2011 Fiscal Year Research-status Report
肺高血圧症におけるプロテイナーゼ活性化型受容体の役割解明と治療応用
Project/Area Number |
23591104
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
平野 勝也 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (80291516)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平野 真弓 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80336031)
阿部 弘太郎 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20588107)
小田 義直 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70291515)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 肺高血圧症 / 血管内皮細胞 / 血管平滑筋細胞 / トロンビン / 受容体 / モデル動物 |
Research Abstract |
肺高血圧症発症初期の病態に重要な役割を果たす内皮バリアー機能について、培養内皮細胞を用いてバリアー機能に及ぼすトロンビンの作用とその機序を明らかにした。その結果、トロンビンによる内皮バリアー障害には、カルシウム非依存性、Rhoキナーゼ依存性に細胞膜直下で生じるミオシン軽鎖の2リン酸化と細胞辺縁部におけるアクチン束の形成が重要な役割を果たすという新知見が得られた。平滑筋細胞と異なり、内皮細胞においては、ミオシン軽鎖は1リン酸化と2リン酸化が異なる制御を受けることが初めて明らかとなった。エーザイ株式会社と実験用試料提供契約書(MTA)を取り交わし、開発中のトロンビン受容体拮抗薬を入手した。モノクロタリン皮下注により作製したラット肺高血圧モデルにトロンビン受容体拮抗薬を経口投与させると、体循環系の血圧や心拍数に影響を及ぼさずに、右室収縮期圧と右室肥大が抑制されることを見出した。これにより、肺高血圧の病態形成にトロンビン受容体が関与するという本研究の作業仮説の妥当性と、トロンビン受容体を標的とした肺高血圧治療という本研究の最終目標の実現可能性が強く支持された。ラットトロンビン受容体PAR1の組織染色に最適の抗体に関する知見が乏しい。かつて、ラット子宮平滑筋は妊娠に伴いトロンビン受容体PAR1の発現が亢進することを報告した(Shintani, Hirano et al., Br J Pharmacol 2000)。この独自の知見に基づき、非妊娠子宮平滑筋と妊娠子宮平滑筋の染色の差を指標にラットPAR1に最適の抗体を探索する戦略を立てた。2種類の子宮平滑筋の組織標本を作製し、市販の抗体のいくつかを試用した。ラットPAR1の組織染色に供せる抗体の候補が得られた。ヒト肺高血圧剖検例の組織染色については、九州大学病理学教室との共同研究を開始し、症例の選択を完了した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度において、トロンビン受容体拮抗薬を入手し、未だ1種類のモデル動物での解析ではあるが、肺高血圧の病態形成に対して抑制効果を示す結果が得られたことは、本研究の全体の進行に重要な成果となった。肺高血圧モデル動物を用いた治療的介入試験は、本研究の出口に向けた最も重要な研究項目であるという観点から、この成果は本研究の行く末を決める重要な成果であり、新しい視点に立った肺高血圧治療法の開発の実現性が高まったと言える。初年度において、残り2年間の具体的な目標と見通しを立てることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
モノクロタリン肺高血圧モデルにおいてトロンビン受容体拮抗薬の肺高血圧発症予防効果が確認された初年度の成果を発展させ、今度は、どのような肺高血圧の病態に効果が高いか、予防効果のみならず、治療効果があるか否かを明らかにする。そのため、複数の肺高血圧モデルを用いた研究が主体となる。ヒト肺高血圧組織像を唯一再現できる独自開発のSHNモデルの他、低酸素モデル、自然発症肺高血圧ラットなどを用いて解析を予定する。これにより、トロンビン受容体拮抗薬の病態形成に及ぼす予防効果と完成した肺高血圧病態に対する治療効果を検証する。さらに、モデル動物の摘出血管標本を用いた生理学解析、病理解析、生化学解析により、病態におけるトロンビンに対する血管反応性の変化、トロンビン受容体の発現変化と病理所見との相関などを明らかにする。ラットトロンビン受容体の発現解析に最適の抗体を決定する必要がある。培養内皮細胞を用いて、トロンビンによる内皮バリアー障害の分子機序の詳細を明らかにする。正常肺動脈、モデル動物の肺動脈から内皮細胞を樹立し、トロンビンに対するバリアー機能障害の相違とその分子機構を明らかにする。ヒト剖検例の肺標本の組織染色を行い、トロンビン受容体の発現変化、重症度との相関、組織所見(内膜肥厚、中膜肥厚、外膜線維化、叢状病変)との相関を明らかにし、ヒト肺高血圧におけるトロンビン受容体の関与を明らかにする。上記のモデル動物の解析とヒト標本の解析を並行して実施することにより、肺高血圧の病態におけるトロンビン受容体の役割を明らかにし、これを標的とした新たな治療戦略を確立するとした本研究の目的を達成する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度の成果を受け、次年度以降の研究の中心となり、最も重要な研究は、モデル動物実験と治療介入試験となる。実験動物の購入、飼養費用に研究費の40%を充てる。次に重要な研究が、モデル動物と剖検例の組織解析、トロンビン受容体の発現解析である。組織染色に使用する抗体の購入を中心に、染色などに必要なその他の試薬の購入に研究費の25%を充てる。培養試薬や器具の購入に研究費の20%、溶液調整などの一般試薬の購入に研究費の10%を充てる。次年度は少なくとも国内学会における研究成果発表を予定する。研究費の5%を旅費に充てる。
|