2012 Fiscal Year Research-status Report
肺高血圧症におけるプロテイナーゼ活性化型受容体の役割解明と治療応用
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23591104
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
平野 勝也 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (80291516)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平野 真弓 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80336031)
阿部 弘太郎 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20588107)
小田 義直 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70291515)
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Keywords | 肺高血圧 / 血管内皮細胞 / 血管平滑筋細胞 / トロンビン / 受容体 / モデル動物 / 受容体拮抗薬 |
Research Abstract |
肺高血圧発症初期の病態に重要な役割を果たす内皮バリアー機能障害のメカニズムを明らかにするために、ミオシン軽鎖の2つのリン酸化部位(T18およびS19)をアラニンに置換したリン酸化抵抗性のミュータントを発現させるアデノウイルスベクター発現系を確立した。培養内皮細胞に感染させると、内在性のミオシン軽鎖の発現が抑制され、細胞に発現するミオシン軽鎖がミュータントに置換されることを、免疫ブロット法により確認し、目的達成に有用な実験系となることが明らかとなった。初年度の研究において、ミオシン軽鎖の1リン酸化と2リン酸化は個別に制御され、バリアー機能障害には、Rhoキナーゼ依存性、カルシウムシグナル非依存性に、細胞間接触部の細胞膜直下に生じるミオシン軽鎖の2リン酸化反応が重要な役割を果たすという新知見を明らかにしていた。今年度確立したミオシン軽鎖のミュータント発現系を用いて、今後2リン酸化の役割を決定する。 肺高血圧モデル動物を用いて、トロンビン受容体拮抗薬(アトパクサー:エーザイ株式会社提供)の予防及び治療効果の検証を、初年度に引き続いて実施した。その結果、モノクロタリン誘発肺高血圧モデルラットにおいて、モノクロタリン皮下注の翌日よりトロンビン受容体拮抗薬を経口投与しておくと、①心拍室や体循環系血圧に影響を及ぼさずに、②右室収縮期血圧および肺血管抵抗の上昇、肺動脈肥厚病変の形成、右室肥大を抑制し、③生存率を改善することを見出した。さらに、モノクロタリン皮下注2週後、すなわち、肺動脈圧が十分に上昇した後から、トロンビン受容体拮抗薬を経口投与しても、生存率の改善傾向が認められた。これまでに得られた知見から、トロンビン受容体拮抗薬は新たな肺高血圧治療薬となることが期待された。この成果に基づいて、エーザイ株式会社と特許の共同出願を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・トロンビン受容体拮抗薬の肺高血圧予防効果を、血行動態、組織学所見、および生存率の指標において確認し、さらに生存率の改善を指標に治療効果を明らかにすることができた。その結果、「トロンビン受容体アンタゴニストを有効成分とする肺高血圧症の予防治療剤」知的財産権の出願に至った。 ・肺高血圧発症初期に重要な役割を果たすバリアー障害の分子メカニズムの新知見を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
・肺高血圧の病態におけるトロンビン受容体の役割を明らかにし、新たな治療法を開発する研究のさらなる推進のために、以下の研究を計画する。① モノクロタリン肺高血圧モデル動物を用いて、トロンビン受容体拮抗薬の肺高血圧予防及び治療薬としての有効性を確立する。②他の肺高血圧モデル動物においても、トロンビン受容体拮抗薬の予防、治療効果を検証する。③トロンビン受容体拮抗薬の治療効果の機序を明らかにするために、モデル動物の摘出肺動脈標本を用いて生理学、病理学、生化学解析を実施する。④肺高血圧の発症、進展におけるトロンビン受容体の役割を決定するために、トロンビン受容体PAR1ノックアウトマウスを入手し、それを用いて肺高血圧モデルを作製し、病態解析を行う。⑤以上の動物実験の知見を臨床応用するための基盤として、肺高血圧患者および剖検例の病理解析を行い、トロンビン受容体の発現、病理所見との関連を明らかにする。 ・肺高血圧発症初期に重要な役割を果たす内皮バリアー障害の機序解明 2年度で確立したミオシン軽鎖リン酸化抵抗性ミュータントのアデノウイルス発現系を用いて、1リン酸化と2リン酸化の機能的相違、および、バリアー障害における2リン酸化の時間的空間的な役割を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
最も重要な研究は、ノックアウトマウスも含めた動物実験となる。動物実験に必要な経費に研究費の45%を当てる。次に重要な研究が、ヒト標本の病理解析であり、標本作成、組織染色に必要な消耗品費に、研究費の20%を充てる。培養試薬、培養器具、一般研究用試薬の購入に研究費の10%を充てる。平成25年度は最終年度となるため、成果発表に向け、英文校正、論文別刷りの経費に研究費の10%を、国内および国外の学会参加のための旅費に研究費の15%を充てる。
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