2012 Fiscal Year Research-status Report
IdーNotchシグナル連関による時空間的血管新生制御機構の解明とその治療応用
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23591099
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西山 功一 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80398221)
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Keywords | 発生・分化 / 血管新生 / ライブイメージング / 転写因子 / モデル化 |
Research Abstract |
出芽的血管新生を模す3次元組織培養モデルを用いた昨年度までの検討において、伸長や分岐などの血管のかたちをつくる際の内皮細胞の集団的運動は、これまでの想定以上に極めて複雑であることが分かってきた。血管構造が成長する際には、血管内皮細胞はお互いの細胞の位置関係を時々刻々と変化させることで位置的に混ざり合い(細胞の混ざり合い現象)、しかし全体としては秩序だった樹状様の血管構造をつくっていくことが明らかとなった。本年度においては、血管内皮細胞動態の制御システムをより体系的に理解していくために数理モデル化を進めた。タイムラプス観察から捉えられた細胞運動動態に基づき、血管伸長時の細胞運動の状態を方向性とスピードで規定し、それらの状態が確率的に遷移する一次元離散モデルを組んだ。血管伸長因子VEGFによる血管伸長をシミュレーションした結果、この単純な組み込み仮定によってVEGFによる血管伸長とその際の細胞動態の特徴をある程度再現できた。また、VEGFは細胞の運動状態の遷移確率に作用している事が明らかとなってきた。 次に、これまでにId1の下流候補分子としてEphrinB2を同定していることから、1)HLH転写因子Id1が細胞の運動方向性の時空間的制御に関与していること、また2)その制御様式として細胞選別現象(セルソーティング)を想定し、培養細胞実験によりその作業仮説の検証を行った。血管内皮培養細胞にId1の過剰発現、ノックダウンによる発現抑制処理を施し、それぞれQ-Dotでマーキングした上で両処理群を混ぜ、24時間タイムラプス観察し細胞選別現象の有無を定量的に検討した。結果、予想に反してId1による明らかな細胞選別現象は起こっていないことがわかってきた。現在、他の集団的細胞運動の制御機構やその機能分子に関してさらなる検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画の中で想定したId1の標的機能分子・軸を中心に解析してきたが、検討の結果、他の下流分子の模索等、研究計画の見直しも必要となってきた。また、Id1の遺伝子改変マウスの作製が遅れている。しかし、分子レベルを含む生物学的実験以外での解析においては(モデル化による細胞動態の体系的理解など)進んできており、今後分子的解析と融合させる事により、研究計画をより効率的に遂行できると考えられるため、現在までの達成度を“やや遅れている”と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、Id1の時空間的発現が、血管内皮細胞の集合的運動の制御と血管形態変化にいかに結びつくのかを、現在確立中である新しい血管新生実験モデルや樹立中であるId1の遺伝子改変マウスを用いて、本年度と同様な解析手法にて検討する。また、本年度において中心的に進めてきた数理モデルを使ったin scilico解析を組み合わせる事で、生物学的実験のみでは見えてこない、もしくは不得手な部分に踏み込んでいく。さらにマウス個体でも検証することで、Id1による血管内皮細胞動態の制御を担う中枢の分子や制御機序を分子生物学的に明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画していたId1の遺伝子改変マウスの作製が遅れている。次年度において遺伝子改変マウス作製を引き続き行う予定であり、そのために必要となる諸費用は本年度から次年度へ繰り越す研究費から主に支出する。次年度以降に請求している研究費は、当初の計画通り、Id1の下流候補分子を解析するための物品費等の諸費用や成果発表にかかる諸費用に使用する。また、研究計画を効率よく実行するために技術補佐員やアルバイトを雇用するための人件費にも使用する予定である。
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