2011 Fiscal Year Research-status Report
IdーNotchシグナル連関による時空間的血管新生制御機構の解明とその治療応用
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23591099
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西山 功一 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80398221)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 発生・分化 / 血管新生 / ライブイメージング / 転写因子 / モデル化 |
Research Abstract |
本年度において、1)血管内皮細胞を選択的かつ経時的に追尾することができる解析システムを確立したことで、これまで捉えられてこなかった血管内皮細胞が樹状様のネットワーク構造をとる過程の血管内皮細胞動態を明らかにした。出芽的血管新生を模す培養モデルを用いて解析した結果、血管の伸長や分岐形成を担う細胞動態は、これまでの想定以上に極めて複雑であることが分かった。血管内皮細胞は細胞の相対的位置関係を経時的に変化させ、細胞が位置的に混ざり合い(細胞の混ざり合い現象)、しかし全体としては秩序だった樹状様の構造を形成していくことが分かった。また、これまで特別な細胞と位置づけられてきた先端細胞に関しても同様に入れ替わりが起きていた(先端細胞の入れ替わり現象)。さらに、マウス網膜血管新生において同様の現象が生じていることも分かった。 2)次に、ここで捉えられてきた細胞動態の特性を説明する指標を設定し、その動態を定量評価できる解析系を構築した。薬理学的介入時の細胞動態と血管形態の変化を定量的に解析することで、血管伸長時の血管内皮細胞動態を制御する分子実態の一端を明らかした。血管新生促進因子VEGFは、血管内皮細胞の平均速度の増加や方向性運動の質的な向上、さらに先端細胞の遊走距離の増加を介して、血管伸長に対して促進的に作用していること、VEGFによる血管伸長の一部は、Dll4-Notchシグナルを介した内皮細胞間相互作用により負に制御され、また内皮細胞-壁細胞間の相互作用により正に制御されていることが分かった。 今後、Id1分子による遺伝的な介入を行い上述の解析を行うことで、個々の血管内皮細胞におけるId1発現のばらつきや経時変化が、血管内皮細胞の集団的な運動そして形態形成へ、いかに有機的に繋がるのかを明らかにし、血管内皮細胞が血管の"かたち"をつくる際の巧妙なしくみの一端を理解する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の当初の研究計画の中心に、1)血管新生過程における血管内皮細胞動態の同定・定量化、2)アデノウイルによるId1遺伝子操作時の血管内皮細胞動態と血管形態の変化の解析、3)Id1遺伝子改変マウスの作製 を掲げた。本年度において、1)の計画は十分実行できていると考えられるが、2)においては、これまで用いてきた培養系において、アデノウイルスによる感染効率が当初の予想に反して非常に低かったため、同遺伝子介入法は血管形態変化の解析には不適切と判断し、方法論の変更を余儀なくされた。並びに、Id1の遺伝子改変マウスの作製が遅れていることも合わせ、全体としての研究目的の達成度は、現時点においてやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、Id1発現が、血管内皮細胞の集合的運動とそれによる血管形態形成といかに結びつくのかを、現在実験系を確立中である新しい血管新生モデルや、現在樹立中であるId1の遺伝子改変マウスを用いて本年度と同様な解析手法にて検討する。また、遺伝子改変マウスを用いて個体レベルでの血管形態の変化をも解析する。さらに、Id1による血管内皮細胞動態の制御を担う中枢の分子や制御機序を分子生物学的に明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度においては、当初計画していたId1の遺伝子改変マウスの作製が遅れている。よって、そこで使用することを見込んでいたES細胞培養に関する諸費用や、遺伝子改変マウスを樹立する際に生じるマウス購入・飼育費を含めた諸費用が不要であった。次年度において遺伝子改変マウス作製を引き続き行う予定であり、そのために必要となる諸費用は本年度から次年度へ繰り越す研究費から主に支出する。また、次年度以降に請求している研究費は、当初の計画通り、Id1の下流候補分子を解析するための物品費等の諸費用や成果発表にかかる諸費用に使用する。
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