2011 Fiscal Year Research-status Report
腸幹細胞動員における神経系シグナルの関与の検討:幹細胞分化可視化マウスを用いて
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23590953
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Research Institution | Kansai Medical University |
Principal Investigator |
比舎 弘子 関西医科大学, 医学部, 講師 (90151422)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
保坂 直樹 関西医科大学, 医学部, 講師 (30388459)
槇 政彦 関西医科大学, 医学部, 講師 (80297001)
神田 晃 関西医科大学, 医学部, 講師 (70375244)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 腸上皮幹細胞 / 神経線維 / 神経シグナル / 小腸 |
Research Abstract |
1.小腸上皮幹細胞および粘膜固有層内間葉系細胞と神経線維との連携の組織学的検討 腸上皮幹細胞のマーカーとしてLgr5分子が知られているが、この分子を検出できる高感度の抗体はまだ得られていない。腸上皮幹細胞はクリプト底部に存在し、パネート細胞に接着した状態で存在する。したがって、パネート細胞を検出すれば、腸上皮幹細胞の位置を間接的ではあるが推定できる。神経細胞のマーカー(β-III tubulinやS-100)とパネート細胞のマーカー(lysozyme)とでマウス小腸パラフィン切片と凍結切片を二重染色して蛍光顕微鏡で観察したところ、クリプト直下の間葉系細胞近傍に神経叢が形成されている像が散見された。この結果は、神経線維が小腸上皮幹細胞に直接接触せずに間葉系細胞を介して、或は神経伝達物質を介して、上皮細胞の分化や成熟を制御している可能性を示唆している。小腸上皮細胞や粘膜固有層内間葉系細胞におけるアドレナリン受容体やアセチルコリン受容体の発現についても蛍光顕微鏡で検討したが、特異的に染まる細胞は検出できなかった。2.小腸オルガノイド形成過程における神経伝達物質の影響 マウス小腸クリプトのゲル内培養系に神経伝達物質(VIPやSubstance P)を加えて培養し、小腸オルガノイドの形成に対するそれらの物質の影響を解析したところ、VIPでは濃度依存的に小腸オルガノイド形成が抑制され、0.1nM添加でオルガノイド数は無添加群の半分以下になった。一方、Substance Pでは、オルガノイド形成に対する抑制や刺激作用は見られなかった。この結果は、VIPが腸上皮幹細胞の分化・成熟を制御している可能性を示唆しており、今後さらに詳しく検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の交付申請書に記載した研究目標は、(1) 神経線維と小腸上皮幹細胞との間に物理的接触があるか組織学的に検討することと、(2) 小腸クリプト培養系でのオルガノイド形成が神経伝達物質により影響を受けるか解析することであった。これらの研究テーマを詳しく検討するための実験を行い、その結果、(1) クリプト直下の間葉系細胞近傍に神経叢が形成されていること、(2) 神経伝達物質であるVIPにより小腸クリプト培養系でのオルガノイド形成が抑制されることを明らかにした。これらの結果から、間葉系細胞近傍の神経線維が神経伝達物質を分泌することにより上皮細胞の分化や成熟を制御している可能性が示唆された。したがって、平成23年度の研究目標をほぼ達成したと考えられ、また、これらの結果から次年度の研究の方向性が導きだされた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.神経伝達物質の小腸オルガノイド形成抑制作用の検討 神経伝達物質であるVIPが腸上皮幹細胞の増殖・分化を制御している可能性を解析するため、クリプト内或はその近傍の細胞表面にVIP受容体が発現しているか、クリプト近傍の神経叢内にVIPタンパクの蓄積があるかを免疫組織学的に解析する。また、VIPによる小腸オルガノイド形成抑制作用の機序を解析するため、VIP添加によりオルガノイド形成細胞の分化系譜に変化が起こったかをオルガノイド切片の免疫染色により検討する。さらに、オルガノイド形成速度の変化を調べるため、タイムラプス撮影をおこなう。タモキシフェン(Tx)投与により個々の腸上皮幹細胞とその子孫細胞を3色(青、オレンジ、赤)のいずれかの蛍光で標識できるLgr5-CreERT2/rainbowマウスやBmi1-CreERT2/rainbowマウスの小腸クリプトのゲル内培養系に神経ペプチド(VIP等)を添加し、腸上皮幹細胞の増殖・分化への影響を蛍光顕微鏡でタイムラプス撮影して検討する。2.小腸上皮幹細胞の分化・成熟に対する神経シグナルの影響 上記の腸幹細胞分化可視化モデルマウスの小腸を Tx投与後経時的に採取して凍結切片を作成する。これを神経細胞のマーカー(β-III tubulinやS-100)に対する抗体、或は神経ペプチド(VIP等)受容体に対する抗体で染色し、細胞回転の早い(いずれかの蛍光を発する腸上皮細胞が多い)クリプトと遅いクリプトにおける神経線維量や神経ペプチド受容体の発現量の差異を組織学的に検討して、細胞回転と相関性があるか検討する。Tx処理した上記モデルマウスに神経ペプチド等の神経伝達物質を投与し、小腸切片を作製する。蛍光顕微鏡で、クリプト内の蛍光標識細胞数、分化方向、或はそれらの経時的変化を観察し、小腸上皮幹細胞に対する神経シグナルの影響を解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本学所蔵の蛍光顕微鏡や蛍光タイムラプス撮影装置を使用するので、設備備品費は不要である。来年度は特にマウスの腸培養を重点的に行うので、消耗品として、実験動物、細胞培養試薬、培養液、培養器具が必要であり、これらに83万円を計上した。免疫組織染色用抗体10本程度の購入費として55万円を当てている(抗体は1本あたり3-8万円)。また、研究成果を学会で発表する予定で、学会出張費(2回分)10万円と、学会参加費(2回分)2万円を計上した。
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Research Products
(1 results)