機構の解明だけではなく、将来的には新規分子標的治療薬の開発にもつながることを目指して、実験を推進していく方策である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度に介護休業等により約4ヶ月にわたり研究を中断したために、交付研究費の一部を翌24年度に繰り越すことになった。しかし、その繰り越しも比較的多額であったため、24年度中には完全に執行できず、未使用額(312,371円)が生じてしまった。この額については平成25年度請求分と合わせて、今後の研究の推進方策で示した通り、新たに解析対象とする中皮腫細胞株の購入、および、RT-PCR解析、シークエンス解析、FISH解析等の実験に充当する予定である。平成25年度の計画では、複数の融合遺伝子候補の中から原因遺伝子として有力な候補に絞り込んで、交付額の範囲内で解析を進めていくことにする。また、論文・学会発表のための経費にも支出する計画である。
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