2011 Fiscal Year Research-status Report
妊娠期に特有な後天性・血栓性微小血管障害症の分子病態とその制御機構解析
Project/Area Number |
23591425
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
藤村 吉博 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (80118033)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松本 雅則 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (60316081)
佐道 俊幸 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (50275335)
早川 正樹 奈良県立医科大学, 医学部附属病院, 研究員 (30516729)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 妊娠中毒症 / HELLP症候群 / 妊娠関連TMA / 正常妊娠経過 / ADAMTS13 / VWF / 胎盤E-NTPDase / 活性型VWF |
Research Abstract |
本研究はHELLP症候群等の妊娠期に特有な血栓性微小血管障害症(TMA)に焦点をあて、その病態解析に重要なvon Willebrand因子(VWF)、VWF特異的切断酵素ADAMTS13、そしてVWF依存性の高ずり応力惹起血小板凝集を調節する胎盤由来E-NTPDase(ADP分解酵素)の3標識について解析する事を目的とする。患者集積については、1998年以降、奈良医大輸血部で実施している本邦TMA患者登録機構で、2011年末迄に1085例のTMA患者を同定しているが、このうち妊娠関連TMA患者は20例であった。これらは後天性TMAが19例(妊娠以外の基礎病態不明16例、HELLP症候群2例、そして富山の生肉食中毒事件による病原性大腸菌O-111感染1例)で、先天性TTP(Upshaw-Shulman症候群、USS)が1例であった。後天性TMAの中で1例は死後の剖検にて診断された。またUSSの1例は死後約3年経過後、ADAMTS13遺伝子解析にて診断された。これより、妊婦不審死の原因にTMAが大きくかかわっている事が示唆された。昨年末より、学内の倫理委員会承認を得た後、正常妊婦の血液検体収集を開始し、現在までに約200人強の採集を行い、これと平行してADAMTS13とVWFの解析を実施している。中間成績では、既報の如く妊娠経過中、VWFは質量共に著増していたが、ADAMTS13活性はほぼ不変で、これはVWFを基質に用いる旧法での他家測定結果と大きく異なる新知見であった。また新たに、分娩あるいは帝王切開等の出血やストレス負荷によって、術後ADAMTS13活性は大きく低下する事が判明した。以上より、妊婦検体の解析は妊娠中のみならず、分娩後経過も視野に入れて観察することの重要性が考えられた。現在、得られた検体について、前記の他、E-NTPDase活性測定を開始している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
止血因子VWFは主に血管内皮細胞で産生されるが、ここで産生された超巨大VWF多重体(UL-VWFM)は一旦Weibel-Palade体(WPB)という細胞内小器官に蓄積され、ここから様々な生理的また病的刺激により血中に放出される。かかる刺激剤として、epinephrine、DDAVP、志賀毒素(Stx)、炎症性サイトカイン、低酸素などがある。最近、志賀毒素は血管内皮表面のGb3 受容体に結合してWPBからUL-VWFMの他、t-PAやp-selectinも放出される事が判明した。P-selectin は活性化補体C3bの内皮細胞上の受容体としても働き、またt-PAは内皮細胞表面のトロンボモジュリンを切断することにより、血管内皮の「向」血栓機能は著しく高まり、微小血管で血小板血栓が生じる。志賀毒素にはStx-1とStx-2の二種類があるが、毒性はStx-2が約100倍強いとされている。我々が経験した富山の生肉食中毒事件による病原性大腸菌O-111感染妊婦ではStx-2が主体で、患者脳MRIで梗塞像が確認されており、このメカニズムの解析を現在実施中である。また妊娠経過中に突然死した2名の女性のうち、一人は死亡1年後に先天性TTP(Upshaw-Shulman症候群、USS)であることを同定した。また他の一例は当初、妊娠関連の不審死とされたが、剖検による血液と組織解析にて後天性TTPと診断し得た(J Obstet Gynaecol Research, in press)。正常妊婦検体に関しては個々の患者が満期週数に至るまでの経過を追うため、検体の採集に時間を要しているが、現在までに約200人強の妊婦検体を順調に収集することができている。これら患者解析については順次ADAMTS13,VWF解析を施行しており、現在までにADAMTS13活性の動向について新知見を得ることもできている。
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Strategy for Future Research Activity |
1)志賀毒素の「向」血小板血栓機能の解析:前記の病原性大腸菌O-111感染妊婦は当初、溶血性尿毒症症候群(HUS)の診断であったが、間もなく脳症を併発しMRI像で脳梗塞が確認された。一般に、同菌感染で妊婦は重篤化し易いと云われているが、その原因の一つに、妊娠経過中のVWF著増が関与していると考えられる。これより、正常血液に精製VWFを添加したモデル血液にStxを加え、高ずり応力下で惹起される血小板凝集を観察する。2)妊娠経過でのADAMTS13、VWF、胎盤E-NTPDaseの動態解析:正常妊婦検体の採集を引き続き行い、ADAMTS13活性測定、VWF抗原量とマルチマー解析、胎盤E-NTPDase活性の測定を施行する。検体の収集に関しては、分娩後にADAMTS13活性の低下が見られる傾向が認められたため、分娩後1ヶ月の採血を新たに追加し解析を行う予定である。3)「活性型VWF」の調整と、これと特異的に反応するモノクローナル抗体の作成:精製VWFMはこれ単独では血小板凝集能を持たないが、蛇毒ボトロセチン等の非生理的物質と結合して複合体を形成することにより「活性型」に転じ、血小板GPIb受容体との結合脳を得て血小板凝集を引き起こす。さらに糖鎖含有豊富な精製VWFMをシアリダーゼ処理した「脱シアル化VWF (asialo-VWF)」は単独で血小板凝集を生じることが判明しており、活性型VWFの一表現型であると考えられる。これより血漿から精製したVWFMについて2種類の活性型VWFM、即ち、一つはVWFM-ボトロセチン複合体で、もう一つはasialo-VWFの作成を行う。これらを抗原としてマウスに特異的モノクローナル抗体を作成し、得られたクローンよりintact-VWFMとは反応しないが、「活性型VWF」と特異的に反応するクローンを鑑別する。その後、得られた抗体の特性を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の研究計画で述べた検討項目で使用する機器は当研究室や本学の他教室に全て揃っているため研究費は、その殆どを消耗品に使用する予定である。1)VWF、ADAMTS13、蛇毒ボトロセチン、志賀毒素の精製品:VWFとADAMTS13はアフィニテイーカラムと分子篩カラムを組み合わせてヒト血漿(日本赤十字血液センターから期限切れの廃血を譲渡して頂く)から精製する。南米産の毒蛇であるBothrops jararacaの毒液から精製する蛇毒ボトロセチンは現在ワシントン条約規制品となり乾燥蛇素毒の輸入が不可能となった。しかし、我々は1990年代にこの蛇の毒線cDNAライブラリー作成に成功し、最近遺伝子発現ボトロセチン2の作成に成功した(Biochemistry, submitted)。この精製ボトロセチン2を用いて実験を行う。志賀毒素は市販品を購入する予定である。2)ADAMTS13活性、抗原、VWF抗原、E-NTPDase抗原の測定:基本的には市販のELISAキットを購入して行うが、非市販品についてはin-houseキットを作成して行う。3)VWFM解析:VWF解析は高度の技術と熟練の双方が必要である。UL-VWFMの検出はさらに困難で、本邦でこの検出ができるラボは当研究室のみと云って過言でない。さらに当ラボでは最近、より再現性の高いゲル組成配分と解析方法を解明した。コスト的には、電気泳動の際に使用するアガロースが1ゲル当たり1万円程度必要である。4)高ずり応力血小板凝集と高ずり応力下の壁血栓形成:前者は当ラボの備品となっているcone-plate型凝集計で行う。後者はアルガトロバン処理全血を用いて行う。高価な機器システムが必要であるが、本学の血栓制御医学教室(杉本充彦 教授)に備品として備え付けられてあり、彼らとの共同研究の一環として行う。
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Research Products
(16 results)
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[Journal Article] ADAMTS13 activity may predict the cumulative survival of patients with liver cirrhosis in comparison with the Child-Turcotte-Pugh score and the MELD score.2012
Author(s)
Takaya H, Uemura M, Fujimura Y, Matsumoto M, Matsuyama T, Kato S, Morioka C, Ishizashi H, Hori Y, Fujimoto M, Tsujimoto T, Kawaratani H, Kurumatani N, FukuiH.
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Journal Title
Hepatol Res.
Volume: 42
Pages: 459-472
DOI
Peer Reviewed
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