2011 Fiscal Year Research-status Report
幼若期ドーパミン神経系傷害が成熟後の痛覚機構におよぼす影響に関する研究
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23590721
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
緒形 雅則 北里大学, 医療衛生学部, 講師 (20194425)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
秋田 久直 北里大学, 医療衛生学部, 准教授 (70118777)
野田 和子 北里大学, 医療衛生学部, 講師 (60050704)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 幼若期ドーパミン神経系傷害 / 痛覚 / 痛覚過敏 / 6-OHDA |
Research Abstract |
生後5日目の雄ラットの両側側脳室に6-hydroxydopamineを注入し、幼若期ドーパミン(DA)神経系傷害動物を作製し、成熟後の痛覚機構におよぼす影響を行動学的解析により調べた。今年度は行動試験として(1)ホルマリン試験に対するメタンフェタミン(MAP)の影響、(2)オープンフィールド(OF)試験、(3)明暗箱試験の3つの試験を行った。また行動実験終了後、免疫組織化学染色を行い、DA神経系とノルアドレナリン神経系の損傷を確認した。 幼若期DA神経系傷害動物は,ホルマリン注入に伴う炎症性疼痛に対して痛覚過敏反応を示した。またMAPの2mg/kg腹腔内投与は、対照群において炎症性疼痛抑制作用を示したが、幼若期DA神経系傷害動物の炎症性痛覚過敏反応には影響を与えなかった。このことは、MAPが幼若期DA神経系傷害動物の青年期多動に対して抑制効果を持つことが報告されていることより、青年期多動と今回観察された痛覚過敏の機序の相違を示唆している。 OF試験では幼若期DA神経系傷害に伴う自発運動量の増加とフィールド内中心領域滞在時間の増加が観察された。また明暗箱試験では、対照群、幼若期DA神経系傷害群ともに明るい箱に比べ、暗い箱内の滞在時間が有意に長かった。さらに対照群と幼若期DA神経系傷害群間では、明るい箱の滞在時間に有意な差は認められなかった。これらの結果は幼若期DA神経系傷害は、痛みを伴わない不安行動にも影響をおよぼすことを示唆する一方で、行動試験の種類により影響が異なることを示しており、今後の行動実験結果を解釈していく上で意義あるものである。 また免疫組織化学染色の結果より中脳DA神経細胞の顕著な減少は確認されたが、橋の青斑核ノルアドレナリン神経細胞の損傷は認められなかった。このことは、ノルアドレナリン神経系傷害が今回観察された痛み・不安行動変容の主要因でないことを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した3種類の行動実験、(1)ホルマリン試験に対するメタンフェタミンの影響、(2)オープンフィールド試験、(3)明暗箱試験を着手し、ある程度の良好な結果を得られたことから、H23年度はおおむね順調に研究が進んだといえる。しかし、行動実験の例数が全ての実験例で6例であり、必ずしも十分とは言えない。またメタンフェタミンの効果実験では、2mg/kgの用量の効果のみであるため、より低用量・高用量での実験を補足した後に、次の行動実験へと進んでいく予定である。 またオープンフィールド試験では幼若期DA神経系傷害により不安行動の減少が観察されたが、明暗箱試験の結果からは不安行動に影響は認められなかった。今後、それら2つの不安行動を評価する行動試験から得られたデータをさらに詳細に解析し、得られた結果の相違の意味を解釈する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
・H24年度は、ホルマリン試験に対する低用量(1mg/kg)、高用量(2mg/kg)のメタンフェタミンの影響実験から着手し、引き続き新たな行動実験を行うこととする。新たな行動実験としては、(1)痛みの情動的側面を評価する条件づけ場所嫌悪試験、(2)痛みを伴わない不安行動評価として高架式十字迷路試験の2つを行う。 また後肢足底へのホルマリン注入による脳・脊髄内のc-fos蛋白発現様式を免疫組織化学染色により調べ、幼若期ドーパミン神経系傷害が痛み感覚情報処理回路網におよぼす影響を解析する。・H25年度はH24年度のc-fos蛋白発現実験の結果をもとに、以下の実験を行う。幼若期ドーパミン神経系傷害にともないc-fos蛋白の発現に変化が観察された場合は、その発現変化の背景にある、痛み感覚情報処理回路を同定するために逆行性トレーサー注入実験、さらに脳領域の詳細な同定のために、神経伝達物質等との二重免疫組織化学染色を行う。また、c-fos蛋白の発現変化が観察された脳領域が、ドーパミン神経系の直接投射領域である場合は、生後5日目に当該領域に6-OHDAを局所注入し、幼若期ドーパミン神経系局所破壊が成熟後の炎症性痛覚行動に与える影響を調べる。一方、幼若期ドーパミン神経系傷害がc-fos蛋白の発現に影響を与えなかった場合は、痛覚抑制系と痛みの情動的側面に関与する神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン等)ならびにその受容体等を対象とした免疫組織化学染色を行う。また、免疫組織化学染色により変化が観察された神経伝達物質関連蛋白ならびに神経可塑性関連物質(CREB、ERK1/2)を対象としたウエスタンブロット解析を行い、定量的評価をする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H23年度は、既存の抗体並びに免疫染色関連試薬がある程度使用可能であったため次年度使用額が発生したが、H24年度は、それら抗体と免疫染色関連試薬の補充に当該研究費を用いる予定である。 またのH24年度の研究費は交付申請書に示したごとく、物品費の多くは、現在、行動解析システムを有していない高架式十字迷路試験装置システムの購入にあてられる。その他の物品費としては試薬代、実験用器具代、動物代である。また旅費はH24年度に開催される日本生理学会での発表に使用する予定である。
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Research Products
(1 results)