2011 Fiscal Year Research-status Report
骨盤臓器組織障害性疼痛におけるセロトニン受容体シグナル系の役割
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23590707
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
宮井 和政 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60283933)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河谷 正仁 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00177700)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 膀胱上皮 / ATP / セロトニン / 5-HT受容体 / アデニル酸シクラーゼ / cAMP / 大腸上皮 / 食道上皮 |
Research Abstract |
膀胱や消化管上皮は機械・化学刺激に応じてATPを分泌し、痛みを含む内臓感覚を伝える。平成23年度では上皮からのATP分泌におけるセロトニン受容体の役割を、膀胱を中心に解析した。セロトニン投与は伸展刺激による膀胱上皮からのATP分泌を有意に抑制した。RT-PCR解析により、膀胱上皮にはセロトニン受容体5-HT1Dと5-HT4が特異的に発現していることを確認したが、ATP分泌抑制効果はこのうちの5-HT1Dを介した作用であり、逆に5-HT4はATP分泌を促進することを示した。5-HT1Dはアデニル酸シクラーゼ-cAMP経路を抑制し、5-HT4はアデニル酸シクラーゼ-cAMP経路を活性化するGタンパク質結合型受容体であるが、フォルスコリンによるアデニル酸シクラーゼの活性化とロリプラムによるcAMP分解阻害はどちらもATP分泌を有意に促進した。以上の結果から、セロトニンは主に膀胱上皮に発現している5-HT1D受容体に作用し、アデニル酸シクラーゼ-cAMP経路を抑制することで伸展刺激によるATP分泌を抑制していることが明らかとなった。5-HT1Dからのシグナル経路の賦活は、ATP分泌過多による膀胱知覚過敏を呈する間質性膀胱炎などに対する治療法となる可能性もある。大腸や食道における内臓知覚過敏を呈する過敏性腸症候群や胃食道逆流症でも類似したシグナル系が働いている可能性がある。そこで平成23年度ではラットの大腸および食道を用いて、静水圧による伸展刺激が膀胱上皮と同様にATP分泌を引き起こすかどうかを検討した。大腸および食道の上皮側からも膀胱と同様に伸展刺激によるATP分泌機構が存在することを確認した。上皮を剥離した大腸・食道ではATP分泌は見られなかったことから、このATP分泌は確かに上皮細胞からの分泌であることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
膀胱上皮からのATP分泌におけるセロトニンシグナル系の役割については当初の目的以上に深く解析でき、受容体の下流の細胞内シグナル系(アデニル酸シクラーゼ-cAMP経路)の関わりまで明らかにすることができた。アデニル酸シクラーゼ-cAMP経路の役割については既に論文が国際雑誌に受理され、現在印刷中である。またセロトニン受容体の役割についてもデータが十分に出揃ったので英文論文を作成している最中である。大腸上皮からのATP分泌については、セロトニンシグナル系の役割までは解析できなかったものの、伸展刺激によるATP分泌を確認し、膀胱と同様に定量的に測定する実験系を樹立できた。また、大腸上皮のみならず、胃食道逆流症で近年注目を集めている食道の上皮にも同様のATP分泌機構が存在することを明らかにできた。以上の点から鑑みて、現在までのところはおおむね当初の目的に沿って順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず、(1)膀胱上皮においてセロトニンシグナル系を賦活する薬剤がATP分泌を阻害するのか(ATP分泌過多に対する治療薬の候補となりうるのか)、(2)大腸上皮と食道上皮にも膀胱と同様のセロトニンシグナル系が存在するのか、を検討する。セロトニンシグナル系を賦活化する薬剤としては、セロトニン前駆体であるL-トリプトファン、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、5-HT1D作動薬の作用を解析する予定である。また、大腸・食道上皮については、まずRT-PCR法で5-HT受容体の各サブタイプの発現を確認したのち、発現しているサブタイプのATP分泌における役割を解析していく。引き続いて、骨盤臓器痛における上皮からのATP分泌の関与を明らかにするため、(3)各種の骨盤臓器痛モデルにおいて上皮からのATP分泌量は増加しているのか、(4)骨盤臓器痛におけるATP分泌過多があれば、それをセロトニンシグナル系の賦活で抑制できるのか、を検討する。骨盤臓器痛モデル動物としては、シクロフォスファミド腹腔内投与による間質性膀胱炎モデルラット(膀胱痛を伴う)、周生期母子分離ストレスによる過敏性腸症候群モデルラット(大腸痛を伴う)を当初の目的通りに用いる。加えて、前胃・腺胃境界部の結紮による胃食道逆流症モデルラットも作成し、食道の内臓知覚過敏におけるATP分泌の関与をも明らかにしていく。セロトニンシグナル系を賦活化する薬剤としては、上記(1)の解析において最も効果の高かった薬剤を使用する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度では、おのおのの実験データが良好でばらつきも少なかったために、使用した動物数や薬品量が当初予定よりも大幅に下回った。そのため、次年度に繰り越した研究費が出たが、平成24年度は使用する薬剤が大幅に増え、それに伴って使用する動物数も増加するので、研究費は繰り越し分と合わせて主に実験動物と各種薬剤に使用する予定である。また、膀胱上皮からのATP分泌に対するセロトニンの役割についての論文の投稿を1報、国内学会参加と米国での国際学会参加を各1回予定しているので、これらにも研究費を使用する。平成23年度に比べて、国内学会参加が1回増える予定だが、これには繰り越し分の研究費を充てる予定である。
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Research Products
(2 results)