2011 Fiscal Year Research-status Report
乳癌個別化診断を目標とする新規エストロゲンシグナル経路の解析と検査法の開発
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23590658
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
丹羽 俊文 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90218248)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 慎一 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60144862)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 乳癌 / 細胞・組織 / シグナル伝達 / エストロゲン / 臨床検査 / 個別化治療 |
Research Abstract |
23年度の研究は膜型エストロゲン受容体(ER)特異的リガンドの作製と機能評価を中心に行い,その結果,従来膜型ERの候補とされてきたGPR-30とは異なり,核内ERαと類似した構造を持つ膜型ERが存在するとの結論を得た。 Estradiol(E2)の6位および17位にカルボキシル基を導入した誘導体をアミノ化された種々の不溶性担体に固定化し,調製した各種リガンドを乳癌細胞培養系に添加して細胞の応答を検討した。乳癌細胞として代表的なMCF-7にERE-GFPレポーター遺伝子を安定導入したMCF-7-E10株を活用し,ER活性および増殖を指標として評価した。 その結果,大きさ,流動性,均一性などの点から担体としてnmサイズの量子マテリアルであるQdotを採用した。またE2の6位を介して結合させたQdot-6-Eでは遊離E2と同程度に増殖誘導とGFP発現がみられたのに対し,17位を介して結合させたQdot-17-Eでは効果がみられなかった。この結果は膜ERへのリガンド結合から核内ERへと繋がる信号系が存在すること,および受容体-E2コンフォメーションの重要性を示している。他のER陽性株T-47DにおいてもQdot-6-Eに対し同様の応答が認められたが,ER陰性株であるMDA-MB-231, SK-BR-3では応答がみられなかった。 さらにMCF-7-E10培養系に抗ERα抗体を添加したところ,Qdot-6-Eによる上記の効果は抑制されたが,E2およびその6位誘導体の効果に変動は見られなかった。一方,従来膜ERとしての機能を持つとされているGPR-30に対する抗体を添加してもQdot-6-Eの効果は変わらず,今回応答しているERはGPR-30とは異なる分子である可能性が示唆された。前段で応答を観察した細胞4株は全てGPR-30陽性とされており,この結論を支持している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度の研究実施計画とそれに対する結果は以下の通りである;1)種々のエストロゲン誘導体(ハプテン)を粒子系の異なるアミノ化不溶担体に固定化した膜型ERリガンド候補の作製。それぞれ複数種のハプテンと不溶性担体を組合せたリガンド候補10種のを作製を試みた。これらから最適と思われる機材を選択するために以下2)3)の検討を行った。2)各種リガンドの乳癌細胞培養系への添加による,細胞内への侵入やエストロゲンシグナル発現の検討。ERE-GFPレポーター遺伝子を安定導入した乳癌細胞株を用い,核内ER活性および増殖を指標として評価した。その結果,リガンドが膜ERを刺激し得ること,膜ERから核内ERへと伝達される信号経路が存在する可能性が示された。抗体添加実験の結果はリガンドが細胞内に侵入していないことを支持するものである。さらにこの結果から,リガンドに応答している膜ERは従来から示唆されていたGPR-30とは異なる分子であり,かつERαと類似構造を持つことが示唆された。3)ハプテンの構造,担体の違いによるリガンド特性の検討と選定。2)と並行して進め,流動性,均一性などを考慮した結果,ナノ粒子であるQdotが担体として最適と判断した。また,エストロゲンの結合位置が異なるQdot-6-EとQdot-17-Eに対する細胞応答の違いから,核内ER同様コンフォメーションの重要性が示唆された。以上の結果から,研究目的に合致するリガンドとしてQdot-6-Eを選定し,24年度の研究準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度の研究は主として細胞応答と信号経路・応答遺伝子の解析を目的とする。1)膜型ERから核内ERα(ERE)が活性化される信号伝達経路に関わる分子の確認。膜型ERの刺激により変動する細胞内リン酸化信号経路に関わる蛋白分子を特定する。リン酸化酵素阻害剤添加による細胞応答の変動と併せて信号伝達経路を解析する。2)膜型ER刺激によるエストロゲン応答遺伝子の発現を精査する。1)の結果と併せて膜型ER信号経路に特有の伝達因子や応答遺伝子が特定されれば,従来の核内ER信号系と区別することが可能となり,患者に併せた個別治療選択のための新たな診断情報となり得る可能性がある。3)患者検体から得たprimary culture培養系での応答確認,あるいは免疫染色を用いた膜表面のER分布状況の解析。すでに樹立されている細胞株ではなく,実際の臨床検体においても膜型ERやそれを介した信号経路が存在するのかを探索する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は,今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり,平成24年度請求額と併せ,次年度に計画している研究の遂行に使用する予定である。
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